ローライ35(Rollei 35)は、ドイツのローライが1966年に発表した35mmフィルム用コンパクトカメラです。
発売当時は世界最小の35mmフルサイズカメラとして登場し、幅約97mm、高さ約60mm、奥行き約32mmという驚異的な小型ボディを実現しました。重量も約370gです。
しかも使用するフィルムはハーフ判でも16mmフィルムでもありません。
一般的な35mmフィルムを使い、24×36mmのフルサイズ画面を記録します。
「小さいカメラが欲しい。でもフィルムまで小さくしたくない」
そんな発想から生まれた、カメラ史を代表する小型機のひとつです。
ローライ35とは
初代Rollei 35は1966年のPhotokinaで発表されました。
設計者はドイツ人技術者のハインツ・ヴァースケ(Heinz Waaske)。
ヴァースケは、小型カメラだからといってハーフ判などの小さなフォーマットを使うのではなく、35mmフルサイズのまま極限までボディを小さくするという考えを持っていました。
初代Rollei 35の主な仕様は次のとおりです。
- 使用フィルム:35mmフィルム
- 画面サイズ:24×36mm
- レンズ:Carl Zeiss Tessar 40mm F3.5
- シャッター:レンズシャッター
- シャッター速度:B、1/2~1/500秒
- 絞り:F3.5~F22
- ピント合わせ:目測式
- 露出計:CdS式連動露出計
- フィルム感度設定:ASA25~1600
- サイズ:約97×60×32mm
- 重量:約370g
一部の時期にはSchneider-Kreuznach S-Xenar 40mm F3.5を搭載した個体も存在します。
発売当時「世界最小」の35mmフルサイズ機
ローライ35最大の特徴は、やはりそのサイズです。
1966年当時、35mmフルサイズを使用するカメラとして世界最小をうたえるほどコンパクトでした。
現在では小型デジタルカメラやスマートフォンを見慣れているため、数字だけでは驚きにくいかもしれません。
しかしローライ35の中には、
- 35mmフィルム
- フィルム巻き上げ機構
- シャッター
- レンズ
- 露出計
- ファインダー
がすべて入っています。
しかも1960年代の機械式カメラです。
電子化して部品を削ったわけではありません。
「機械を徹底的に詰め込んで小さくした」
というところに、このカメラの凄さがあります。
生みの親はハインツ・ヴァースケ
ローライ35の成立過程も非常に面白いものです。
設計者ハインツ・ヴァースケは、もともとWirginでカメラ開発に携わっていました。
彼は勤務先とは別に、小型35mmカメラの構想を進めていました。
ところが試作機を勤務先へ見せたころ、Wirginはカメラ事業から撤退する方針になっていました。
ヴァースケはその後ローライへ移籍。
そこで彼の小型カメラの試作機を目にしたローライ経営陣が興味を示し、製品化へ向けて開発が進められます。
そして1966年のPhotokinaで「Rollei 35」として世に出ました。
つまりローライ35は、
最初からローライ社内で企画されたカメラではなかった
という少し変わった生い立ちを持っています。
Carl Zeiss Tessar 40mm F3.5を搭載
初期のRollei 35には、Carl Zeiss Tessar 40mm F3.5が搭載されています。
40mmは35mmと50mmの中間あたりに位置する焦点距離です。
50mmより少し広く、
35mmほど広角ではない。
日常的なスナップには非常に扱いやすい画角です。
小型カメラへ搭載するレンズとしても合理的で、ある程度の被写界深度を確保しながら目測ピントを使いやすくできます。
Tessarは長い歴史を持つシンプルな光学形式ですが、コンパクトさと描写性能のバランスに優れたレンズとして知られています。
ローライ35では、
「小さなボディ+高品質な固定レンズ」
という設計思想が徹底されています。
レンズは沈胴式
ローライ35をさらに小さくするために採用されたのが、
沈胴式レンズ
です。
撮影しないときはレンズ鏡筒をボディ内部へ押し込んで収納できます。
撮影するときはレンズを前へ引き出してロック。
これによって持ち運び時の奥行きを大幅に減らしています。
現在の沈胴式ズームコンデジなら電源を入れるとモーターでレンズが出てきますが、ローライ35はもちろん手動です。
レンズを、
ズボッ。
と引き出して、
カチッ。
と固定する。
そこから撮影開始です。
レンズ収納には手順がある
ローライ35で特に注意したいのがレンズを収納するときです。
シャッターをチャージした状態でなければ、基本的にレンズを正しく収納できない構造になっています。
無理に押し込もうとすると故障につながる可能性があります。
中古で初めて触ると、
「レンズが引っ込まないぞ?」
となりがちですが、故障とは限りません。
ローライ35にはローライ35なりの儀式があります。
古いカメラだけに、操作方法を確認してから触ったほうが安全です。
距離計がない!ピントは「目測」
外見からレンジファインダーカメラのように見えることがありますが、ローライ35には距離計がありません。
ファインダーを覗いても、
二重像を合わせる
↓
ピントが合う
という仕組みではありません。
被写体までの距離を撮影者が判断して、レンズの距離目盛りを合わせます。
つまり、
「あの人まで3mくらいかな」
↓
3mへセット
↓
撮る。
です。
目測。
1966年の高級カメラなのに、ピントは自分の距離感覚頼みです。
目測でも40mmなら意外と撮れる
一見するとかなり難しそうですが、40mmレンズなので絞れば被写界深度をかなり深くできます。
たとえば屋外でF8やF11まで絞り、
ある程度遠い距離へピントを設定しておけば、
多少距離の判断を外してもピント範囲へ収まりやすくなります。
いわゆるゾーンフォーカスやパンフォーカスを利用する撮影方法です。
そのためローライ35は、
- 街中スナップ
- 旅行
- 日常記録
- 風景
などと相性のよいカメラです。
「ファインダーを覗いてじっくりピント合わせ」
というより、
距離を決めておいてサッと撮る。
この撮影スタイルが似合います。
露出計はある。でも露出は手動
初代Rollei 35にはCdS露出計が搭載されています。
ただし現在のカメラのように露出計がシャッター速度や絞りを自動制御するわけではありません。
カメラ上面に表示される露出計を確認し、
撮影者自身が、
- シャッタースピード
- 絞り
を設定します。
いわゆるマッチニードル式の考え方です。
つまり、
ピント → 手動。
絞り → 手動。
シャッター速度 → 手動。
フィルム巻き上げ → 手動。
露出計だけ、
「その設定だと暗いぞ」
と教えてくれるわけです。
この徹底した手動感もローライ35の魅力です。
前面に巨大なダイヤルが2つ
ローライ35の外観を特徴づけているのが、レンズ左右にある大きな2つのダイヤルです。
ここでシャッタースピードや絞りなどを設定します。
通常のカメラなら、
絞りはレンズ鏡筒。
シャッターダイヤルは上面。
という配置が多いところ、ローライ35では前面へ配置。
これも小型化のためです。
初めて見ると、
「なんでそこに付けた?」
となります。
しかしボディ内部のスペースを極限まで使おうとすると、普通のカメラと同じレイアウトにはできません。
ローライ35には、
小型化のために操作系そのものを再設計した痕跡
が至るところにあります。
アクセサリーシューまで底面
さらに変わっているのがフラッシュなどを装着するアクセサリーシューです。
なんとカメラの、
底。
にあります。
一般的なカメラではファインダー上部付近にシューがあります。
ローライ35では、その場所すら別の機構に使いたかったのでしょう。
結果、
「シュー? 下でいいだろ」
となりました。
小型化への執念がすごい。
底面へフラッシュを付ければ当然カメラの下側へフラッシュが来るため、一般的なカメラとは見た目もかなり異なります。
Made in GermanyとMade in Singapore
中古のローライ35を探していると、
Made in Germany
と
Made by Rollei Singapore
という個体があります。
初期はドイツ・ブラウンシュヴァイクで生産されましたが、1970年代初頭から製造がシンガポールへ移されました。
初代Rollei 35では、
- ドイツ生産:約312,000台
- シンガポール生産:約215,000台
とする資料があります。
そのため中古市場でも両方を見かけます。
ドイツ製だから必ず上、とは限らない
コレクター市場ではMade in Germanyの個体が好まれることがあります。
特に初期型は歴史的価値もあり、価格が高くなる傾向があります。
しかし、
「シンガポール製=粗悪品」
と単純に考える必要はありません。
シンガポール工場はローライの大規模な製造拠点として整備され、精密機械や光学機器も生産していました。
後年の修理関係者の評価として、シンガポール製の品質管理もドイツ製と同等レベルだったという指摘もあります。
撮影目的なら生産国だけでなく、
現在の個体状態
を優先したほうがよいでしょう。
S-Xenar搭載個体もある
初代Rollei 35といえばTessar 40mm F3.5が有名ですが、一部にはSchneider-Kreuznach S-Xenar 40mm F3.5を搭載した個体も存在します。
シンガポール生産期に約30,000台がS-Xenar仕様だったとされています。
そのため中古で、
「ローライ35なのにTessarじゃない!」
となっても、必ずしもレンズ交換された個体ではありません。
純正仕様として存在します。
中古カメラらしい細かなバリエーションのひとつです。
Rollei 35 Sや35 Tとの違い
「ローライ35」という名称は、初代だけでなくシリーズ全体を指して使われることもあります。
そのため中古では型番を確認しましょう。
代表的なモデルには、
- Rollei 35
- Rollei 35 T
- Rollei 35 S
- Rollei 35 TE
- Rollei 35 SE
- Rollei B35
- Rollei C35
- Rollei 35 LED
などがあります。
Rollei 35 T
Rollei 35 Tは、基本的に初代Rollei 35のTessar 40mm F3.5仕様を引き継いだモデルです。
35 S登場後、Tessar版であることを明確にするため「T」の名称が付けられました。
つまり、
T=Tessar。
非常に分かりやすい。
Rollei 35 S
一方のRollei 35 Sは、
Sonnar 40mm F2.8
を搭載した上位モデルです。
F3.5のTessarより1段近く明るく、ローライ35シリーズの人気モデルのひとつとなっています。
こちらは、
S=Sonnar。
中古市場では35 Sのほうが高値になっていることも珍しくありません。
初代Rollei 35の記事を探している場合は、35 Sと混同しないよう注意しましょう。
電池にも注意
初代Rollei 35の露出計には、当時一般的だったPX625系の1.35V水銀電池が使われていました。
現在、水銀電池は通常販売されていません。
そのため露出計を使用する場合は、
- 代替電池
- 電圧変換アダプター
- 電池アダプター
- 外付け露出計
などを検討する必要があります。
単純に現在の1.5V電池へ交換すると露出計の指示にズレが出る可能性があります。
中古購入時には、
「露出計作動」だけでなく、どの電池で確認したのか
まで分かれば理想的です。
もちろん露出計を使わず、スマートフォンの露出計アプリや単体露出計を利用して撮影することもできます。
中古で確認したいポイント
ローライ35は1960年代から1970年代のカメラです。
中古品では状態確認が非常に重要です。
特に確認したいのは、
- TessarまたはS-Xenarレンズのカビ
- レンズのクモリ
- 拭き傷
- シャッター速度
- 絞り羽根
- 沈胴機構
- レンズロック
- 距離リング
- フィルム巻き上げ
- 巻き戻し
- 露出計
- 電池室の腐食
- ファインダーのクモリ
- 裏蓋の状態
などです。
沈胴レンズは必ず確認
ローライ35ではレンズの出し入れが日常的な操作になります。
そのため、
- 引き出したとき正常にロックされるか
- 無理なく収納できるか
- 鏡筒にガタがないか
は特に重要です。
正しい操作をしても引っ掛かる個体は、専門店で確認してもらったほうが安心です。
露出計が壊れていても撮影はできる
電子式露出計が故障している中古個体もあります。
しかしRollei 35そのものの撮影機構は機械式です。
そのため露出計が動かなくても、
- シャッター
- 絞り
- 巻き上げ
が正常なら、外部露出計などを使って撮影できます。
ここは完全電子式コンパクトカメラとの大きな違いです。
電子部分が一部故障したから即撮影不能、とは限りません。
現代でもスナップカメラとして面白い
現在ローライ35を使う最大の理由は、
「小さな機械式35mmカメラを持ち歩く楽しさ」
でしょう。
ポケットや小さなバッグへ入るサイズ。
40mmという使いやすい画角。
目測ピント。
完全手動露出。
フィルム巻き上げ。
沈胴レンズ。
現代のカメラとは何から何まで違います。
特に目測ピントに慣れてくると、
カメラを構える前に距離を設定
↓
ファインダーで構図を見る
↓
シャッター。
という高速なスナップ撮影も可能です。
AFより原始的なのに、慣れれば意外と速い。
これもゾーンフォーカス式カメラの魅力です。
高級感のある小さな機械
ローライ35は単に「小さいから売れたカメラ」ではありません。
金属製ボディや精密な操作感、高品質なレンズを組み合わせた、小型高級カメラとして成立していました。
当時の初期販売価格はクロームモデル487ドイツマルク、ブラックモデル537ドイツマルクとされ、決して安価な普及機ではありませんでした。
小さいから安いのではなく、
小さく作るために手間と技術を使ったカメラ。
ここが重要です。
まとめ
ローライ35は1966年に登場した35mmフルサイズの超小型フィルムカメラです。
発売当時は世界最小の35mmフルサイズカメラとして注目され、約97×60×32mmという小さなボディへ本格的な撮影機構を詰め込みました。
初代モデルでは主にCarl Zeiss Tessar 40mm F3.5を搭載。
さらに、
- 沈胴式レンズ
- CdS露出計
- 完全手動露出
- 目測式ピント
- レンズシャッター
- 前面配置された操作ダイヤル
- 底面のアクセサリーシュー
など、一般的なカメラとはかなり異なる構造を持っています。
しかし、これらの奇妙な配置には理由があります。
とにかく小さくするため。
その一点です。
操作性をそのまま維持して小型化したのではありません。
必要なら操作系の配置まで変え、沈胴機構を採用し、距離計すら省略する。
それでも35mmフルサイズと高品質な40mmレンズは譲らない。
その徹底した設計思想こそローライ35最大の魅力です。
現在では「Rollei 35 S」や「35 T」など多くの派生機も存在し、中古市場ではドイツ製・シンガポール製、Tessar・S-Xenarなどさまざまな個体を見ることができます。
しかし原点は1966年の初代Rollei 35。
「35mmカメラは、ここまで小さくできる。」
それを機械式カメラ全盛期に証明してしまった、カメラ史に残る名機です。









