CONTAX RTSは、35mmフィルムを使用するマニュアルフォーカス一眼レフカメラです。
西ドイツのCarl Zeissと日本のヤシカが共同開発したCONTAX一眼レフシステムの第1号機として、1975年に発売されました。Carl Zeiss T*レンズ、絞り優先AE、最高1/2000秒の電子シャッター、電磁式シャッターレリーズなどを備えています。
外観デザインはポルシェ・デザインが担当しました。装飾を抑えた黒いボディーと、撮影に必要な操作部を整理した造形は、後のCONTAX一眼レフにも大きな影響を与えています。(産業技術史資料情報センター)
CONTAX RTSとは
CONTAX RTSは、1975年11月に発売された35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフカメラです。
発売時価格はボディーのみで10万2,000円、Planar T* 50mm F1.4付きで14万5,000円でした。当時の一眼レフとしては高価格帯に位置し、Carl Zeissレンズと電子制御技術を組み合わせた高級システムカメラとして登場しています。(産業技術史資料情報センター)
CONTAXブランドが一眼レフとして復活
CONTAXは、もともとドイツのZeiss Ikonが高級レンジファインダーカメラへ使用していた名称です。
1970年代にCarl Zeissとヤシカが協力し、新しい35mm一眼レフシステムとしてCONTAXブランドを復活させました。RTSはその最初のボディーであり、Carl Zeissが光学系、ヤシカがカメラの製造・電子技術を担う国際的なプロジェクトでした。取扱説明書でも、Carl Zeissとヤシカの共同開発による電子式一眼レフとして説明されています。(Butkus)
「RTS」はReal Timeを掲げた設計思想
RTSでは、撮影者の操作に素早く反応することを重視した「Real Time」という考え方が掲げられました。
取扱説明書では、主なReal Time機能として次の要素が紹介されています。
- LEDによる即時のシャッター速度表示
- 軽い操作で作動する電磁式レリーズ
- 最高1/2000秒の電子シャッター
- 電気式リモートコントロール
- モータードライブとの連動
- Carl Zeiss T*レンズ
現在のカメラでは珍しくない機能もありますが、1970年代半ばには、電子制御を積極的に活用した先進的な構成でした。(Butkus)
ポルシェ・デザインによる外観
CONTAX RTSの外観は、1974年にポルシェ・デザインが手掛けました。
黒を基調としたボディーへ操作部を整然と配置し、豊富な機能を視覚的にすっきりまとめています。ポルシェ公式資料でも、RTSをポルシェ・デザインが初めて担当したカメラとして紹介しています。(Porsche Newsroom)
機能を優先したシンプルな造形
ボディー上面には、シャッターダイヤル、フィルム感度、露出補正、巻き上げレバーなどが配置されています。
大きな装飾やクローム部品を抑えたデザインは、当時の金属製一眼レフとは異なる現代的な印象を与えました。
外観上の美しさだけでなく、ファインダーをのぞいたまま撮影設定を確認しやすくすることも重視されています。
CONTAX/YASHICAマウントを採用
CONTAX RTSは、Carl Zeissとヤシカが共同開発したCONTAX/YASHICAマウントを採用しています。
一般に「C/Yマウント」と呼ばれる3爪式バヨネットマウントで、CONTAX用Carl Zeissレンズだけでなく、対応するヤシカ製レンズも装着できます。(Butkus)
Carl Zeiss T*レンズを使用できる
RTS用には、次のようなCarl Zeissレンズが展開されました。
- Distagon:広角系
- Planar:標準・大口径系
- Sonnar:望遠系
- Tele-Tessar:望遠系
- Makro-Planar:マクロ系
- Vario-Sonnar:ズーム系
レンズには、反射を抑えてコントラストや色再現性を高めるTマルチコーティングが採用されています。RTSの標準レンズは、6群7枚構成のPlanar T 50mm F1.4でした。(Butkus)
MMレンズとAEレンズの違い
C/Yマウントレンズには、後年「AEタイプ」と「MMタイプ」と呼ばれる仕様があります。
初代RTSでは、どちらも絞り優先AEとマニュアル露出に使用できます。RTSにはプログラムAEやシャッター速度優先AEがないため、MMレンズ特有の最小絞り連動機能を積極的に使う場面はありません。
中古レンズを選ぶ際は、C/Yマウントであることを確認すれば、基本的な撮影機能を利用できます。
絞り優先AEを搭載
CONTAX RTSの主な自動露出方式は、絞り優先AEです。
撮影者がレンズの絞りリングからF値を選ぶと、カメラが被写体の明るさを測定し、適切なシャッター速度を無段階で設定します。測光方式はSPD受光素子によるTTL中央重点測光です。(Butkus)
絞り優先AEの基本的な使い方
基本的な撮影手順は次のとおりです。
- 使用するフィルムのISO感度を設定する
- シャッターダイヤルを「AUTO」へ合わせる
- レンズの絞りリングからF値を選ぶ
- ファインダーを見てピントを合わせる
- LEDでシャッター速度を確認する
- シャッターを切る
F1.4やF2などへ絞りを開けば、背景をぼかしやすくなり、暗い場所でも速いシャッター速度を得やすくなります。
F8やF11へ絞るとピントの合う範囲が広がりますが、シャッター速度は遅くなります。
マニュアル露出にも対応
シャッターダイヤルから速度を選べば、マニュアル露出で撮影できます。
ファインダー内には、カメラが測光した適正シャッター速度と、撮影者が設定した速度が表示されます。表示を比較しながら、絞りまたはシャッター速度を変更して露出を決定します。(Butkus)
プログラムAEやシャッター速度優先AEはない
CONTAX RTSが搭載する主な露出方式は、次の2種類です。
- 絞り優先AE
- マニュアル露出
シャッター速度を選ぶとカメラが絞りを決めるシャッター速度優先AEや、両方を自動設定するプログラムAEは搭載していません。
レンズの絞りリングを操作し、被写界深度や背景のぼけを自分で決めることを重視したカメラです。
16個のLEDによるシャッター速度表示
ファインダー内には、16個のLEDを使用したシャッター速度表示があります。
絞り優先AEでは、カメラが選んだ速度をLEDで確認できます。規定速度の中間となる無段階速度も、隣接するLEDの表示によって判断できます。(Butkus)
絞り値もファインダー内で確認できる
ファインダー内では、装着レンズの開放F値と、現在設定している絞り値も確認できます。
そのため、カメラ上部やレンズを見直さなくても、ファインダーをのぞきながら露出設定を把握できます。露出補正が設定されている場合には、警告表示も現れます。(Butkus)
電磁式シャッターレリーズ
CONTAX RTSのシャッターボタンには、電磁式レリーズが採用されています。
機械的な部品を深く押し込む方式ではなく、軽い操作で電気スイッチを作動させます。シャッターを切る際の指の力を抑え、カメラぶれを軽減することが狙いです。(Butkus)
軽すぎる操作感には慣れが必要
シャッターボタンのストロークと操作力は小さく、不用意に触れるとシャッターが切れることがあります。
初めて使用する場合は、フィルムを入れる前にボタンの作動位置を確認しておくとよいでしょう。
電磁式なので、電池がなければ通常のシャッター撮影はできません。
最高1/2000秒の電子シャッター
シャッターは電子制御式の横走りフォーカルプレーン方式です。
絞り優先AEでは約4秒から1/2000秒までを無段階で制御し、マニュアル露出ではBと4秒から1/2000秒までの14段階を選択できます。(Butkus)
高速シャッターの利点
1/2000秒を利用すれば、晴天時でも大口径レンズの絞りを開きやすくなります。
人物撮影で背景をぼかしたい場合や、動く被写体を止めて撮影したい場合に有効です。
ただし、製造から長い年月が経過した中古品では、ダイヤルが1/2000秒へ設定できても、実際の速度が正確とは限りません。
撮影には6V電池が必要
CONTAX RTSは、6Vの銀電池またはアルカリ電池を使用します。
当時の指定電池にはPX28などがあり、現在は形状と電圧が対応する4SR44や4LR44が利用されることがあります。電池は露出計だけでなく、電磁式レリーズと電子シャッターにも必要です。(Butkus)
電池切れでは撮影できない
機械式シャッターを搭載した一眼レフとは異なり、RTSは電池が切れるとシャッターを正常に作動させられません。
撮影時には予備電池を用意しておくと安心です。ボディーにはLED式のバッテリーチェック機能も搭載されています。(Butkus)
明るい固定式ファインダー
ファインダーは固定式のペンタプリズム式です。
倍率は約0.87倍、視野率は約92%。銀蒸着ペンタプリズムと多層膜処理されたミラーによって、明るいファインダー像を得る設計です。(Butkus)
フォーカシングスクリーンを交換できる
フォーカシングスクリーンは、レンズマウント側から交換できます。
標準スクリーンのほか、用途に応じた4種類のスクリーンが用意されました。望遠、マクロ、建築、暗い場所での撮影など、使用するレンズや被写体に合わせて選択できます。(Butkus)
スクリーン表面は傷つきやすいため、指や布で直接触れないよう注意しましょう。
ミラーアップや多重露出に対応
CONTAX RTSには、ミラーアップ機構が搭載されています。
接写、望遠撮影、低速シャッターなどで、ミラーの動作による振動を抑えたい場合に使用できます。構図とピントを決めてからミラーを上げるため、作動中はファインダー像を確認できません。(Butkus)
多重露出も可能
巻き戻し解除ボタンを利用し、フィルムを送らずにシャッターだけをチャージすることで、同じコマへ複数回露光できます。
露光を重ねるほど光量も加算されるため、撮影回数に応じて露出を減らす必要があります。(Butkus)
絞り込み確認を搭載
被写界深度確認ボタンを押すと、レンズが設定絞りまで閉じます。
ファインダー像は暗くなりますが、実際にピントが合う範囲や背景のぼけ方を撮影前に確認できます。(Butkus)
モータードライブへ対応
CONTAX RTSは、専用のReal Time WinderやProfessional Motor Driveへ対応しています。
電磁式レリーズと駆動装置を電気的に連動させ、フィルム巻き上げとシャッターチャージを自動化します。交換式の裏蓋には、通常のデータバックだけでなく、モータードライブと組み合わせる250枚撮りフィルムバックも用意されました。(Butkus)
中古のワインダーやモータードライブでは、電池室の液漏れ、接点の腐食、モーターの空転に注意が必要です。
CONTAX RTSの基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年月 | 1975年11月 |
| カメラ形式 | 35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフ |
| 画面サイズ | 24×36mm |
| レンズマウント | CONTAX/YASHICAマウント |
| 標準レンズ | Carl Zeiss Planar T* 50mm F1.4 |
| ピント合わせ | マニュアルフォーカス |
| 露出方式 | 絞り優先AE・マニュアル |
| 測光方式 | SPD・TTL中央重点測光 |
| 測光範囲 | ISO100・F1.4でEV-1~19 |
| フィルム感度 | ISO12~3200 |
| 露出補正 | 1/4倍~4倍 |
| シャッター | 電子制御フォーカルプレーン |
| AE時の速度 | 約4秒~1/2000秒・無段階 |
| マニュアル時 | B、4秒~1/2000秒 |
| ファインダー倍率 | 約0.87倍 |
| ファインダー視野率 | 約92% |
| スクリーン | 交換式 |
| フィルム巻き上げ | レバー式・分割巻き上げ可能 |
| 巻き上げ角 | 約140度 |
| ミラーアップ | 対応 |
| 多重露出 | 対応 |
| 裏蓋 | 交換式 |
| 電源 | 6V電池1個 |
| サイズ | 約142×89.5×50mm |
| ボディー重量 | 約700g |
主な仕様はCONTAX RTSの取扱説明書と国立科学博物館の資料に基づきます。(産業技術史資料情報センター)
CONTAX RTS II Quartzとの違い
1982年には、後継モデルのCONTAX RTS II Quartzが発売されました。(Butkus)
RTS IIでは初代の基本デザインと操作思想を継承しながら、電子制御や測光、フラッシュ機能などが改良されています。
初代RTSは、CONTAX一眼レフシステムの始祖としての歴史性と、より簡潔な構造が魅力です。一方、実用上の機能や電子制御の改良を重視する場合はRTS IIも候補になります。
中古市場では商品名を単に「CONTAX RTS」とする場合があるため、正面の機種表示や上部の操作部を確認しましょう。
中古のCONTAX RTSを購入するときの注意点
電池室の液漏れ
電池室を開き、次の状態を確認します。
- 白色や緑色の腐食
- 電極の錆
- 接点の変形
- 電池蓋の破損
- 蓋を閉めても電源が不安定
- 腐食が内部へ進んだ形跡
RTSは電池がなければ撮影できません。新品の適合電池を入れ、露出計、LED、シャッターを確認しましょう。
電磁式レリーズ
シャッターボタンへ軽く触れ、安定して作動するか確認します。
反応しない、押していないのに作動する、何度か押さなければ切れない場合は、スイッチや電気接点に問題がある可能性があります。
電子シャッター
AUTO位置で明るい場所と暗い場所へ向け、シャッターの作動時間が変化するか確認します。
マニュアルでは4秒から1/2000秒まで速度を変更します。高速側は音だけで精度を判断できないため、実写またはシャッターテスターによる確認が理想です。
ファインダー内LED
LEDシャッター速度表示に、欠け、極端な暗さ、点滅がないか確認します。
絞り値表示、設定速度、露出補正警告が正しく見えることも重要です。電子表示が不安定な個体では、電源回路や接点の整備が必要になる場合があります。
C/Yマウントの連動
レンズを装着し、絞りリングを回したときにファインダー内の絞り表示が連動するか確認します。
シャッターを切ると、絞り羽根が設定値まで閉じ、撮影後に素早く開放へ戻る必要があります。
シャッター幕
裏蓋を開け、シャッター幕に次の異常がないか確認します。
- 破れや穴
- 強いしわ
- 幕のたるみ
- 油の付着
- 幕端の剥がれ
- 走行途中での停止
シャッター幕は薄く傷つきやすいため、指で押したり拭いたりしてはいけません。
ミラーとスクリーン
シャッターを切り、ミラーが上昇して正しい位置へ戻るか確認します。
ミラーアップ機構、絞り込み確認、フォーカシングスクリーンの固定状態も点検しましょう。スクリーンがずれていると、ファインダーで合ったピントとフィルム面のピントが一致しない可能性があります。
モルトの劣化
裏蓋周辺やミラー受けのモルトは、経年劣化によって粉状または粘着質になることがあります。
裏蓋側の劣化は光線漏れ、ミラー受けの劣化はミラー停止位置や作動音に影響します。
付属レンズ
Carl Zeissレンズ付きの場合は、次の部分も確認します。
- カビやクモリ
- 強い拭き傷
- バルサム切れ
- 絞り羽根の油
- フォーカスリングの固着
- マウント部分の変形
- T*コーティングの傷み
ボディーが正常でも、レンズの強いクモリや絞り不良があると撮影結果へ影響します。
CONTAX RTSはどんな人に向いている?
CONTAX RTSは、次のような人に向いています。
- C/YマウントのCarl Zeissレンズを使いたい人
- PlanarやDistagonをフィルムで楽しみたい人
- 絞り優先AEを中心に撮影する人
- マニュアルフォーカスを楽しめる人
- ポルシェ・デザインのカメラに興味がある人
- 1970年代の高級電子式一眼レフが好きな人
- LED表示や電磁式レリーズを体験したい人
- CONTAX一眼レフの原点を収集したい人
一方、電池なしで撮影できる機械式カメラや、オートフォーカスを求める人には向きません。
電子回路へ依存するモデルなので、外観の美しさだけでなく、シャッター、露出計、LED、電磁式レリーズの動作状態を優先して選ぶ必要があります。
まとめ
CONTAX RTSは、1975年に登場したCONTAX一眼レフシステム最初の35mmカメラです。
Carl Zeissとヤシカの共同開発によるC/Yマウント、Carl Zeiss T*レンズ、絞り優先AE、最高1/2000秒の電子シャッター、16灯LED表示、電磁式レリーズなどを搭載しています。(産業技術史資料情報センター)
ポルシェ・デザインが手掛けた黒いボディーは、複雑な電子機能を整理された外観へまとめ、後のCONTAXシリーズへ続くデザインの基礎となりました。(Porsche Newsroom)
中古で購入するときは、6V電池を入れた状態で、電子シャッター、電磁式レリーズ、露出計、ファインダー内LED、レンズの絞り連動を確認しましょう。電池室、シャッター幕、ミラー、モルト、付属するCarl Zeissレンズの状態も重要です。
正常に動作する個体なら、1970年代の先進的な電子制御とポルシェ・デザイン、Carl Zeiss T*レンズを一つのシステムとして楽しめる、CONTAX史上重要な一台です。









