Canon Canonet(キヤノネット)は、35mmフィルムを使用するレンズ固定式のレンジファインダーカメラです。
明るい45mm F1.9レンズ、連動距離計、セレン光電池式露出計、シャッター速度優先式の自動露出を搭載しています。露出計にも撮影にも電池を必要とせず、1961年当時としては操作を大幅に自動化したカメラでした。
なお、「Canonet」は後年まで続いたシリーズ名でもあります。ここではQL17やG-III 17ではなく、機種名に追加の型番が付かない1961年発売の初代Canon Canonetを扱います。
Canon Canonetとは
初代Canon Canonetは、1961年1月に発売された35mmレンズシャッター式カメラです。
それまで高級35mmカメラを中心に製造していたキヤノンが、中級クラスのレンズシャッター式カメラへ本格参入した最初のモデルでした。
明るいF1.9レンズと自動露出機構を備えながら、発売時価格は1万8,800円。発売前から注目を集め、用意されていた1週間分の台数が約2時間で完売したと記録されています。発売から約2年半後には、累計販売台数が100万台へ到達しました。
Canonetシリーズの初代モデル
「キヤノネット」と聞くと、次のようなカメラを思い浮かべる人も多いでしょう。
- Canonet QL17
- New Canonet QL17
- Canonet G-III 17
- Canonet QL19
- New Canonet 28
これらは初代Canonetから発展した後継機ですが、レンズ、露出計、電源、フィルム装填方法、ボディーサイズなどが異なります。
特に人気の高いCanonet G-III 17は1972年発売で、40mm F1.7レンズとCdS露出計、QL機構を搭載した第3世代のモデルです。1961年発売の初代Canonetとは別のカメラなので、中古品を調べる際は名称を区別しましょう。
SE 45mm F1.9レンズを搭載
初代Canonetには、SE 45mm F1.9レンズが固定装着されています。
レンズ構成は4群5枚です。45mmは一般的な50mm標準レンズよりわずかに広い範囲を写せる焦点距離で、人物、街中のスナップ、旅行、風景などに使いやすい画角です。
開放F1.9の明るいレンズ
開放F値はF1.9です。
F2.8やF3.5のレンズより多くの光を取り込めるため、室内や夕方などの光量が少ない場面でも、比較的速いシャッター速度を選べます。
絞りを開けば背景をぼかしやすくなりますが、ピントの合う範囲は狭くなります。人物の目など、ピントを置きたい位置を距離計の二重像で慎重に確認しましょう。
レンズ交換はできない
Canonetはレンズ固定式です。
一眼レフやレンズ交換式レンジファインダーのように、広角・望遠レンズへ交換することはできません。
そのため、中古品ではボディーの外観以上に、SE 45mm F1.9レンズの状態が重要です。強いカビやクモリがあっても、別のレンズへ交換して解決することはできません。
連動距離計でピントを合わせる
Canon Canonetは、二重像合致式の連動距離計を搭載しています。
ファインダー内では、中央付近の被写体が二重に見えます。レンズのピントリングを回し、2つの像が重なった位置でピントが合います。
二重像を重ねる基本操作
ピント合わせは、次の手順で行います。
- ピントを合わせたい被写体をファインダー中央へ置く
- 距離計部分の二重像を確認する
- ピントリングを回す
- 2つの像が完全に重なる位置へ合わせる
- 構図を整えて撮影する
人物の顔よりも、目、眼鏡、服の模様、建物の縦線など、輪郭のはっきりした部分を利用すると合わせやすくなります。
パララックスを自動補正する
Canonetのファインダーにはブライトフレームが表示され、撮影距離に応じて近距離での構図のずれを補正する機構が備わっています。
レンジファインダーカメラでは、ファインダーと撮影レンズの位置が異なるため、被写体へ近づくほど見えている範囲と実際に写る範囲に差が生じます。
Canonetはブライトフレームを動かすことで、そのパララックスを補正します。ファインダー倍率は0.67倍です。
シャッター速度優先式EEを搭載
初代Canonetを代表する機能が、シャッター速度優先式のEEです。
EEは「Electric Eye」の略で、現在のシャッター速度優先AEに相当する自動露出機構です。
撮影者がシャッター速度を選択すると、カメラが被写体の明るさに応じて絞り値を決定します。
電池不要のセレン露出計
カメラ前面には、大きなセレン光電池式の受光部が配置されています。
セレン光電池は受けた光から電気を発生させるため、露出計用の電池を必要としません。後年のCanonet QL17などで問題となる水銀電池の代替品を用意せずに使えることは、初代Canonetの利点です。
ただし、セレン素子は経年劣化します。明るい場所へ向けても露出計が反応しない個体や、反応しても正しい値を示さない個体があります。
EE撮影の基本的な使い方
自動露出を使用する場合の基本操作は次のとおりです。
- 使用するフィルムのISO感度を設定する
- 絞りをAUTOに設定する
- 被写体に合わせてシャッター速度を選ぶ
- ファインダーを見てピントを合わせる
- 露出計の指針と警告表示を確認する
- シャッターを切る
ファインダー下部にはF1.9からF16までの絞り目盛りがあり、カメラが選択する絞り値を確認できます。
明るすぎる、または暗すぎてEEの連動範囲を超えた場合は、ファインダー内に警告が表示されます。警告が出たときはシャッター速度を変更します。
ISO感度の設定範囲は10~200
初代Canonetが対応するフィルム感度はISO10~200です。
現在流通しているISO400フィルムなどは、内蔵露出計の感度設定範囲外となります。ISO400フィルムを使う場合は、外部露出計を利用してマニュアル露出で撮影するなどの工夫が必要です。
マニュアル露出でも撮影できる
CanonetはAUTOを解除することで、絞り値を手動設定できます。
セレン露出計が故障していても、レンズシャッターと絞りが正常なら、外部露出計やスマートフォンの露出計アプリを使って撮影できます。
自動露出が使えないからといって、直ちに撮影不能になるわけではありません。
Copal SLVレンズシャッターを搭載
シャッターにはCopal SLVが採用されています。
シャッター速度はBと1秒から1/500秒までです。セルフタイマーも内蔵されています。
電池なしでシャッターが作動する
初代Canonetは、電子制御式カメラではありません。
露出計はセレン式、シャッターも機械式なので、撮影に電池は不要です。
長期間使用していない個体でも、機械部分が正常ならシャッターを切れます。ただし、シャッター羽根の油や内部機構の固着によって、低速側が正常に動かないことがあります。
フラッシュ撮影にも対応
CanonetにはM・X切り替え式のシンクロ接点があります。
Xは電子フラッシュ、Mは当時使用されていたフラッシュバルブ向けの設定です。現在の電子フラッシュを使用する場合は、基本的にX側を使用します。
レンズシャッターは、フォーカルプレーンシャッターより高速側でフラッシュを同調させやすいことが特徴です。
ただし、古い個体では接点や内部配線が劣化している可能性があります。使用前に発光と同調を確認しましょう。
底部トリガーでフィルムを巻き上げる
初代Canonetの外観上・操作上の大きな特徴が、カメラ底部にある巻き上げトリガーです。
一般的なフィルムカメラでは上部のレバーでフィルムを巻き上げますが、初代Canonetでは底部のトリガーを操作します。
100度の1回操作で巻き上げる
トリガーを約100度動かすと、次の動作が行われます。
- フィルムを次のコマへ送る
- シャッターをチャージする
- フィルムカウンターを進める
初めて触れると、底部のレバーをどの方向へ動かすのか分かりにくい場合があります。動作が重い個体を無理に操作すると、巻き上げ機構やシャッターへ負担をかけるため注意しましょう。
巻き戻しクランクも底部にある
フィルムの巻き戻しに使う折り畳み式クランクもカメラ底部に配置されています。
後継のCanonet QL17などでは巻き上げレバーと巻き戻しクランクが上部へ移されています。初代ならではの底面操作は、後継Canonetと見分けるポイントにもなります。
Canon Canonetの基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年月 | 1961年1月 |
| カメラ形式 | レンズ固定式35mmレンジファインダーカメラ |
| 使用フィルム | 35mm・135フィルム |
| 画面サイズ | 24×36mm |
| レンズ | Canon SE 45mm F1.9 |
| レンズ構成 | 4群5枚 |
| レンズ交換 | 不可 |
| ピント合わせ | 二重像合致式連動距離計 |
| 露出計 | セレン光電池式 |
| 露出方式 | シャッター速度優先EE・マニュアル |
| 測光連動範囲 | ISO100でEV5~17 |
| フィルム感度 | ISO10~200 |
| シャッター | Copal SLVレンズシャッター |
| シャッター速度 | B、1秒~1/500秒 |
| ファインダー倍率 | 約0.67倍 |
| フィルム巻き上げ | 底部トリガー式 |
| セルフタイマー | あり |
| 電源 | 不要 |
| サイズ | 約140×78×64mm |
| 重量 | 約700g |
初代CanonetとCanonet QL17の違い
Canonet QL17は1965年に発売された後継モデルです。
初代と似た基本デザインを持っていますが、内部構造は新しく設計され、レンズや露出計、フィルム装填機構も変更されました。
QL17は45mm F1.7レンズを搭載
初代Canonetは45mm F1.9ですが、Canonet QL17には45mm F1.7レンズが搭載されています。
QL17のほうがわずかに明るく、レンズ構成も5群6枚へ変更されています。
QLはクイックローディングの略
QL17の「QL」はQuick Loadingを意味します。
フィルム先端を指定位置へ合わせて裏蓋を閉めることで、装填を簡略化した機構です。初代CanonetにはQL機構がなく、フィルム先端を巻き取りスプールへ差し込みます。
QL17はCdS露出計と電池を使用する
初代Canonetは電池不要のセレン露出計ですが、QL17はCdS式露出計を採用し、1.3Vの水銀電池を使用します。
暗い場所での測光範囲は広がりましたが、現在では指定水銀電池が一般的に入手できないため、代替電池や電圧対策が必要になります。
New CanonetやG-IIIとの違い
1969年には、ボディーを小型・軽量化したNew Canonet QL17が登場しました。
レンズは40mm F1.7となり、従来型より横幅を約20mm縮小。重量も約30%軽くなっています。
1972年発売のCanonet G-III 17は、このNew Canonet QL17系の完成形です。
基本仕様はNew Canonet QL17-Lと共通で、1972年から1982年まで約11年間販売され、約120万台が生産されました。
中古市場で単に「キヤノネット」と呼ばれる場合でも、初代よりG-III 17やNew Canonetを指していることがあります。正面や上部にある型式表示を確認しましょう。
中古のCanon Canonetを購入するときの注意点
初代Canonetは発売から60年以上が経過しています。
外観がきれいでも、セレン露出計、シャッター、距離計、フィルム巻き上げがすべて正常とは限りません。
初代Canonetであることを確認する
初代の主な特徴は次のとおりです。
- 正面に大きなセレン受光部がある
- レンズはSE 45mm F1.9
- 底部に巻き上げトリガーがある
- 底部に巻き戻しクランクがある
- QLやG-IIIなどの表示がない
- ボディーが後期モデルより大きい
「Canon Canonet」と記載されていても、QL17やCanonet Sなど別モデルの場合があります。
セレン露出計の反応
明るい屋外と暗い室内へカメラを向け、ファインダー内の指針が変化するか確認します。
指針が動かない場合は、セレン素子、配線、メーター部分などに不具合がある可能性があります。
また、針が動いても測光値が正しいとは限りません。正常な露出計やデジタルカメラと比較して、大きな誤差がないか確認しましょう。
EE機構の動作
絞りをAUTOに設定し、明るさやシャッター速度を変えながらシャッターを切ります。
撮影条件に応じて絞り羽根の閉じ方が変化するか確認しましょう。
露出計の針が動いても、絞りを制御する機械部分が固着していれば、自動露出は正常に働きません。
レンズシャッターの粘り
1秒から1/500秒までシャッター速度を変え、設定に応じて羽根の開いている時間が変化するか確認します。
古いレンズシャッターでは、次のような症状が起こります。
- 低速シャッターが途中で止まる
- 1秒に設定してもすぐ閉じる
- シャッター羽根が開かない
- 羽根が閉じきらない
- すべて同じ速度で動く
- シャッターをチャージできない
動きが重い場合は、無理にシャッター速度リングや巻き上げトリガーを操作しないようにしましょう。
シャッター羽根と絞り羽根の油
レンズ前面から羽根を確認し、油が付着していないか見ておきます。
油が付いた羽根は動きが遅くなり、EE撮影時の露出が不安定になる可能性があります。
外側から潤滑油を差すと、レンズ面や内部機構へ油が広がるため避けましょう。
SE 45mm F1.9の状態
レンズを前後から光へ透かし、次の症状を確認します。
- カビ
- 白いクモリ
- バルサム切れ
- 強い傷
- コーティングの劣化
- 内部への油の付着
レンズ固定式なので、光学系の状態が悪い場合はカメラ全体の実用性へ影響します。
距離計の二重像
ファインダーをのぞき、距離計像が十分な濃さで見えるか確認します。
ピントリングを近距離から無限遠まで動かし、二重像が滑らかに移動するかも重要です。
遠方の建物へ合わせた際、レンズの無限遠位置と二重像が一致しない場合は距離計の調整が必要です。
底部トリガーとフィルム送り
底部トリガーを操作し、次の動作を確認します。
- レバーが最後まで滑らかに動く
- シャッターがチャージされる
- スプロケットが回転する
- 巻き取りスプールが動く
- フィルムカウンターが進む
- トリガーが元の位置へ戻る
底部トリガーは初代Canonetの重要な機構です。途中で引っかかる場合は無理に力を加えないようにしましょう。
モルトと裏蓋
裏蓋周辺の遮光材が崩れていないか確認します。
モルトが粉状または粘着質になっている場合は交換が必要です。裏蓋が変形している、ロックが緩い個体も光線漏れの原因になります。
Canon Canonetはどんな人に向いている?
Canon Canonetは、次のような人に向いています。
- 初代Canonetの歴史に興味がある人
- クラシカルなレンジファインダーを使いたい人
- 45mm F1.9の明るい固定レンズを楽しみたい人
- 電池を使わないカメラを探している人
- シャッター速度優先式の自動露出を使いたい人
- 底部トリガーによる巻き上げ操作を楽しめる人
- 1960年代の国産カメラを収集している人
一方、小型・軽量なレンジファインダーを求める人には、New CanonetやG-III 17のほうが扱いやすいでしょう。
初代Canonetは約700gあり、後期型のコンパクトなCanonetより大きく重いカメラです。フィルム感度の対応範囲もISO200までなので、現行フィルムの選択には注意が必要です。
まとめ
Canon Canonetは、1961年に登場したレンズ固定式の35mmレンジファインダーカメラです。
SE 45mm F1.9レンズ、セレン光電池式露出計、シャッター速度優先EE、Bおよび1秒から1/500秒のCopal SLVシャッターを搭載しています。
発売時価格を2万円未満に抑えながら、明るいレンズと自動露出を実現したことで大ヒットし、発売後約2年半で累計100万台を記録しました。
後年のQL17やG-III 17とは異なり、初代は電池不要のセレン露出計と底部トリガー式巻き上げを採用しています。
中古で購入するときは、セレン露出計、EE機構、レンズシャッター、絞り羽根、SE 45mm F1.9レンズ、距離計、底部トリガー、フィルム送りの状態を確認しましょう。
内蔵露出計が使えなくても、シャッターと絞りが正常ならマニュアル撮影は可能です。状態のよい個体なら、初代Canonet特有の重厚なボディーと、電池を使わない自動露出機構を楽しめます。









