「PENTAX-110 50mm F2.8」は、旭光学工業(現在のリコーイメージング)が超小型一眼レフ「PENTAX AUTO 110」用として発売した交換レンズです。
焦点距離は50mmですが、使用するフィルムは35mm判ではなく小型の110フィルム。
そのため35mm判カメラにおける50mm標準レンズとは画角が大きく異なり、35mm判換算ではおよそ100mm相当となる中望遠レンズです。
しかも重量はわずか約53g。
現在の50mm交換レンズとは比較にならないほど小さく、PENTAX AUTO 110という超小型カメラシステムの思想を象徴する一本です。
PENTAX-110 50mm F2.8とは
PENTAX AUTO 110は1978年に登場した110フィルム用のレンズ交換式一眼レフカメラです。
一般的な110カメラは簡易的なコンパクトカメラが中心でしたが、AUTO 110には一眼レフ機構、TTL測光、交換レンズ、ワインダー、専用フラッシュなどが用意され、本格的なシステムカメラとして設計されていました。
発売当初の交換レンズには、
- PENTAX-110 18mm F2.8
- PENTAX-110 24mm F2.8
- PENTAX-110 50mm F2.8
が用意されました。
その中で50mm F2.8は望遠担当です。
主な仕様は以下のとおりです。
- 焦点距離:50mm
- 開放F値:F2.8
- レンズ構成:5群5枚
- 35mm判換算:約100mm相当
- 対角画角:約24°
- 最短撮影距離:約0.9m
- 最大撮影倍率:約1:15.9
- フィルター径:約37.5mm
- 最大径:約43mm
- 全長:約27.2mm
- 重量:約53g
- フォーカス:マニュアルフォーカス
5群5枚という比較的シンプルな光学構成ながら、110判ではポートレートなどにも使いやすい中望遠として設計されています。
50mmなのに「標準レンズ」ではない
カメラに詳しい人ほど、
「50mm=標準レンズ」
というイメージを持っているかもしれません。
しかし焦点距離だけでは画角は決まりません。
使用するフィルムや撮像素子の大きさによって、同じ50mmでも写る範囲が変わります。
AUTO 110が使用する110フィルムは35mmフィルムより大幅に小さいため、PENTAX-110 50mm F2.8では35mm判換算約100mm相当の画角になります。
AUTO 110システムで標準レンズに相当するのは24mm F2.8。
18mm F2.8がおよそ35mm相当、24mm F2.8がおよそ50mm相当、50mm F2.8がおよそ100mm相当という分かりやすい構成でした。
つまり、
PENTAX-110の50mmは小さな中望遠レンズ。
これがこのレンズを理解する最初のポイントです。
重量わずか約53g
PENTAX-110 50mm F2.8で驚かされるのが、そのサイズです。
最大径約43mm、全長約27.2mm。
重量はわずか約53gです。
中望遠レンズとは思えない大きさです。
現在のミラーレス用レンズどころか、一般的なレンズのフードやキャップ並みの重量しかありません。
AUTO 110自体が極端に小さいカメラだったため、交換レンズもそれに合わせて徹底的に小型化されています。
50mm F2.8を装着しても、
「カメラに望遠レンズを付けた」
というより、
「小さなカメラに少し長めの筒が付いた」
程度。
この異様なまでのコンパクトさこそPENTAX-110システム最大の魅力です。
レンズに「絞り羽根」がない
そしてPENTAX-110 50mm F2.8最大の珍ポイントがこれです。
このレンズには、
絞り機構がありません。
普通の交換レンズなら鏡筒内部に絞り羽根があり、
F2.8
↓
F4
↓
F5.6
↓
F8
と開口部の大きさを変えます。
しかしPENTAX-110シリーズの交換レンズには、その機構自体がありません。
「古くなって絞り羽根がなくなった」
わけではありません。
新品の時からありません。
絞りはカメラ本体に入っている
なぜレンズに絞りがないのか。
答えは非常に面白く、
絞りがカメラボディ側にあるからです。
AUTO 110ではレンズ後方のボディ内部に絞り機構を配置しています。
しかもこの機構は単なる絞りではなく、シャッターも兼用しています。
AUTO 110では一組のブレードを使って、露光時に必要な大きさまで開き、設定された時間だけ光を通します。
カメラ側のプログラムAEによって、おおむねF2.8からF13.5までの絞りと、約1秒から1/750秒までのシャッター速度が自動制御されます。
そのため交換レンズ側へ絞り機構を搭載する必要がありませんでした。
これはレンズを極端に小型化できた理由のひとつです。
全レンズがF2.8という不思議なシステム
PENTAX AUTO 110用純正レンズを見ると、
18mm F2.8。
24mm F2.8。
50mm F2.8。
70mm F2.8。
20-40mm F2.8。
見事なまでに全部F2.8です。
別に旭光学がF2.8という数字を異常に愛していたわけではありません。
ボディ内部の共通絞り機構を利用する設計上、交換レンズをすべて最大F2.8に統一する必要があったためです。
交換レンズ側を単純化し、
「焦点距離と光学系だけ交換する」
という考え方です。
この割り切りによってAUTO 110は極小サイズながら、本物の交換レンズシステムを成立させました。
5群5枚の中望遠レンズ
PENTAX-110 50mm F2.8のレンズ構成は5群5枚です。
AUTO 110用レンズの中では、
18mm F2.8が6群6枚、
24mm F2.8が5群6枚、
50mm F2.8が5群5枚、
という構成でした。
小さな110フィルム用とはいえ、単なる玩具レンズではありません。
AUTO 110自体がTTL測光を備えた一眼レフなので、ピントも撮影レンズを通した像を見ながら正確に合わせられます。
50mmでは被写界深度も18mmや24mmより浅くなるため、ファインダーでピント位置を確認できる一眼レフ方式のメリットが生きてきます。
ポートレートにも使いやすい約100mm相当
35mm判換算で約100mm。
これは人物撮影にも使いやすい画角です。
標準レンズより狭い範囲を切り取りやすく、
- 人物
- 花
- 小物
- 遠景
- 動物
- スナップの部分切り取り
などに向いています。
人物へ極端に近づかなくても顔や上半身を大きく撮影できるため、18mmや24mmとは違った写真を楽しめます。
AUTO 110という小さなカメラで中望遠撮影までできたこと自体が、このシステムの面白さです。
最短撮影距離は約90cm
最短撮影距離は約0.9mです。
マクロレンズではありませんが、人物や小物をある程度大きく捉えることができます。
最大撮影倍率は約1:15.9。
110フィルム自体が小さいため、大きな被写体をフレームいっぱいに収める用途には十分使いやすいでしょう。
AUTO 110用にはクローズアップレンズなどのアクセサリーも用意されており、小さなシステムながら撮影領域を拡張できました。
AUTO 110とAUTO 110 SUPERで使用できる
PENTAX-110 50mm F2.8は、初代PENTAX AUTO 110だけでなく、後継機のAUTO 110 SUPERでも使用できます。
AUTO 110 SUPERは1982年に登場。
初代をベースに、
- 明るくなったファインダー
- セルフタイマー
- 低照度警告
- 1ストローク巻き上げ
などの改良が加えられました。
レンズマウント自体は引き継がれているため、50mm F2.8を含むAUTO 110用交換レンズをそのまま装着できます。
現代のミラーレスでも使える
PENTAX-110レンズは現在、マウントアダプターを介してミラーレスカメラへ装着して楽しむユーザーもいます。
非常に小型なので、
「巨大なデジタルカメラの前に豆粒のようなレンズが付く」
という見た目だけでもかなり面白い組み合わせになります。
ただし、ここで重要な問題があります。
先ほど説明したとおり、PENTAX-110 50mm F2.8にはレンズ内絞りがありません。
AUTO 110ではボディ側に絞りがあるため問題ありませんが、普通のマウントアダプターを使ってデジタルカメラへ装着すると、
基本的にはF2.8開放のまま
になります。
これは故障ではなく構造上の仕様です。
市販アダプターには独自の絞り機構を内蔵したものもありますが、その絞り位置は本来のAUTO 110とは異なるため、描写への影響も含めて楽しむ使い方になります。
デジタルで意外に遊ばれているレンズ
PENTAX-110レンズは、その極端な小ささからオールドレンズ遊びの対象としても人気があります。
PENTAX-110 50mm F2.8についても、デジタルカメラへ装着したユーザーから、サイズの割に良好なシャープネスや描写を評価する声があります。
さらに2026年にも、AUTO 110用18mm・24mm・50mmをフルサイズSony機へ装着して撮影するユーザーが現れており、特に24mmと50mmについては想像以上に大きなイメージサークルを持つという報告もあります。
もちろん本来は110フィルム用レンズです。
フルサイズセンサーでの完全な画質や周辺性能を保証するものではありません。
しかし、
「こんな小さな110用レンズがどこまで写るのか」
を試すこと自体が、オールドレンズ遊びとして面白いところです。
110フィルムは現在でも撮影可能
110フィルムは1970年代から1980年代に広く普及した小型カートリッジフィルムです。
35mmフィルムと比べてフィルム面積が小さく、装填もカートリッジを入れるだけという簡単な方式でした。
一時はほとんど姿を消しましたが、現在もLomographyが110フィルムを製造しています。
そのためPENTAX AUTO 110が正常に動作する個体なら、現在でも本来の110フィルムカメラとして撮影を楽しむことができます。
デジタル時代に入って半世紀近く前の極小一眼レフを実際に使えるというのは、なかなか贅沢な遊びです。
中古で確認したいポイント
PENTAX-110 50mm F2.8は1970年代末から製造された古いレンズです。
中古購入時には、
- レンズ内部のカビ
- クモリ
- 拭き傷
- コーティング状態
- ピントリングの動作
- ヘリコイドの固着
- マウント部分
- レンズ後玉
- フィルター枠
などを確認しましょう。
ただし一般的な中古レンズで定番の、
「絞り羽根に油が付着していないか」
については確認不要です。
なぜなら――。
絞り羽根そのものがありません。
CANON REFLEX 500mm F8に続き、またしても中古レンズ点検項目を物理的に削除してくるタイプです。
ボディ側の状態も重要
PENTAX AUTO 110で使用する場合は、レンズ以上にボディ側の状態も重要です。
AUTO 110では絞りとシャッターをボディ内部の機構が担当するため、
- シャッター
- 絞り機構
- TTL露出計
- ミラー
- 巻き上げ
- 電池室
- フィルム送り
などが正常に動作しなければ撮影できません。
特にこのカメラは極端に小さなボディ内部へ一眼レフ機構と電子制御を詰め込んでいます。
現在では製造から40年以上が経過しているため、中古では「レンズがきれいだから撮影できる」とは限りません。
ボディとのセットで購入する場合は実写確認済みの個体を選ぶと安心です。
フィルター径にも注意
PENTAX-110 50mm F2.8のフィルター径は約37.5mmです。
現在一般的な37mmや39mmとは異なる特殊なサイズです。
純正フィルターやフードなどを探す場合は、
「だいたい37mmだから入るだろう」
と考えず、対応サイズを確認しましょう。
古い小型システムだけに、純正アクセサリーのほうがレンズ本体より見つけにくい場合もあります。
まとめ
PENTAX-110 50mm F2.8は、超小型一眼レフPENTAX AUTO 110用として1978年に登場した中望遠単焦点レンズです。
焦点距離は50mmですが、110フィルムでは35mm判換算約100mm相当。
5群5枚の光学系を備えながら、全長約27.2mm、重量わずか約53gという驚異的な小ささを実現しています。
そして、このレンズ最大の特徴が、
レンズ内部に絞り機構が存在しないこと。
AUTO 110では絞りとシャッターをボディ側へまとめることで、すべての交換レンズをシンプルかつ小型に設計しました。
その結果、
- 18mm F2.8
- 24mm F2.8
- 50mm F2.8
- 70mm F2.8
- 20-40mm F2.8
という、交換レンズがほぼ全部「F2.8」という異色のシステムが完成しました。
普通の35mm一眼レフをそのまま小さくしたのではありません。
小さくするためにカメラシステムそのものを再設計した。
そこがPENTAX AUTO 110の凄さです。
PENTAX-110 50mm F2.8は、その中で約100mm相当の中望遠撮影を担当する小さな望遠レンズ。
わずか53gの鏡筒を手に取れば、
「交換レンズって、ここまで小さくできるのか」
と、今でも驚かされる一本です。









