OLYMPUS-35 ECは、オリンパス光学工業が1969年に発売した35mmフィルム用コンパクトカメラです。
小型の金属製ボディにE.Zuiko 42mm F2.8レンズを搭載し、CdS受光素子と電子制御シャッターによる完全自動露出を採用。
一方、ピント合わせにはオートフォーカスも連動距離計もありません。
撮影者が被写体までのおおよその距離を判断してフォーカスリングを合わせる「ゾーンフォーカス」方式です。
電子化された自動露出と、昔ながらの目測ピント。
1960年代末から1970年代にかけてカメラが急速に小型・自動化していった時代を感じられる一台です。
OLYMPUS-35 ECとは
OLYMPUS-35 ECは1969年に登場した35mmフルサイズのコンパクトカメラです。
取扱説明書で確認できる主な仕様は次のとおりです。
- 使用フィルム:35mmフィルム
- 画面サイズ:24×36mm
- レンズ:E.Zuiko 42mm F2.8
- レンズ構成:4群5枚
- シャッター:Seiko ESF電子シャッター
- シャッター速度:約4秒~1/800秒
- 露出:完全自動プログラムAE
- 受光素子:CdS
- フィルム感度:ASA25~800
- ピント合わせ:ゾーンフォーカス
- 撮影距離:約0.9m~∞
- ファインダー倍率:約0.7倍
- フィルター径:43.5mm
- サイズ:約111×67×49mm
- 重量:約410g
- 電源:水銀電池2個
シャッター速度だけでなく絞りもカメラが自動選択します。ISO100時の自動露出範囲は約4秒から1/800秒までとされており、当時の小型コンパクトとしてかなり広い範囲を電子制御しています。
レンジファインダーではない!
OLYMPUS-35 ECで最初に間違えやすいのがここです。
外観を見ると、
「昔の小型レンジファインダーカメラ」
に見えます。
しかし35 ECには連動距離計がありません。
つまりファインダーを覗いても、
二重像を見る
↓
像を重ねる
↓
ピントが合う
というレンジファインダー式の操作はできません。
ピントは、
被写体まで何mくらいかを自分で判断する目測式。
これが35 ECの撮影方法です。
ファインダー内の絵で距離を確認
とはいえ、完全に勘だけでピントを合わせるわけでもありません。
フォーカスリングには、
- 約1m
- 約1.5m
- 約3m
- ∞
というクリックストップがあり、それぞれ人物やグループ、遠景などに対応したゾーンとして使えます。
さらにファインダー内にも距離を示すシンボルが表示され、現在どの距離へピントを設定しているのか確認できます。
たとえば、
顔のアップ
→ 約1m
少人数
→ 約1.5m
グループ写真
→ 約3m
風景
→ ∞
という具合です。
現在のAFカメラから見ればかなり原始的ですが、距離計を省略することで小型化と操作の簡略化を狙った仕組みです。
最短撮影距離は約90cm
フォーカス可能範囲は約0.9mから無限遠。
つまりスマートフォンのように料理へ10cmまで近づいて撮ることはできません。
被写体へ近づきすぎれば当然ピンボケになります。
35 ECを使うなら、
「ちょっと離れて撮る」
という昔のコンパクトカメラらしい距離感を覚える必要があります。
これもゾーンフォーカス機ならではの撮影体験です。
E.Zuiko 42mm F2.8を搭載
搭載レンズは、
E.Zuiko 42mm F2.8。
4群5枚構成です。
42mmという焦点距離は、35mm判では50mm標準より少し広く、35mm広角より少し狭い位置。
現在でいう40mm前後の準標準レンズに近く、
- 街中スナップ
- 家族写真
- 旅行
- 人物
- 日常記録
などへ使いやすい画角です。
極端な広角でも望遠でもありません。
「カメラを持って歩いて、目の前のものを普通に撮る」
ためのレンズです。
「E.Zuiko」のEには意味がある
オールドオリンパスレンズでは、
D.Zuiko
E.Zuiko
F.Zuiko
G.Zuiko
といった表記を見かけます。
このアルファベットは、レンズ構成枚数を示す旧来の表記です。
Eはアルファベット5番目。
したがって、
E.Zuiko=5枚構成
を意味します。
35 ECの42mm F2.8も実際に5枚構成です。
レンズ名そのものから内部の枚数が分かる。
昔のオリンパスレンズを調べるときの小ネタです。
露出は完全にカメラ任せ
ピントは人間が合わせます。
しかし露出については、
人間がほぼ何もしません。
35 ECにはSeiko ESF電子シャッターが搭載され、CdS露出計の測光結果から絞りとシャッター速度の組み合わせを自動的に決定します。
撮影者が行うのは、
フィルム感度を設定
↓
距離を合わせる
↓
構図を決める
↓
シャッターを押す
だけ。
絞り優先でもありません。
シャッター優先でもありません。
マニュアル露出でもありません。
完全プログラムAEです。
約4秒まで自動露出する
35 ECの電子シャッターで面白いのが、低速側です。
自動制御範囲は、
約4秒~1/800秒。
つまり暗い場所ではカメラが勝手に数秒の長時間露光を選ぶことがあります。
現在なら手ブレ補正やISO感度アップで対応する場面ですが、フィルムではそうはいきません。
暗ければ、
シャッターを長く開ける。
実に正攻法です。
ただし手持ちで4秒は当然ながら厳しいので、暗所ではカメラを固定するかフラッシュを使う必要があります。
黄色ランプはバッテリーチェック兼警告
35 ECには黄色と青色のインジケーターがあります。
黄色ランプはシャッターボタンを軽く押すことでバッテリー状態を確認する機能を持ちます。
正常な電圧が得られていれば点灯します。
また撮影時には低速シャッター警告にも使用されます。
つまり黄色が見えたからといって、
「よし撮れ!」
とは限りません。
場合によっては、
「暗いぞ、ブレるぞ!」
という意味もあります。
昔のカメラらしく、説明書を読まないとランプの意味が若干分かりにくいところです🤣
フラッシュまで自動制御
35 ECには外付けフラッシュ用のホットシューとPC端子があります。
しかも単にフラッシュを発光できるだけではありません。
使用するフラッシュのガイドナンバーをレンズ周囲のリングへ設定すると、撮影距離に応じて適切な絞りをカメラが選択するオートフラッシュマチック機構を利用できます。
さらに対応するフラッシュをアクセサリーシューへ取り付けた場合、光量が十分ならフラッシュを発光せず、不足すると自動的に発光させる仕組みまで備えていました。
1969年のコンパクトカメラとして考えるとなかなか凝っています。
青色ランプはフラッシュのお知らせ
フラッシュ撮影が行われる際には、ファインダー内に青色ランプが点灯します。
つまり、
黄色
→ 電池・低速シャッター関係
青色
→ フラッシュ関係
です。
現在なら背面液晶へ、
「FLASH AUTO」
と文字で出せば済みます。
1969年。
色で察してください。
時代です。
フィルム感度はASA25~800
対応フィルム感度はASA25~800。
現在のISO表記とほぼ同じ数字として考えられます。
DXコードによる自動読み取りなどは当然ありません。
フィルムを入れたら、カメラ上面の感度設定部で自分で設定します。
ISO100のフィルムなら100。
ISO400なら400。
ここを間違えるとカメラはその設定を前提に露出を決めてしまうので、1本撮り終わるまで全部ズレる可能性があります。
フィルム装填時の重要な儀式です。
フィルム送りは背面のサムホイール
35 ECでは一般的な大きな巻き上げレバーではなく、背面にあるサムホイールを回してフィルムを送ります。
撮影。
↓
親指でクルクル。
↓
次の撮影。
小型化を意識したコンパクトカメラらしい操作です。
このフィルム送りによってシャッターもチャージされ、二重露光防止機構も備えています。
オリンパスらしい「小さくする」思想
1960~1970年代のオリンパスは、
「本格的なカメラを小さくする」
ことを非常に得意としていました。
PENシリーズ。
TRIP 35。
35 RC。
後にはOMシリーズ。
35 ECもその流れにあります。
大柄な35mmカメラをそのまま縮小したのではなく、
距離計を省略。
露出を電子化。
巻き上げ機構を小型化。
42mm固定レンズ。
と、必要なものを整理しながらコンパクトにまとめています。
その結果、
111×67×49mm。
35mmフルサイズを使うカメラとして、かなり小さなボディになりました。
TRIP 35とはかなり違う
同じオリンパスの小型35mmカメラとして有名なのが、
OLYMPUS TRIP 35
です。
両方とも、
- 固定レンズ
- ゾーンフォーカス
- 自動露出
- 小型ボディ
なので似ています。
しかし仕組みはかなり違います。
TRIP 35はセレン光電池を利用した機械的な自動露出方式で、基本的に撮影のための電池を必要としません。
一方35 ECは、
CdS露出計+電子シャッター。
露出制御そのものを電池に依存します。
つまり、
TRIP 35=電池なしでも撮れる機械寄り
35 EC=電池を使って高度な自動露出を行う電子寄り
という違いがあります。
最大4秒という点もTRIP 35とは違う
電子シャッターを採用した35 ECでは、暗い場所で約4秒まで露光できます。
TRIP 35のような比較的単純な自動露出機とは違い、光量に応じてかなり幅広くシャッター速度を変更できます。
その代わり――。
電池がなくなれば困ります。
技術が高度になると依存するものも増える。
1970年代カメラの電子化をそのまま見せてくれる違いです。
OLYMPUS-35 ECRとの違い
よく似た兄弟機として、
OLYMPUS-35 ECR
があります。
ここは中古市場でかなり重要です。
EC
→ ゾーンフォーカス
ECR
→ 連動距離計付きレンジファインダー
です。
ECRの「R」は、レンジファインダー機であることを理解する手掛かりになります。
35 ECで、
「ファインダーの二重像が出ない!」
となっても故障ではありません。
最初からありません。
一方ECRには本当に距離計が搭載されています。
外観が近いため、購入時は型番をしっかり確認しましょう。
OLYMPUS-35 EC2も存在する
さらに、
OLYMPUS-35 EC2
もあります。
1970年代初頭に登場した改良型で、基本的な仕様はECと非常によく似ています。
資料ではレンズ、電子シャッター、ゾーンフォーカスなど主要部分はほぼ共通とされ、インジケーターなど細部に変更があります。
そのため中古では、
35 EC
35 EC2
35 ECR
が同じような姿で並びます。
整理すると、
35 EC
=初期型・ゾーンフォーカス
35 EC2
=ECの改良型・ゾーンフォーカス
35 ECR
=レンジファインダー搭載
と覚えると分かりやすいでしょう。
最大の問題は水銀電池
現在35 ECを実際に使うとき最大のハードルになるのが電池です。
取扱説明書では、
RM640などの水銀電池2個
を使用すると指定されています。電圧は当時の水銀電池規格を前提としています。
しかし水銀電池は環境問題から現在では通常販売されていません。
そのため現代では、
- 代替電池
- 電圧調整アダプター
- 補聴器用空気亜鉛電池などを利用する方法
- カメラ側の電圧調整改造
などが検討されます。
ただし35 ECは単に露出計だけが電池を使うカメラではありません。
電子シャッターまで電池へ依存しています。
ここが非常に重要です。
適当な1.5V電池を入れればいい、とは限らない
古い水銀電池使用カメラでは、
「サイズが合う1.5V電池を入れれば動いた」
という話もあります。
しかし指定電圧と異なる電池を使うと、露出計の指示や電子制御へ影響する可能性があります。
特に35 ECは露出を完全自動制御するため、
シャッターが切れた=正しい露出
とは限りません。
実用品として使用するなら、適切な代替方法を確認したほうが安全です。
電池室の腐食は中古の最重要ポイント
さらに古い水銀電池には厄介な問題があります。
液漏れです。
長期間電池を入れっぱなしにされた35 ECでは、
- 電池端子の腐食
- 緑青
- 配線腐食
- 電池室破損
などが起きている可能性があります。
電子シャッター機なので、腐食が内部配線まで進んでいれば修理が難しくなる場合もあります。
中古では外観が美しくても、
まず電池室を見る。
くらい重要なポイントです。
中古で確認したいポイント
OLYMPUS-35 ECを中古で購入する場合は、
- E.Zuikoレンズのカビ
- クモリ
- 拭き傷
- ファインダーのクモリ
- ゾーンフォーカスリング
- 距離表示の連動
- CdS露出計
- 電子シャッター
- 低速シャッター
- 黄色・青色インジケーター
- 電池室
- 電池端子
- フィルム送り
- 巻き戻し
- フラッシュ接点
などを確認しましょう。
特に重要なのは、
電子シャッター・電池室・露出計。
機械式カメラのように、
「露出計が壊れていても勘露出で撮ればいい」
とは簡単にいきません。
35 ECでは露出機構そのものが電子制御だからです。
4秒から1/800秒まで変化するか
正常な35 ECなら、暗い場所と明るい場所でシャッター速度が明らかに変化します。
明るい場所では、
パシャッ。
暗い場所では、
カ……シャッ。
と長くなるはずです。
いつどこで撮っても同じ速度。
極端にシャッターが開きっぱなし。
まったく開かない。
という場合は電子制御系の不具合を疑います。
可能なら実写確認済みの個体を選びたいところです。
CdS受光部にも注意
35 ECではCdSセルによって周囲の明るさを測定します。
ここが正常に働かなければ、プログラムAEも正しく動きません。
レンズだけきれいでも、
カメラが明るさを理解できない
状態では実用になりません。
フィルムを入れる前に明暗を変えながらシャッター速度の変化を確認するとよいでしょう。
ゾーンフォーカスなので「距離計ズレ」はない
一方、レンジファインダー機で定番の、
二重像の縦ズレ・横ズレ
は35 ECでは気にする必要がありません。
なぜなら――。
距離計がないからです。
その代わり確認したいのは、フォーカスリングを回したときにレンズが正常に繰り出し、距離表示が正しく動くこと。
ゾーンフォーカス機にはゾーンフォーカス機なりのチェックポイントがあります。
現代ならゾーンフォーカスがむしろ新鮮
現在のカメラでは、
顔認識。
瞳AF。
動物認識。
被写体追尾。
と、カメラが勝手にピントを合わせてくれます。
35 ECでは、
「あの人まで3mくらい。」
です。
しかし一度3mへ設定してしまえば、同じような距離の被写体ならAFを待つ必要もありません。
構える。
撮る。
巻く。
また撮る。
明るい屋外でF値が絞られれば被写界深度も深くなるため、多少の目測誤差を吸収できます。
慣れるとスナップでは意外と速い方式です。
「全部自動」なのにピントだけ手動
35 ECの面白さを一言で表すなら、ここでしょう。
露出は、
電子制御で完全自動。
ところがピントは、
人間の目測。
1969年にはまだ実用的な小型AFコンパクトは存在しません。
露出の自動化は先に進んだ。
しかしピント合わせの自動化はまだ先。
その技術進化の時間差が、一台のカメラの中にそのまま残っています。
まとめ
OLYMPUS-35 ECは1969年に登場した、35mmフィルム用の小型電子制御コンパクトカメラです。
E.Zuiko 42mm F2.8を搭載し、
- 4群5枚レンズ
- CdS測光
- 完全プログラムAE
- Seiko ESF電子シャッター
- 約4秒~1/800秒
- ASA25~800
- ゾーンフォーカス
- 最短撮影距離約0.9m
- オートフラッシュ機構
などを備えています。
そして最も特徴的なのが、
露出は全自動なのに、ピントは目測
という組み合わせです。
見た目はレンジファインダー風。
しかし距離計はありません。
シャッター速度ダイヤルもありません。
絞りリングで露出を決める必要もありません。
フィルム感度を設定し、距離を選び、シャッターを押す。
それだけです。
一方で電子シャッターを採用しているため、現在中古で使用する場合は水銀電池問題や電池室腐食、電子回路の状態が重要になります。
兄弟機についても、
35 EC/EC2=ゾーンフォーカス
35 ECR=レンジファインダー
という違いを覚えておきたいところです。
1960年代末。
カメラメーカー各社が、
「もっと小さく」
「もっと簡単に」
「もっと自動で」
を競っていた時代。
OLYMPUS-35 ECは、その答えとしてオリンパスが、
「露出は電子回路に全部任せよう。でもピントは人間に任せよう。」
と作ったカメラです。
現在から見ると、その中途半端さがむしろ面白い。
自動化へ向かう途中のカメラ史を、そのまま一台に封じ込めたようなコンパクトカメラです。









