Schneider-Kreuznach Symmar 210mm F5.6は、ドイツの名門光学メーカー、シュナイダー・クロイツナッハが製造した大判カメラ用レンズです。
Symmarという名称自体には長い歴史があり、初期設計は1920年代までさかのぼります。その後、大判写真用の標準レンズとして長期間にわたって発展していきました。
今回扱う旧型Symmar 210mm F5.6最大の特徴は、
コンバーチブル構造。
通常は210mm F5.6として使用しますが、前側のレンズセルを取り外して後群だけで使用すると、約370mm F12の長焦点レンズとして撮影できます。
一本で二つの焦点距離。
大判カメラの荷物を減らしたい写真家にとって、非常に合理的な仕組みでした。
Schneider-Kreuznach Symmar 210mm F5.6とは
旧型Symmar 210mm F5.6の代表的な仕様は次のとおりです。
- 焦点距離:210mm
- 開放F値:F5.6
- 光学構成:4群6枚
- 光学形式:対称型Plasmat系
- 包括角:約70°
- イメージサークル:約297mm前後
- 主な対応フォーマット:4×5判、5×7判
- コンバート時:約370mm F12
- コンバート方法:前群を取り外し、後群のみを使用
- ピント合わせ:ビューカメラ本体側の蛇腹で行う
- レンズシャッター:製造時期・仕様によってSynchro-Compurなど複数あり
旧Symmarには年代や供給先による仕様差があります。
したがって中古品では、シャッター形式、コーティング、絞り目盛り、鏡筒形状などを実物で確認することが重要です。
210mm F5.6/370mm F12仕様そのものは、現在残る実機や資料でも確認できます。
大判カメラ用レンズである
Symmar 210mm F5.6は、一般的な35mm一眼レフへ直接装着して使用する交換レンズではありません。
主な用途は、
4×5。
5×7。
などの大判ビューカメラです。
レンズボードへシャッターごと取り付け、
前枠を動かす。
蛇腹を伸縮する。
ピントグラスを見る。
ルーペでピントを確認する。
フィルムホルダーを入れる。
撮影する。
という大判カメラ独特の手順で使用します。
レンズそのものには一般的な一眼レフ用レンズのようなフォーカシングヘリコイドがありません。
ピントを動かすのはレンズではなくカメラ。
これが大判レンズの基本です。
210mmは4×5判では少し長めの標準
焦点距離は210mm。
35mm判カメラだけを使っていると、
「210mmなら望遠じゃないの?」
となります。
しかし大判フィルムは35mm判より圧倒的に大きいため、同じ210mmでも画角は広くなります。
4×5判では、210mmはやや長めの標準レンズ。
35mm判へ換算すれば、おおむね60mm前後の感覚です。
人物。
静物。
商品。
風景。
建築の一部。
などへ使いやすく、少し落ち着いた自然な遠近感を得られます。
5×7判ではさらに標準的
5×7判は4×5よりさらに大きなフィルムを使います。
そのため同じ210mmでも画角は広がり、より標準レンズに近い感覚になります。
実際、旧Symmar 210mm F5.6は5×7判用標準レンズとして扱われてきました。約70°の包括角と300mm弱のイメージサークルを持つため、5×7判をカバーしながらある程度のアオリ余裕も確保できます。
つまり、
4×5
→ 少し長めの標準
5×7
→ 標準
という立ち位置です。
「イメージサークル」が重要
大判レンズでは焦点距離だけ見てはいけません。
重要なのが、
イメージサークル。
レンズがフィルム面へ投影できる円形の有効画像領域です。
旧Symmar 210mm F5.6では約297mm前後という実測・販売資料が見られます。
4×5判を写すだけならもっと小さなイメージサークルでも足ります。
しかしビューカメラでは、
ライズ。
フォール。
シフト。
ティルト。
スイング。
などを使ってレンズとフィルムの位置関係を動かします。
アオリを大きく使えばフィルム面がレンズ光軸の中心から外れるため、
フィルムサイズ以上のイメージサークル
が必要になります。
Symmarはアオリを使いやすい
約70°クラスの包括角を持つSymmarは、大判用標準レンズとして十分なアオリ余裕を備えています。
たとえば建築撮影。
カメラを上へ向けると、
建物が上へ行くほど細くなる。
そこでカメラ自体は水平のまま、
レンズだけ上へライズ。
すると垂直線を維持しながら高い部分まで写せます。
これが大判カメラの醍醐味。
Symmarは単にフィルムをカバーするだけでなく、このようなビューカメラ本来の操作を行うための余裕を持っています。
210mm F5.6は6枚4群
通常状態では、
6枚4群。
いわゆるPlasmat系の対称性の高い構成です。旧Symmarについては6枚4群・約70°という構成が資料に記録されています。
シャッターを中心に、
前群。
後群。
を配置。
前後が比較的対称に近い構造になっています。
そして、この対称性こそが――。
コンバーチブル化
につながります。
最大の特徴「210mmが370mmになる」
旧Symmar 210mm F5.6では、前側のレンズセルを取り外し、
後群だけを残す
ことで約370mm F12として使用できます。
つまり、
通常
→ 210mm F5.6・6枚構成
前群を外す
↓
コンバート
→ 約370mm F12・3枚構成
です。
ズームレンズではありません。
テレコンバーターも使いません。
レンズを半分外します。
豪快である。
なぜ半分だけでも写るのか
Symmarの前群と後群は、それぞれ複数枚のレンズを組み合わせたセルになっています。
通常は両方を使うことで各種収差を打ち消し合い、高い画質を得ます。
しかし後群だけでも、それ自体がレンズとして像を結ぶことができます。
そこでシュナイダーはこの性質を利用して、
「前を外せば長焦点としても使えます」
と正式な機能にしました。
旧Symmar F5.6系列はこうしたコンバーチブルレンズとして知られ、210mmは370mm F12へ変換されます。
絞り目盛りが2種類ある
コンバーチブルSymmarを見ると、
絞り値が二列書かれている個体があります。
通常210mm側。
そして370mm側。
です。
実機資料では、210mm側でF5.6に相当する開口が、370mmとして使用した場合にはF12に相当します。
その後も、
210mm側
F5.6、8、11、16、22、32、45……
に対し、
370mm側
F12、16、22、32、45、64……
と対応する専用目盛りが用意されています。
緑色で370mm側の目盛りが刻まれた個体もあります。
つまり鏡筒に二つの絞りスケールがあるのは、
故障でも謎表記でもない。
一台二役だからです。
「210/370」と書かれていたらコンバーチブル
中古で非常に重要です。
Schneider-Kreuznach Symmarの前枠などに、
1:5.6 / 210
だけでなく、
1:12 / 370
といった表記があれば、コンバーチブル仕様であることを示しています。
同じ仕組みのSymmarには、
135mm → 235mm
150mm → 265mm
180mm → 315mm
210mm → 370mm
240mm → 420mm
300mm → 500mm
360mm → 620mm
などが存在しました。
一本のレンズで二つの焦点距離。
大判写真家にとっては荷物削減の強力な武器でした。
ただし370mm側は210mmと同じ画質ではない
ここは重要です。
通常の210mm状態では前後のレンズ群が互いの収差を補正しています。
しかし370mmでは一方のセルだけ。
当然、補正状態は悪化します。
そのためコンバート状態では、
コントラスト低下。
収差増加。
開放での柔らかさ。
フォーカスシフト。
などが出やすくなります。
実際、ユーザー資料でも210mm側は高く評価される一方、370mm側はコントラストが低くなったり、停止絞り後に再度ピント確認が必要になるケースが報告されています。
370mm F12は「おまけ」なのか
現代の基準で、
「370mm専用レンズと同等の最高画質を得たい」
なら、専用設計のレンズを使ったほうが有利です。
しかしコンバーチブルの目的は、
一本で二役。
です。
210mmを持って撮影へ出る。
↓
現場で、
「もっと長いレンズが欲しい。」
↓
前群を外す。
↓
370mm。
レンズ一本分の重量とスペースを節約できます。
フィールド撮影では大きな価値があります。
370mm側では十分な蛇腹長が必要
ここも最大級の注意点です。
370mmへ変身した。
↓
カメラの蛇腹を370mm伸ばせばいい。
……とは単純にはいきません。
単一セルだけを使うコンバート状態では主点位置が複雑になり、実際の無限遠撮影には公称焦点距離以上の蛇腹延長を要求する場合があります。
210/370 Symmarのユーザー例では、370mm状態で無限遠へ合わせるにも約400mmを超える蛇腹量が必要になるケースが報告されています。
したがってコンバート機能を使う前に、
自分のビューカメラの最大蛇腹長
を確認しましょう。
フィールドカメラでは370mmが使えない場合も
折り畳み式4×5フィールドカメラでは、最大蛇腹長が300mm前後しかないモデルもあります。
その場合、
210mm
→ 余裕。
370mmへコンバート
→ 蛇腹が足りない。
↓
無限遠すら出ない。
ということがあります。
一方、長いレールを持つモノレール型ビューカメラなら比較的対応しやすくなります。
コンバーチブルだから必ず二焦点使えるとは限りません。
カメラ側も370mmへ対応できる必要があります。
近距離ならさらに蛇腹が必要
人物を近距離で撮る。
商品を撮る。
となれば、無限遠よりさらに蛇腹を伸ばします。
370mm状態で近接撮影をすると、とてつもない蛇腹長になる場合があります。
大判撮影では、
長焦点+近距離=蛇腹との戦い
です。
F12だからピントグラスも暗くなる
通常状態はF5.6。
大判レンズとしては比較的明るく、ピントグラスも確認しやすい。
しかし370mm状態では、
F12。
かなり暗くなります。
暗い屋内。
日没前。
絞った状態。
ではピントグラス上の像が猛烈に暗くなります。
フォーカシングクロスを被る。
ルーペを使う。
十分な時間をかける。
といった大判らしい撮影作法が必要です。
210mm F5.6の明るさは大判ではありがたい
「F5.6なんて普通では?」
と思うかもしれません。
しかし大判では話が違います。
フィルムが巨大。
レンズも巨大。
イメージサークルも巨大。
そのためF2やF1.4の大口径レンズを作るのは現実的ではありません。
大判用210mmでF5.6なら、ピントグラスを見るためにも十分明るい部類です。
実際の撮影では、
F16。
F22。
F32。
まで絞ることが多くなります。
F5.6は、
撮影用というよりフォーカシング用の明るさ
としても重要です。
大判ではF22が普通
35mmカメラでは、
F22
→ 回折が気になる。
となります。
大判では、
F22。
F32。
場合によってはF45。
まで普通に使います。
なぜならフィルム面が大きく、深い被写界深度を得るには大きく絞る必要があるからです。
さらにSymmarのイメージサークルも絞ることで広がり、周辺性能が改善します。
大判では、
絞ることそのものが撮影手順の一部。
です。
アオリと組み合わせれば深いピントも作れる
大判カメラならではの、
ティルト。
スイング。
を使えば、単純にF値だけで被写界深度を稼ぐのとは違う方法でピント面を操作できます。
たとえば風景。
手前の岩。
↓
遠くの山。
普通なら両方へピントを合わせるためF32。
しかし前枠をティルトすれば、
ピント面そのものを地面方向へ傾ける。
これがScheimpflugの原理を利用した大判撮影です。
Symmar 210mmは、そのようなビューカメラ本来の撮影を行うための余裕を持った標準レンズです。
シャッターは個体によって違う
中古で注意したい点です。
Symmar 210mm F5.6は長期間製造され、さらにLinhof銘入りなどさまざまな仕様が存在します。
そのため、
Synchro-Compur。
Compur Electronic。
Copalへ載せ替えられた個体。
などがあります。実際、現存する210/370 SymmarでもSynchro-CompurやCompur Electronicなど異なるシャッターが確認されています。
したがって、
「Symmar 210mm F5.6だからシャッター速度は必ずこれ」
とは言えません。
レンズ本体とシャッターを分けて確認する必要があります。
中古ではシャッター状態が超重要
大判レンズは、
ガラスだけ買えばいい
わけではありません。
多くの場合、シャッターがレンズユニットの中心です。
中古では、
1秒。
1/2秒。
1/5秒。
1/10秒。
高速側。
B。
T。
などを確認します。
特に古いCompur系シャッターでは低速側が粘る個体があります。
実際、中古販売例でもSymmar 210mmのSynchro-Compurで低速1~1/10秒に不安定さがある個体が確認されています。
1秒をまず聞く
簡単な確認なら、
1秒。
シャッター。
ジーー……カチッ。
次に高速。
カチッ。
速度差が明確なら少なくとも機構は反応しています。
逆に、
全部ほぼ同じ。
低速で止まる。
開きっぱなし。
という場合はCLAが必要な可能性があります。
前群・後群が揃っているか確認
コンバーチブルレンズだからこその注意点。
両方のセルが本当に揃っているか。
です。
シャッター前側に前群。
後側に後群。
通常状態では当然両方必要です。
しかし中古市場では、
一方だけ。
別の焦点距離のセル。
後年載せ替えられたシャッター。
という可能性もゼロではありません。
「370mmとして使えるからレンズ半分でいい」
ではありません。
210mm F5.6として使うには、
正しい前後セルの組み合わせ
が必要です。
セルのシリアルにも注目
シュナイダー製大判レンズではシリアル番号からおおよその製造年代を追える場合があります。
また前後セルが交換されている個体では、
外観。
コーティング。
刻印。
年代感。
が不自然に違うことがあります。
非常に古い大判レンズを購入するときは、
「シャッターにSymmarが付いているから全部純正セットだろう」
と決めつけないほうが安全です。
カビ・クモリ・バルサム劣化
もちろん光学系もチェックします。
古いSymmarでは、
カビ。
クモリ。
拭き傷。
コーティング傷。
バルサム劣化。
内部汚れ。
などが発生している可能性があります。
6枚4群構成なので、一部には貼り合わせレンズもあります。
強いバルサム劣化が発生すると、
虹色。
白濁。
縁からの剥離。
などが見えることがあります。
Schneideritisとは?
古いSchneider製レンズでしばしば聞く言葉が、
Schneideritis。
です。
レンズ外周部の黒い遮光塗料が劣化し、白い点や泡状に見える現象を愛好家がこう呼びます。
名前は強烈ですが、軽度なら撮影画像へほとんど影響しない場合もあります。
ただし、
カビ。
バルサム剥離。
コーティング傷。
とは別物なので、状態判断では区別が必要です。
外観に白点があるから即レンズ終了、とは限りません。
単層コーティング世代が多い
旧Symmarは後のマルチコートSymmar-SやApo-Symmar以前の世代です。
そのため多くは現代的なMCレンズより逆光耐性やコントラストで不利になります。
しかし、
大型フィルム。
適切なフード。
丁寧な露出。
を組み合わせれば十分な画質を得られます。
むしろ現代では、少し穏やかなコントラストや古典的な描写を好んで旧Symmarを選ぶ楽しみもあります。
レンズフードを使いたい
大判レンズでは広いイメージサークルを作ります。
しかし実際のフィルムへ必要なのは、その一部だけです。
周囲から入る不要光をそのまま放置するとフレアやコントラスト低下につながります。
旧コーティングのSymmarでは特に、
コンペンディウム/蛇腹フード
などを使用する価値があります。
ビューカメラなら前枠へ大きなコンペンディウムを装着する方法も一般的です。
Symmar-Sとは別レンズ
ここが中古検索最大の注意点。
Symmar 210mm F5.6
と、
Symmar-S 210mm F5.6
は同じではありません。
Symmar-Sは後継世代の改良型。
こちらも6枚4群系の標準大判レンズですが、通常の商品仕様としては旧Symmarのようなコンバーチブル機能を前面に出していません。
Symmar-S 210mm F5.6では約294mmのイメージサークルを持つ個体が流通しています。
名前に、
“-S”
があるかどうか。
中古では必ず確認しましょう。
「Symmar-Sも半分にすれば写る」は別の話
光学構成上、後年型Symmar-Sでもセル単独で像を結ぶケースがあります。
実際、現代ユーザーが210mm Symmar-Sを単独セルで約370mm相当として試写した例もあります。
しかし、
物理的に写る
ことと、
メーカーが正式にコンバーチブルレンズとして設計・表示・推奨した
ことは別です。
旧Symmarには正式な370mm用絞り目盛りを持つ個体があります。
Symmar-Sを同じ感覚で扱うのは避けたほうがよいでしょう。
Apo-Symmarも別物
さらに後年には、
Apo-Symmar
が登場します。
アポクロマート補正を強化し、カラー撮影、高解像度用途などへ対応した近代的大判標準レンズです。
そしてさらに後期にはApo-Symmar Lシリーズも登場。
たとえばApo-Symmar L 210mm F5.6は6枚4群、包括角75°、F22で321mmのイメージサークルを持つ仕様でした。
つまり、
旧Symmar
↓
Symmar-S
↓
Apo-Symmar
↓
Apo-Symmar L
と発展していきます。
同じ、
210mm F5.6
でも世代が違えば性能・仕様・中古価格も違います。
Super-Symmarとも違う
さらに、
Super-Symmar
という名前まであります。
こちらはより広い包括角や特殊な光学設計を狙った別シリーズ。
特にSuper-Symmar HMやSuper-Symmar XL Asphericなどは、旧Symmarとは目的も世代も大きく異なります。シュナイダーの資料でもSuper-Symmar XL Asphericシリーズに210mm F5.6が存在したことが確認できます。
つまり中古検索で、
Symmar。
Symmar-S。
Apo-Symmar。
Apo-Symmar L。
Super-Symmar。
が出てきても、
「全部Symmar 210だから同じだろ」
は危険です。
旧Symmarを見分ける最大のヒント
旧コンバーチブル210mmを探すなら、
「210/370」
を見る。
これが非常に分かりやすいポイントです。
レンズ前枠。
シャッター周囲の絞り目盛り。
に、
210mm F5.6。
370mm F12。
両方の表示がある個体なら、今回扱っているタイプである可能性が高くなります。
4×5用として現在でも使える
4×5判へ使えば、210mmはやや長めの標準。
イメージサークルにも大きな余裕があります。
ポートレート。
静物。
商品。
風景。
圧縮感を少し加えた撮影。
などへ使いやすい。
さらにアオリ量にも余裕があります。
現代的大判レンズほど高コントラストでなくても、
大判ネガそのものの情報量
があります。
状態の良いSymmarなら、現在でも十分実写レンズになります。
5×7との相性が特にいい
210mmという焦点距離と約300mm級のイメージサークルを考えると、5×7判では非常に自然な標準レンズとして使えます。
5×7フィルム自体が現在ではかなり趣味性の高いフォーマットですが、
大きなピントグラス。
210mm標準画角。
Symmar。
という組み合わせは、大判写真らしい撮影体験を存分に楽しめます。
8×10には基本的に余裕不足
210mmだから、
「8×10でも広角として使える?」
と考えるかもしれません。
しかし旧Symmar 210mmの通常状態で約297mm級のイメージサークルでは、8×10判を無限遠で完全に余裕を持ってカバーするには不足します。8×10の対角線は300mmを超えるためです。
したがって、
4×5・5×7が本来の得意領域。
8×10用として選ぶなら、より大きなイメージサークルを持つレンズを選ぶほうが安全です。
後年の210mmでもSymmar-Sは約294mm、Apo-Symmar Lでは321mmなど世代によって包括力が異なるため、「210mm F5.6」という数字だけで8×10対応を判断してはいけません。
370mm側はポートレートにも面白い
コンバートした370mm F12は画質的には専用レンズほど完璧ではありません。
しかしその少し柔らかい描写を、
人物撮影へ積極的に使う
という楽しみもあります。
現代ユーザーからも、コンバート状態を開放付近でポートレートに使い、柔らかさを生かした例が報告されています。
つまりコンバート側を、
「画質低下した210mm」
ではなく、
「別キャラクターの370mm」
として楽しむこともできます。
中古で確認したいポイント
Schneider-Kreuznach Symmar 210mm F5.6を中古で購入する場合、重要なのは単純なレンズ傷だけではありません。
まず、
旧SymmarなのかSymmar-Sなのか。
次に、
210/370コンバーチブル仕様なのか。
そして、
前後セルが正しく揃っているか。
シャッターが正常か。
絞り目盛りが210/370両方残っているか。
レンズにカビ・クモリ・バルサム劣化がないか。
シャッター低速が粘っていないか。
レンズボード取付規格が自分のカメラへ合うか。
を確認します。
特に大判レンズでは、
レンズ+シャッター+ボード
で一つの撮影システムです。
レンズボード付きなら規格を確認
中古ではSinarボード。
Linhof Technikaボード。
Toyo。
Horseman。
自作ボード。
などに付いた状態で販売されることがあります。
レンズ自体が欲しくても、そのボードが自分のカメラへ使えるとは限りません。
シャッター穴径が合えば別ボードへ移植できますが、
買ったらそのままカメラへ付く
とは限りません。
大判中古ならではの注意点です。
210mm側だけ使っても十分価値がある
コンバーチブル機能は確かに面白い。
しかし、
「370mmを使わないなら価値がない」
わけではありません。
むしろ旧Symmarの本領は通常210mm側。
6枚4群のPlasmat系。
約70°の包括角。
5×7までカバー。
十分なアオリ。
大判標準レンズとして非常に実用的です。
370mmは、
必要なときに使えるボーナス。
くらいに考えてもよいでしょう。
現代でコンバーチブルという発想が面白い
現在なら焦点距離を変えたければ、
ズーム。
レンズ交換。
クロップ。
があります。
Symmar。
↓
前玉を外す。
↓
焦点距離が変わる。
🤣
しかし大判カメラというシステムでは、これはかなり合理的です。
そもそもレンズはレンズボードへ付いている。
カメラには長い蛇腹がある。
ピント合わせは本体側。
だからセルを外して焦点距離が変わっても、蛇腹を伸ばしてピントを取り直せば使える。
ビューカメラだから成立する変身機構。
です。
まとめ
Schneider-Kreuznach Symmar 210mm F5.6は、シュナイダーを代表するクラシックな大判用標準レンズです。
通常状態では、
210mm F5.6。
6枚4群。
約70°の包括角。
約300mm級のイメージサークル。
4×5では少し長めの標準。
5×7では標準。
という実用性の高いレンズです。
しかし最大の特徴は、
コンバーチブル。
前側レンズセルを外し、後群だけを使用すると、
約370mm F12
として使用できます。
そのためシャッター周囲には、
210mm用の絞り目盛り。
370mm用の絞り目盛り。
二つを持つ個体があります。
一本で二本分。
大判機材を山ほど背負って移動する写真家には合理的です。
ただし370mm状態では収差補正が低下し、210mm状態より柔らかく低コントラストになりやすい。
さらに長大な蛇腹を必要とし、カメラによっては無限遠までピントを出せません。
現在中古で購入するときは、
Symmar-Sと間違えない。
210/370表記を確認する。
前後セルが揃っているか確認する。
シャッター低速を確認する。
この4点が特に重要です。
後のSymmar-S。
Apo-Symmar。
Apo-Symmar L。
Super-Symmar。
へと名前は受け継がれていきましたが、旧Symmarのコンバーチブル機構は、その中でも特にクラシックで面白い特徴です。
210mmが欲しい。
でも370mmも欲しい。
レンズを二本持つと重い。
シュナイダー、
「では前玉を外してください。」
なんとも物理的。
しかしビューカメラだからこそ成立する、極めて合理的な回答でもあります。
Schneider-Kreuznach Symmar 210mm F5.6は、高性能な大判標準レンズとしてだけでなく、一つの光学系を二つの焦点距離として活用するという古典的大判レンズ設計の面白さを味わえる一本です。









