





ペンタックスSPは、35mmフィルムを使用するマニュアルフォーカス一眼レフカメラです。
金属製のクラシカルなボディーに、M42スクリューマウント、機械式シャッター、TTL露出計を搭載しています。オートフォーカスや自動露出はなく、ピント、絞り、シャッター速度を撮影者が設定するカメラです。
構造が比較的分かりやすく、対応するM42レンズも豊富なため、機械式フィルム一眼レフを使ってみたい人から現在も注目される一台です。
ペンタックスSPとは
ペンタックスSPの正式名称は「アサヒペンタックスSP」です。海外では「Asahi Pentax Spotmatic」として広く知られています。
ペンタックスは1960年、TTL測光機構を内蔵した一眼レフカメラ「スポットマチック」をフォトキナで参考出品しました。その量産モデルとして1964年に発売されたのが、アサヒペンタックスSPです。
SPは「Spotmatic」の略称
SPは「Spotmatic」に由来する名称です。
試作段階ではスポット測光が検討されていましたが、市販されたペンタックスSPには、画面全体の光を測る平均測光式のTTL露出計が採用されました。
つまり、製品名には「Spotmatic」と残っているものの、市販型のSPがスポット測光カメラというわけではありません。ペンタックス公式の歴史資料でも、SPは平均測光式TTL露出計を初めて内蔵したモデルとして紹介されています。
TTL露出計を内蔵
ペンタックスSPの大きな特徴が、レンズを通過した光を測定するTTL露出計です。
外付け露出計やカメラ前面に設けた受光部ではなく、実際に撮影レンズを通ってきた光を測ります。そのため、使用するレンズ、フィルター、接写器具などによる光量変化も測光結果に反映されます。
絞り込み測光を採用
ペンタックスSPのTTL露出計は「絞り込み測光」です。
通常はレンズを開放状態にして、明るいファインダーでピントを合わせます。カメラ側面のメータースイッチを押し上げると、レンズが設定した絞り値まで閉じ、露出計が作動します。
ファインダー内の針が中央へ来るように、絞りまたはシャッター速度を調整すれば適正露出です。
絞り値を大きくするとファインダーが暗くなるため、基本的には次の順序で操作します。
- レンズを開放状態にしてピントを合わせる
- 絞りとシャッター速度を仮設定する
- メータースイッチを押し上げる
- ファインダー内の針を中央へ合わせる
- メータースイッチを戻して撮影する
現在の一眼レフのような開放測光ではありませんが、露出を決める仕組みを目で確認しながら撮影できます。
自動露出ではない
露出計は適正露出を示すだけで、絞りやシャッター速度を自動的に変更する機能はありません。
針がプラス側へ寄った場合は露出オーバーなので、シャッター速度を速くするか、絞りを小さくします。マイナス側へ寄った場合は露出不足なので、シャッター速度を遅くするか、絞りを開きます。
絞りとシャッター速度の関係を理解しながら撮影したい人に向いた構造です。
M42スクリューマウントを採用
ペンタックスSPは、直径42mm、ねじピッチ1mmのスクリューマウントを採用しています。現在では一般に「M42マウント」と呼ばれる規格です。
レンズをボディーへねじ込んで装着するシンプルな方式で、ペンタックスのタクマーレンズだけでなく、他社が製造した多数のM42レンズも使用できます。
タクマーレンズとの組み合わせ
ペンタックスSPには、Super-Takumar、Super-Multi-Coated Takumar、SMC Takumarなど、製造時期に応じた標準レンズが組み合わされました。
公式説明書では、標準レンズとして次の2本が掲載されています。
- SMCタクマー50mm F1.4
- SMCタクマー55mm F1.8
ただし、初期に販売されたSPへ最初からSMCタクマーが付属していたわけではありません。ボディーとレンズの製造年代が異なる中古品も多いため、現在装着されているレンズが当初の組み合わせとは限りません。
M42レンズならすべて同じとは限らない
ねじ込み式のM42レンズは、基本的にはマウントへ装着できます。
ただし、レンズによって次のような違いがあります。
- 自動絞りに対応するレンズ
- 手動絞りのみのレンズ
- AUTO/MANUAL切り替えスイッチ付き
- 絞り連動ピンの形状が異なる製品
- カメラ内部と干渉する可能性がある製品
ペンタックスSPで絞り込み測光を使用する場合は、メータースイッチを操作したときに絞り羽根が設定値まで閉じるか確認しましょう。
機械式シャッターを搭載
ペンタックスSPは、フォーカルプレーン式の機械シャッターを搭載しています。
シャッター速度はB、1秒から1/1000秒までです。電池はTTL露出計の電源として使用されるため、露出計を使わなければ、シャッターそのものは電池なしでも作動します。
シャッター速度は巻き上げ後に設定する
公式説明書では、シャッター速度を決める際、ダイヤルを回して希望する数字を指標へ合わせるよう案内されています。
手持ち撮影では、カメラぶれを防ぐため、一般に1/30秒前後より速い速度が使いやすいと説明されています。動きの速い被写体を止めたい場合は、1/250秒や1/500秒などの高速シャッターが適しています。
古い機械式カメラでは、内部機構への負担を避けるため、フィルムを巻き上げてシャッターをチャージしてから速度を変更する習慣をつけると安心です。
フラッシュ同調は1/60秒
ペンタックスSPには、電子フラッシュ用のX接点と、フラッシュバルブ用のFP接点があります。
電子フラッシュを使用する場合の同調速度は1/60秒です。現在のストロボを接続する場合は、基本的にX接点を使用します。
ペンタックスSPの基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年 | 1964年 |
| カメラ形式 | TTL露出計内蔵35mm一眼レフ |
| 使用フィルム | 35mm・135フィルム |
| 画面サイズ | 24×36mm |
| レンズマウント | M42スクリューマウント |
| ピント合わせ | マニュアルフォーカス |
| 測光方式 | CdS素子によるTTL平均測光 |
| 測光方法 | 絞り込み測光 |
| 露出設定 | マニュアル |
| シャッター | フォーカルプレーンシャッター |
| シャッター速度 | B、1秒~1/1000秒 |
| フラッシュ同調 | X接点・1/60秒 |
| フィルム感度 | ASA20~1600 |
| ファインダー視野率 | 約93% |
| ファインダー倍率 | 約0.89倍・50mmレンズ使用時 |
| フィルム巻き上げ | レバー式・分割巻き上げ可能 |
| セルフタイマー | あり |
| 露出計用電池 | 1.3V水銀電池1個 |
| ボディー重量 | 約623g |
ペンタックスSPのファインダーには、フレネルレンズとマイクロプリズムが採用されています。中央のマイクロプリズム像がちらつかず、被写体が明瞭に見える位置へレンズを調整してピントを合わせます。
フィルムの入れ方
ペンタックスSPは、一般的な開閉式の裏蓋を備えています。
巻き戻しクランクを引き上げると裏蓋が開き、フィルムカートリッジを装填できます。フィルム先端を巻き取りスプールの溝へ差し込み、パーフォレーションがスプロケットへ正しくかみ合っていることを確認して裏蓋を閉じます。
巻き戻しノブの回転を確認する
フィルム装填後に巻き上げレバーを操作すると、フィルムが正常に送られていれば巻き戻しノブも回転します。
撮影枚数のカウンターだけが進んでいても、フィルム先端がスプールから外れていると実際には送られていません。最初の数コマは巻き戻しノブの動きを確認すると安心です。
フィルムを最後まで撮影すると巻き上げレバーが重くなります。無理に巻き上げるとフィルムが切れるため、抵抗を感じたら巻き戻します。
露出計用電池に注意
ペンタックスSPの説明書では、TTL露出計用として1.3Vの水銀電池が指定されています。
指定されていたH-B型やRM-400Rなどの水銀電池は、現在では一般的に販売されていません。
代替電池は電圧を確認する
形状が近い現行電池でも、指定電池と電圧が異なる場合があります。
電圧の高い電池をそのまま使用すると、露出計の指示にずれが生じる可能性があります。変換アダプターや電圧を調整した代替電池を使う方法もありますが、使用する製品とカメラの調整状態を確認する必要があります。
露出計が作動しなくても、外部露出計やスマートフォンの露出計アプリを使用すれば、カメラ自体で撮影することは可能です。
ペンタックスSPFやSP IIとの違い
中古市場では、SPと名称の似たモデルが複数あります。
ペンタックスSPF
アサヒペンタックスSPFは1973年に登場した後継モデルです。
対応するSMCタクマーレンズとの組み合わせでは開放測光が可能となり、レンズから光が入ると露出計回路が働く「フォトスイッチ」も搭載されました。
SPは絞り込み測光、SPFは対応レンズで開放測光を利用できる点が大きな違いです。
ペンタックスSP II
SP IIはSPの基本構造を引き継ぎながら、ホットシューなどを追加したモデルです。
中古品の記事や説明書を調べるときは、本体正面の「SP」「SPOTMATIC F」「SP II」などの表示を確認し、別モデルの情報を混同しないようにしましょう。
中古のペンタックスSPを購入するときの注意点
ペンタックスSPは発売から長い年月が経過しています。
丈夫な機械式カメラとして知られていますが、外観がきれいでも内部まで正常とは限りません。
シャッター幕の状態
裏蓋を開け、シャッター幕に次の症状がないか確認します。
- 穴やピンホール
- 強いしわ
- たるみ
- 油汚れ
- 幕の端の剥がれ
小さな穴でも光線漏れの原因になります。明るい場所へ向けて内部を確認すると、ピンホールを発見しやすくなります。
低速シャッターの粘り
1秒、1/2秒、1/4秒などの低速シャッターを切り、設定に応じて作動時間が変化するか確認します。
古いカメラでは、低速シャッターが途中で止まる、設定より長く開く、ミラーが上がったまま戻らないといった不具合が起こることがあります。
高速側も、シャッター音だけでは正確性を判断できません。可能であれば、フィルムを通した撮影確認済みの個体を選ぶと安心です。
露出計の動作
代替電池を入れ、メータースイッチを押し上げたときにファインダー内の針が動くか確認します。
明るい場所と暗い場所へ向けたり、絞りやシャッター速度を変更したりして、針の位置が変化するかを確認しましょう。
針が動いても測光値が正しいとは限りません。外部露出計や正常なデジタルカメラと比較する必要があります。
メータースイッチと絞り込み機構
メータースイッチを押し上げたときに露出計が作動し、レンズの絞り羽根が設定値まで閉じるか確認します。
スイッチを戻した後は、絞り羽根とファインダーの明るさが開放状態へ戻ることも重要です。
動きが極端に重い場合は、無理に操作すると内部機構を傷める可能性があります。
ファインダーとプリズム
ファインダーをのぞき、カビ、クモリ、ゴミ、黒い線、プリズムの腐食がないか確認します。
ファインダーの汚れは撮影画像へ直接写りませんが、ピント合わせのしやすさに影響します。中央のマイクロプリズムが見えにくい個体は、マニュアルフォーカス撮影が難しくなります。
ミラーとモルト
ミラーが汚れていないか、シャッターを切った後に正しく戻るか確認します。
ミラー周辺や裏蓋の遮光材であるモルトは、経年劣化によって崩れていることがあります。モルトが粉状になっている場合は交換が必要です。
レンズの状態
レンズ付きで購入する場合は、ボディーとは別に次の部分も確認しましょう。
- カビやクモリ
- 前玉・後玉の傷
- 絞り羽根の油
- ピントリングの固さ
- 自動絞りピンの動き
- AUTO/MANUAL切り替え
- マウントねじの変形
タクマーレンズの一部では、光学ガラスの影響によってレンズが黄色く変色している個体もあります。変色の程度によっては、撮影画像の色味や露出へ影響する可能性があります。
ペンタックスSPはどんな人に向いている?
ペンタックスSPは、次のような人に向いています。
- 機械式フィルム一眼レフを使ってみたい人
- 絞りとシャッター速度の関係を学びたい人
- M42マウントレンズを楽しみたい人
- タクマーレンズに興味がある人
- 電池がなくても撮影できるカメラを探している人
- 金属製カメラの操作感が好きな人
- 修理や整備をしながら長く使いたい人
一方、自動露出、オートフォーカス、自動巻き上げを求める人には向きません。
絞り込み測光ではファインダーが暗くなるため、素早く撮影したい場面では操作を煩雑に感じることもあります。
まとめ
ペンタックスSPは、M42スクリューマウントとTTL平均測光式露出計を搭載した、1964年発売の35mm一眼レフカメラです。
機械式シャッターはBと1秒から1/1000秒まで対応し、露出計を使用しなければ電池なしでも撮影できます。豊富なM42レンズを使用できることも大きな魅力です。
中古で購入するときは、シャッター幕、低速シャッター、ミラー、露出計、メータースイッチ、ファインダー、モルトの状態を確認しましょう。
正常に整備された個体なら、絞り、シャッター速度、ピントを一つずつ決めて撮影する、機械式フィルムカメラならではの操作を楽しめます。









