ARCO CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4は、アルコ写真工業が8mm映画撮影用として展開した広角シネレンズです。
1950年代後半のARCO EIGHT MODEL 803Aでは、
- 6.5mm F1.4
- 13mm F1.4
- 38mm F1.4
という3本のCINE ARCOレンズが用意されていました。
ARCO自身の当時の販売資料にも、MODEL 803Aのレンズとして「Cine Arco F1.4 13, 6.5, 38mm」と明記されています。さらに803Aは8・16・24・32・64コマ/秒の撮影速度を備え、内蔵光電式露出計にも対応していました。
この3本を役割で分けると、
- CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4=広角
- CINE-S.ARCO 13mm F1.4=標準
- CINE-T.ARCO 38mm F1.4=望遠
となります。
今回扱う6.5mm F1.4は、このシステムの最広角側です。
現在の35mm判カメラで6.5mmと聞けば超魚眼クラスを想像しますが、ARCO CINE-W.ARCOは非常に小さな8mm映画フィルムを前提としています。
つまり6.5mmという短い焦点距離は、8mmシネフォーマットで広角を得るための数字です。
さらに中古・実物研究資料ではDマウント仕様、固定焦点式の個体が確認されており、現代ではPENTAX Qなど小型センサーのミラーレスへアダプターを介して装着し、オールドシネレンズとして楽しむ例もあります。
この記事では、ARCO CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4の歴史、8mm映画での位置づけ、Dマウント、F1.4の意味、固定焦点、CINE-S・CINE-Tとの違い、現代デジタルでの使用、中古購入時の注意点まで詳しく解説します。
ARCO CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4とは
ARCO CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4は、アルコ写真工業が製造した8mm映画用の広角レンズです。
ARCOは1950年代にカメラや8mmムービーカメラを製造していた日本メーカーで、MODEL 803Aの当時資料にはメーカー名として、
ARCO PHOTOGRAPHIC INDUSTRIAL CO., LTD.
と記載されています。
803Aは回転式の3本レンズシステムを備えた高機能8mmカメラで、資料写真でも前面に複数のレンズを配置した構造を確認できます。
CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4は、その広角撮影を担当します。
「W」はWideを示す広角担当
同時代の現存レンズでは、
CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4
CINE-S.ARCO 13mm F1.4
CINE-T.ARCO 38mm F1.4
という名称が確認されています。3本セットの現存例もあります。
焦点距離との対応から、
- W=Wide
- S=Standard
- T=Tele
と理解すると非常に分かりやすい構成です。
6.5mmが広角。
13mmが標準。
38mmが望遠。
ズームレンズではなく、必要な画角ごとにレンズそのものを切り替える時代でした。
MODEL 803Aでは3本すべてF1.4
ここがARCOシステムの面白いところです。
当時の803A販売資料では、
6.5mm・13mm・38mmのすべてがF1.4
です。
広角だけ暗い。
望遠だけ暗い。
という構成ではありません。
3つの画角すべてで開放F1.4を維持しています。
映画撮影では静止画のように、
「暗いから1秒露光しよう」
とは簡単にできません。
フィルムを一定速度で連続走行させる必要があるため、1コマあたりの露光時間には制約があります。
そのためF1.4という大口径には大きな意味がありました。
廉価版MODEL-KはF1.8だった
当時の同じARCOセールスシートにはMODEL-Kも掲載されています。
こちらも、
- 13mm
- 6.5mm
- 38mm
の3焦点ですが、レンズはF1.8です。
さらに撮影速度も8~32コマ/秒までとなっています。
対して上位803AはF1.4で、最高64コマ/秒。
つまりCINE-W.ARCO 6.5mm F1.4は、
単なる6.5mmレンズではなく、ARCOの上位8mmシステムを構成した大口径広角レンズ
として見ることができます。
8mm映画用だから6.5mmでも広角になる
レンズの画角は焦点距離だけでは決まりません。
撮影面の大きさとの組み合わせで決まります。
Dマウントは主に8mm映画カメラで使用されたマウントです。ダブル8の1コマは非常に小さく、現代の35mmフルサイズとは比較にならないほど小さい撮影面を使用します。
そのため6.5mmは、
「超魚眼」
ではなく、
8mmシネで使う広角レンズ
になります。
ARCO自身も803Aで13mmを中間、38mmを長焦点側として組み合わせています。
Dマウントを採用
現存するCINE-W.ARCO 6.5mm F1.4はDマウント仕様として確認されています。
Dマウントの代表的な規格は、
- ねじ径:約15.88mm
- 5/8インチ
- 32山/インチ
- フランジバック:約12.29mm
です。
非常に小さなねじ込みマウントです。
手のひらに乗せると、35mm一眼レフ用交換レンズとのサイズ差に驚くでしょう。
Cマウントとは別物
シネレンズではCマウントも有名です。
しかし、
CマウントとDマウントは互換ではありません。
CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4を単に、
「古いシネレンズだからCマウントだろう」
と判断しないようにしましょう。
Dマウントは5/8インチ径の非常に小さな規格で、フランジバックも約12.29mmです。
中古購入では必ず後部マウントを確認します。
フランジバックが非常に短い
約12.29mmというフランジバックは非常に短い数字です。
そのため現代カメラへ流用する場合、
どのカメラでも簡単なアダプターで使えるわけではありません。
一般的な一眼レフはレンズマウントからフィルム・センサーまでの距離がはるかに長いため、Dマウントレンズを正しい位置へ置くことが困難です。
一方、短いフランジバックを持つ小型ミラーレスでは利用できる可能性があります。
PENTAX Qで人気が復活したDマウント
Dマウントシネレンズの現代的な遊び方として有名なのがPENTAX Qシリーズです。
DマウントをPENTAX Qへ装着して撮影するためのアダプターが流通し、6.5mmクラスの古いシネ広角レンズも再評価されました。
CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4についても、PENTAX Q/Q10で使用したユーザーから、特定個体ではケラレが目立たなかったという報告があります。ただし同じ名称でも仕様差や個体差があり得るため、すべての組み合わせで無条件に画面をカバーすると考えるべきではありません。
PENTAX Qでは「普通の広角」に近づく
PENTAX Q/Q10は1/2.3型センサーを使用します。
Dマウント利用資料では、このサイズのクロップ係数はおよそ5.58倍とされています。
6.5mmにこの程度のクロップがかかるため、35mm判換算ではおおむね35mm前後に近い画角になります。
つまり、
8mm映画では広角だった6.5mmが、PENTAX Qでもスナップ向きの広角として使いやすい
という面白い関係があります。
Q7やQ-S1はセンサーサイズが少し大きいため、さらに広い画角になります。
ただしセンサーが大きくなるほどレンズ本来のイメージサークル外側を利用するため、周辺減光や像流れが出る可能性は高くなります。
イメージサークルはかなり小さい
CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4は8mmシネ用です。
当然ながら35mmフルサイズをカバーする目的では設計されていません。
実物をデジタル撮影で検証したオールドレンズ研究資料では、イメージサークルはかなり小さく、1/3インチ級と評価されています。
これはメーカー公称値ではなく実写研究による評価ですが、
大型センサー向けレンズではない
ことを理解するには重要です。
フルサイズ用6.5mmとしては使えない
「6.5mm F1.4!」
という数字だけを見ると、
「フルサイズでとんでもない超広角が撮れるのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、そうではありません。
フルサイズセンサーへ普通に投影できるほど大きなイメージサークルは持っていません。
仮に物理的に取り付けても、画面のごく中央に小さな像が形成されるか、大きなケラレが生じます。
このレンズは、
8mmシネ用6.5mm
です。
フルサイズ用超広角6.5mmではありません。
F1.4という大口径
開放F値はF1.4です。
1950年代の8mm広角シネレンズとして非常に明るい仕様です。
803Aには最大64fpsの高速撮影機能がありました。
高速撮影では1コマあたりの露光時間が短くなります。
そのためレンズをF1.4まで開けられることには、単にボケを作る以上の実用的意味があります。
F1.4でも完全なパンフォーカスとは限らない
6.5mmという非常に短い焦点距離なので、被写界深度はかなり深くなります。
しかしF1.4では、どこからどこまででも完全にピントが合うわけではありません。
実物研究資料でも、このレンズは固定焦点式ながら、F1.4の大口径であるため完全なパンフォーカスレンズとは言えないとされています。
現代デジタルで開放撮影する場合には、固定された合焦距離との関係を理解する必要があります。
固定焦点式の個体が確認されている
CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4について、現存個体を調査した複数の資料では固定焦点式とされています。
つまり一般的な交換レンズのような大きなフォーカスリングを回し、
0.5m。
1m。
3m。
∞。
と自由にピント移動するタイプではありません。
これは故障や部品欠品ではなく、6.5mm超広角シネレンズとしての設計です。
フォーカスリングがないから故障とは限らない
中古写真を見て、
「フォーカスリングがない」
「距離目盛りが見当たらない」
と驚くかもしれません。
しかし固定焦点仕様なら正常です。
特にこのレンズでは、
動かない=固着
と、
そもそもフォーカシング機構がない
を区別しなければなりません。
中古出品者側も仕様を理解していない場合があります。
現代デジタルでは装着位置がピントに直結する
固定焦点レンズをアダプターで使う場合、レンズ自体でフォーカスを微調整できないことがあります。
そのため、
アダプター厚
レンズのねじ込み量
フランジ位置
がピントへ大きく影響します。
Dマウントの規定フランジバックは約12.29mmです。
アダプターの寸法がわずかに違うだけでも、特に無限遠側の合焦状態が変わる可能性があります。
「無限遠が出ない=レンズ不良」とは限らない
PENTAX Qなどへ装着して遠景へ合わない場合、
すぐにレンズ不良と判断しないようにしましょう。
固定焦点式では特に、
- アダプター厚
- マウントのねじ込み位置
- レンズ側の過去の分解
- スペーサー
- 改造
などが影響します。
別アダプターでも確認できると原因を切り分けやすくなります。
レトロフォーカス系とする実物研究がある
メーカーによる詳細な光学断面図は現在容易に確認できません。
一方、実物を分解・撮影したオールドレンズ研究資料では、この6.5mm F1.4をレトロフォーカス系の広角設計として紹介しています。
非常に短い焦点距離でありながら、8mmカメラの機構へ必要な後方空間を確保するための広角設計と考えられます。
ただし正確な群数・枚数について確実なメーカー一次仕様を確認できないため、本記事では断定しません。
光学構成を無理に断定しない
中古レンズ記事では、
「○群○枚」
という数字を書きたくなります。
しかしCINE-W.ARCO 6.5mm F1.4については、現時点でメーカー自身による確実なレンズ構成資料を確認しにくい状態です。
そのため、
レトロフォーカス系とする実物研究はあるが、正確なメーカー公称群数・枚数は不明
としておくのが安全です。
似た6.5mmレンズの光学構成をそのまま転載してはいけません。
素直な描写とする実写報告
実物研究資料では、CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4について、画面全体に比較的均質で素直な描写をすると評価されています。
ただしこれは現代デジタルへ流用した際の作例評価です。
本来の8mm映画ではさらに小さな範囲を使用します。
現代デジタルでは、
- センサーサイズ
- アダプター
- レンズ個体差
- 絞り
- 光線状態
によって描写は変わります。
「このレンズなら必ず同じ描写になる」と考えないようにしましょう。
38mm F1.4とは描写の出方も違う
同じARCO F1.4シリーズでも、38mm F1.4は望遠。
6.5mm F1.4は超短焦点の広角です。
38mmでは大きなデジタルセンサーへ流用すると周辺収差やボケの特徴を楽しみやすい一方、6.5mmはイメージサークルそのものがかなり小さくなります。
つまり現代流用では、
CINE-T 38mm=ボケ・周辺描写を遊びやすい
CINE-W 6.5mm=小型センサーで超小型広角として遊びやすい
という方向性の違いがあります。
ARCO EIGHT 803Aとは
CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4を語るなら、803Aも知っておきたいところです。
ARCOの販売資料によると、803Aは、
- 6.5・13・38mm F1.4
- 8fps
- 16fps
- 24fps
- 32fps
- 64fps
- 光電式露出計
- フィルム巻き戻し機構
- フェードイン/フェードアウト用可変シャッター
などを備えていました。
かなり本格的です。
家庭の記録だけでなく、撮影表現そのものを楽しむ方向まで踏み込んでいます。
シャッター開角度も変更できた
当時の広告には、
Shutter Slot Angle Adjustable from 0° to 165°
と大きく記載されています。
シャッター開角度を変えれば露光量を調整できるだけでなく、巻き戻し機構と組み合わせてフェード表現などにも利用できます。
ARCOは広告内で巻き戻しによるオーバーラップと、シャッター調整によるフェードイン・フェードアウトもアピールしています。
6.5mm F1.4は、そうした映画表現を行うための広角側光学系でした。
3本レンズを切り替えるターレット
803Aの広告写真を見ると、カメラ前面に複数のレンズが配置されています。
当時の収集資料でも803Aは3本レンズを切り替えて使用するターレット式8mmカメラとして記録されています。
つまり撮影中、
広い画面が欲しい。
ターレットを回して6.5mm。
普通の画角なら13mm。
被写体を寄せたいなら38mm。
という使い方でした。
現在ならズームリングをひねる操作を、レンズそのものをガチャンと切り替えることで実現しています。
ファインダーも焦点距離切り替えへ対応
ARCOの広告では、使用レンズの切り替えに合わせてファインダー側も変化し、フィルムカウンターも常時確認できることをアピールしています。
別の803A資料でも、各レンズへ対応した視野を得られるファインダー機構が特徴として紹介されています。
単にレンズを3本付けただけではなく、撮影システムとして連動させようとしていたわけです。
6.5mm F1.8版も存在するため注意
中古で特に重要です。
ARCOにはCINE-W.ARCO 6.5mm F1.8も存在します。
当時資料でもMODEL-Kのレンズは6.5mmを含めF1.8とされています。
さらに収集資料では6.5mm F1.8にも外観の異なる複数タイプが記録されています。
したがって、
「ARCOの6.5mmだからF1.4」
ではありません。
必ず前面刻印を確認しましょう。
CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4の基本スペック
確認可能な一次資料と実物資料をもとにまとめると次のようになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メーカー | ARCO PHOTO INDUSTRIAL/アルコ写真工業 |
| レンズ名 | CINE-W.ARCO |
| 用途 | 8mm映画撮影 |
| 焦点距離 | 6.5mm |
| 開放F値 | F1.4 |
| レンズタイプ | 広角 |
| マウント | Dマウント |
| マウント方式 | ねじ込み |
| Dマウント径 | 約15.88mm |
| ねじピッチ | 32TPI |
| フランジバック | 約12.29mm |
| フォーカス | 現存F1.4個体では固定焦点式が確認される |
| 絞り | 手動 |
| AF | なし |
| 電子接点 | なし |
| 主な対応機 | ARCO EIGHT 803Aなど |
| 同シリーズ | 13mm F1.4・38mm F1.4 |
| 光学設計 | 実物研究ではレトロフォーカス系 |
| 製造時代 | 1950年代後半を中心とするARCO 8mm時代 |
| 現代利用 | PENTAX Qなど小型センサー機 |
803Aに6.5・13・38mm F1.4が用意されたことはARCO当時資料で確認できます。
固定焦点・レトロフォーカス系という情報は現存レンズの実物研究によるものです。
現代カメラでの基本的な使い方
Dマウントであることを確認する
まず後部を確認します。
過去に改造されている個体では別マウントになっている可能性があります。
対応アダプターを用意する
PENTAX Qなど、Dマウントを適切な位置へ置けるカメラを選びます。
レンズをねじ込む
Dマウントは非常に細いねじです。
斜めに入れないよう慎重に装着します。
絞りを選ぶ
F1.4から絞り込み側へ手動で変更します。
電子制御はありません。
固定焦点なので構図と距離を考える
一般的なMFレンズのように被写体ごとにフォーカスリングを回すのではなく、固定されたピント位置と被写界深度を利用します。
拡大表示で確認する
現代ミラーレスなら、可能であればライブビュー拡大で遠景と近距離の合焦状態を確認します。
無限遠がずれる場合はアダプターも疑う
固定焦点式ではアダプター精度が特に重要です。
レンズだけを故障扱いしないようにしましょう。
中古購入時に確認したいポイント
まず「F1.4」であることを確認する
最初のチェックです。
ARCOには6.5mm F1.8も存在します。
前玉周辺に、
CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4
と刻印されていることを確認します。
「W」を確認する
同シリーズにはSとTがあります。
- W=6.5mm広角
- S=13mm標準
- T=38mm望遠
です。
非常に小型なので、商品写真だけでは焦点距離を見間違える可能性があります。
Dマウントがオリジナル状態か
後部マウントを確認します。
過去にPENTAX Q用へ直接改造した個体や、別のマウントへ加工した個体が存在する可能性があります。
コレクション目的ならオリジナルDマウントを優先しましょう。
Dマウントのねじ山
非常に細いねじなので、
- 山つぶれ
- 斜めねじ込み跡
- 打痕
- 欠け
- 強い汚れ
を確認します。
アダプターへ途中までしか入らない場合、無理に締めてはいけません。
フランジ位置
デジタル利用では重要です。
レンズを最後まで正しく装着しても遠景が合わない場合、
- アダプター厚
- マウント面
- スペーサー
- 過去の改造
を確認します。
Dマウントの規定フランジバックは約12.29mmです。
フォーカスリングがなくても正常
F1.4の現存個体では固定焦点式が確認されています。
したがって、
「ピントリングがない!」
だけで欠品扱いしないようにします。
固定部にガタがないか
固定焦点だからこそ、光学ユニットの取り付けにガタがないことが重要です。
レンズ本体を軽く確認し、
- 光学部がぐらつく
- 鏡筒が傾く
- マウントが緩む
などがないことを見ます。
過去のピント調整跡
固定焦点レンズをデジタルへ流用するため、スペーサーを抜いたり、マウント位置を変更したりする改造例があります。
ネジに強い工具傷がある場合は、
オリジナルのピント位置から変更されていないか
確認したいところです。
カビ
70年近い古いシネレンズです。
強いライトを斜めから当て、
- 糸状
- 蜘蛛の巣状
- 点状に広がるもの
がないか確認します。
曇り
カビ以上に重要な場合があります。
小型レンズなので、わずかな白濁でも光学系全体に占める割合が大きくなります。
強い曇りは、
- コントラスト低下
- フレア
- 黒浮き
- 発色低下
につながります。
小さなチリ
多少のチリは年代を考えれば珍しくありません。
小さなチリ一粒よりも、
カビ・強い曇り・傷・接合異常
を優先して確認しましょう。
前玉
6.5mm広角では前玉の状態も重要です。
- 強い拭き傷
- 深い線傷
- コーティング剥離
- カビ跡
を確認します。
古いレンズなので、清掃跡が多少ある個体は珍しくありません。
後玉
Dマウントレンズは非常に小さく、後部も保護しにくいため、
- 傷
- 指紋
- カビ
- 汚れ
を念入りに見ます。
リアキャップなしの個体では特に重要です。
コーティング状態
色付きの反射だけなら異常とは限りません。
見るべきなのは、
- まだらな剥離
- 白濁
- カビ跡
- 傷による膜の欠損
です。
接合部の異常
古いレンズなので、レンズ接合面に異常がないかも確認します。
虹色の不規則な模様や、周辺から白く侵入するような症状があれば慎重に判断します。
絞りリング
F1.4から絞り込み側まで操作します。
確認するのは、
- 固着していない
- 急に重くならない
- ガタがない
- 最小側まで動く
ことです。
絞り羽根
前後から見ながらリングを回します。
羽根が均等に動くことを確認します。
一枚だけ動かない。
途中で引っ掛かる。
極端に形が崩れる。
こうした個体は整備が必要です。
絞り羽根の油
完全手動絞りなので、一眼レフの自動絞りほど瞬発力は要求されません。
それでも大量の油は固着や羽根外れにつながる可能性があります。
できれば乾いた羽根を選びましょう。
F1.4まで完全に開くか
リングがF1.4位置でも、羽根が途中まで残っている個体は注意です。
内部機構のずれや固着が考えられます。
絞った状態の開口形状
羽根の一部が外れていないか確認します。
極端に非対称なら修理が必要な可能性があります。
鏡筒のへこみ
レンズ自体が非常に小さいため、落下すると全体へ影響しやすくなります。
- 前枠
- 絞りリング
- Dマウント部
にへこみがないか確認します。
フィルター・キャップ
現存品にはARCO銘のフィルターや純正キャップが付属する例も確認されています。
オリジナル付属品が揃っていればコレクション面では魅力があります。
ただし光学状態より優先する必要はありません。
ARCO EIGHTとのセットなら3本を見る
803Aなどとのセット販売なら、
- CINE-W 6.5mm F1.4
- CINE-S 13mm F1.4
- CINE-T 38mm F1.4
の3本が揃っているか確認します。
このF1.4三本構成は当時のARCO資料にも記録されています。
ターレットの動作
カメラ付きならレンズだけでなくターレットを回します。
各レンズ位置で確実に止まり、
撮影光軸へ正しく入ることを確認します。
ガタが大きい場合は、レンズ単体が正常でも撮影位置がずれる可能性があります。
ファインダー切り替え
803Aは使用レンズに応じたファインダー機構を特徴としていました。
6.5mm位置へ切り替えたとき、広角用の視野が正常に得られるか確認したいところです。
PENTAX Qで試すならケラレを見る
実写で、
- 四隅が完全に黒くならないか
- 周辺光量が急激に落ちないか
- 端だけ大きく流れないか
を確認します。
Q/Q10でケラレなしとする個別報告はありますが、同じ名称でも仕様差・個体差があり得るという注意も同じ報告内で示されています。
Q7・Q-S1ではさらに慎重に
Q7・Q-S1はQ/Q10よりセンサーが大きいため、より外側の像を使います。
そのため画角は広くなりますが、
- ケラレ
- 周辺減光
- 像流れ
が増える可能性があります。
「センサーが大きいほど必ず良い」とは限りません。
フルサイズでの実用を期待しない
非常に重要です。
これは8mm用Dマウントレンズです。
フルサイズで普通の6.5mm F1.4として使う用途には向きません。
買ってから、
「四隅どころかほとんど真っ黒!」
となっても、それはレンズの故障ではなくフォーマットの違いです。
ARCO CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4が向いている人
このレンズは次のような人に向いています。
- ARCO EIGHTを収集している人
- 国産8mmカメラが好きな人
- Dマウントシネレンズを集めている人
- PENTAX Qでオールドレンズを楽しみたい人
- 小さな広角レンズが好きな人
- 1950年代の日本製光学機器に興味がある人
- 6.5・13・38mmのARCO三本セットを完成させたい人
- 現代レンズとは違うシネ描写を試したい人
特に、
「CINE-T.ARCO 38mm F1.4を持っていて、同シリーズを揃えたい」
という人にはど真ん中です。
広角側の6.5mmが入れば、ARCO F1.4トリオの意味が一気に見えてきます。
向いていない人
一方、次のような人には向きません。
- フルサイズ用超広角を探している人
- AFが必要な人
- 自由にフォーカスリングを回したい人
- 大きなイメージサークルが必要な人
- 一般的な一眼レフへ簡単に装着したい人
- 最新レンズの周辺画質を求める人
- アダプター選びをしたくない人
現代デジタルで遊ぶには、Dマウントとセンサーサイズの知識が多少必要です。
CINE-T.ARCO 38mm F1.4との違い
同じF1.4シリーズでも用途は対照的です。
| 項目 | CINE-W.ARCO | CINE-T.ARCO |
|---|---|---|
| 焦点距離 | 6.5mm | 38mm |
| 開放 | F1.4 | F1.4 |
| 用途 | 広角 | 望遠 |
| 本来のフォーマット | 8mm | 8mm |
| マウント | Dマウント | Dマウント |
| フォーカス | F1.4現存個体は固定焦点式が確認される | MF仕様 |
| 現代流用 | 小型センサー向き | より大きなセンサーでも特殊描写を楽しみやすい |
| 注意点 | 小さなイメージサークル | 周辺収差・ケラレ |
38mmが「豆粒サイズの大口径望遠」なら、
6.5mmは、
「豆粒サイズの大口径広角」
です。
まとめ
ARCO CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4は、1950年代後半のARCO 8mmムービーシステムで使用されたDマウント広角シネレンズです。
ARCO自身の当時資料では、上位MODEL 803Aのレンズとして、
13mm・6.5mm・38mm、すべてF1.4
という構成が明記されています。
対して廉価版MODEL-Kは同じ3焦点ながらF1.8でした。
つまり6.5mm F1.4は、
ARCOが高性能8mm機803Aへ用意した広角側の大口径レンズ
という位置づけです。
Dマウントは約15.88mm径・32TPI、フランジバック約12.29mmという非常に小さな規格です。
現在ではPENTAX Qなど小型センサー機へアダプターを介して装着する楽しみ方があります。
一方、このレンズはフルサイズ用の6.5mm F1.4ではありません。
イメージサークルは非常に小さく、現代デジタルへの流用ではセンサーサイズとの相性が重要です。実物研究では小型のレトロフォーカス系広角レンズ、固定焦点式として紹介されています。
中古購入時には、
- CINE-W.ARCOであること
- 6.5mmであること
- F1.4であること
- F1.8版と間違えないこと
- Dマウントが残っていること
- ねじ山
- カビ
- 曇り
- 前後玉
- 絞り羽根
- 絞りリング
- 固定焦点を故障と誤認しないこと
- アダプターでの合焦状態
- デジタル使用時のケラレ
まで確認しましょう。
そして、このレンズの魅力は単体のスペックだけではありません。
6.5mm F1.4。
13mm F1.4。
38mm F1.4。
広角、標準、望遠。
1950年代のARCOは、この3本をカメラ前面へ並べました。
広く撮りたければ6.5mmを撮影位置へ回す。
普通なら13mm。
寄せたければ38mm。
ズームリングなどありません。
ターレットをガチャンと回し、レンズそのものを交換する。
しかも3本ともF1.4です。
ARCO CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4は、単なる小さなオールドレンズではありません。
日本の8mm映画全盛期に、アルコ写真工業が「広角でもF1.4」を本気で実現した、ARCO EIGHTシステムの大口径広角レンズです。









