Canon III A(キヤノン3A型)は、35mmフィルムを使用するレンズ交換式レンジファインダーカメラです。
1951年にCanon IIIの改良型として登場し、二重像合致式の連動距離計、3段階可変式ファインダー、最高1/1000秒の機械式シャッターを搭載しています。
露出計や自動露出はなく、絞り、シャッター速度、ピントを撮影者が設定する完全マニュアル式です。撮影に電池は必要ありません。
Canon III Aとは
Canon III Aは、1951年4月に発売された35mmフォーカルプレーンシャッター式距離計連動カメラです。
キヤノンの公式表記は「III A(3A)型」ですが、中古市場では「Canon IIIA」「Canon 3A」などと続けて表記されることもあります。発売時価格は、Serenar 50mm F1.8付きで7万円でした。(Canon Global)
Canon IIIの操作性と外観を改良
Canon III Aは、同年2月に発売されたCanon IIIの基本性能を受け継ぎながら、細部の操作性と外観を改良したモデルです。
主な変更点は次のとおりです。
- ファインダー変倍レバーを一体型へ変更
- 巻き上げ・巻き戻しノブを菱目から縦目ローレットへ変更
- 巻き上げノブへフィルム感度表示用のメモ板を追加
- 標準レンズをSerenar 50mm F1.8へ変更
シャッターやファインダーなどの主要機構はCanon IIIとほぼ共通ですが、各部を整理して高級機らしい外観へ仕上げられています。(Canon Global)
二重像合致式の連動距離計
Canon III Aでは、ファインダー内に見える二重像を重ねてピントを合わせます。
ピント合わせの基本
撮影手順は次のとおりです。
- ピントを合わせたい被写体をファインダー中央へ入れる
- 中央付近に見える二重像を確認する
- レンズのピントリングを回す
- 2つの像が重なる位置へ合わせる
- 構図を整えてシャッターを切る
人物の目、建物の縦線、看板の文字など、輪郭が明確な部分を利用するとピントを合わせやすくなります。
撮影レンズを通した像ではない
一眼レフとは異なり、Canon III Aのファインダー像は撮影レンズを通ったものではありません。
絞りをF8やF11まで閉じてもファインダーは暗くなりませんが、背景のぼけ方や被写界深度を撮影前に直接確認することもできません。
また、ファインダーと撮影レンズの位置が異なるため、近距離撮影では実際の撮影範囲との間にパララックスが生じます。
3段階可変式ファインダーを搭載
Canon III Aは、二重像合致式距離計と、3段階に視野倍率を変えられる逆ガリレオ式ファインダーを一体化しています。(Canon Global)
背面側の変倍レバーを操作することで、ファインダーの倍率を切り替えます。
一体型の変倍レバーを採用
先代Canon IIIの変倍レバーは、レバーの先につまみが付いた形状でした。
Canon III Aでは、つまみを別部品としないワンピースのソリッド型へ変更されています。すっきりとした外観になり、Canon IIIとIII Aを見分ける代表的なポイントです。(Canon Global)
外付けファインダーも利用できる
内蔵ファインダーは倍率を切り替えられますが、後年のカメラのように、装着レンズに対応したブライトフレームが自動表示される方式ではありません。
広角レンズや望遠レンズを使用する場合は、アクセサリーシューへ焦点距離に合った外付けファインダーを装着する方法があります。
標準ねじ式マウントを採用
Canon III Aは、レンズを回して取り付ける標準ねじ式マウントを採用しています。標準レンズはSerenar 50mm F1.8です。(Canon Global)
レンズをねじ込んで装着する
レンズを取り付ける際は、ボディーとレンズのねじ山を正しく合わせてゆっくり回します。
斜めに入った状態で無理に締め込むと、ねじ山を傷める可能性があります。途中で強い抵抗を感じた場合は、一度取り外して最初から合わせ直しましょう。
レンズを取り外す際も、ピントリングや絞りリングではなく、鏡筒の固定部分を持って回します。
距離計連動式レンズを選ぶ
ねじ山が合って装着できても、すべてのレンズがCanon III Aの距離計と連動するとは限りません。
通常撮影では、35mmレンジファインダーカメラ用として設計された距離計連動式レンズを選ぶ必要があります。
中古レンズを購入する場合は、装着できるかだけでなく、無限遠や近距離で二重像と実際のピントが一致するかも確認しましょう。
Serenar 50mm F1.8が標準レンズ
Canon III Aには、Serenar 50mm F1.8が標準レンズとして用意されました。(Canon Global)
50mmは、街中のスナップ、人物、旅行、風景などへ幅広く使える標準的な焦点距離です。
F1.8まで絞りを開けるため、光量の少ない場所や背景をぼかした撮影にも対応できます。
ただし、開放付近ではピントの合う範囲が狭くなります。レンジファインダーの調整がずれた個体では、ファインダー上で二重像が一致してもフィルム面ではピントが外れる可能性があります。
最高1/1000秒の機械式シャッター
Canon III Aには、2軸式の布幕横走りフォーカルプレーンシャッターが搭載されています。
シャッター速度はT、1秒から1/1000秒、Bです。高速側と低速側で別々のダイヤルを使用します。(Canon Global)
高速側のシャッター速度
カメラ上部のダイヤルでは、次の速度を選択します。
- B
- 1/25秒
- 1/40秒
- 1/60秒
- 1/100秒
- 1/200秒
- 1/500秒
- 1/1000秒
現在一般的な1/30秒、1/125秒、1/250秒とは異なる旧系列の速度が採用されています。
低速側のシャッター速度
カメラ前面の低速ダイヤルでは、次の設定を使用します。
- T
- 1秒
- 1/2秒
- 1/4秒
- 1/8秒
低速撮影では、上部ダイヤルと前面ダイヤルを正しい位置へ設定する必要があります。
操作方法が分からない状態で無理にダイヤルを回すと、シャッター機構を傷める可能性があります。
BとTで長時間露光できる
Bでは、シャッターボタンを押している間だけシャッターが開きます。
Tでは、一度シャッターを切ると幕が開いた状態で保持されます。夜景や光跡などの長時間露光に利用できます。
長時間露光では、三脚とケーブルレリーズを組み合わせるとカメラぶれを抑えられます。
電池を使わない完全機械式カメラ
Canon III Aには、露出計や電子制御シャッターがありません。
露出は単体露出計やスマートフォンの露出計アプリなどで測り、撮影者が絞りとシャッター速度を設定します。
撮影に電池を必要としないため、電池切れや代替電池の電圧を心配する必要はありません。
一方、ピント、露出、フィルム送りまで、すべて手動で操作する必要があります。
フラッシュシンクロは搭載していない
Canon III Aには、フラッシュ同調用のレール直結式ソケットがありません。
同じ1951年4月に発売されたCanon IVは、カメラ側面のレールへ専用フラッシュを差し込むだけで電気的に接続できる、コードレス式フラッシュ同調機構を搭載していました。Canon III AとCanon IVを見分ける大きな違いです。(Canon Global)
フラッシュ撮影を前提とする場合は、後年のIV系やフラッシュ同調機構を備えたモデルのほうが扱いやすいでしょう。
底蓋を外してフィルムを装填する
Canon III Aは、カメラ底部の底蓋を取り外し、フィルムカートリッジと巻き取りスプールを下側から入れる構造です。(Canon Global)
フィルム装填の基本
基本的な流れは次のとおりです。
- 直射日光を避けた場所で底蓋を外す
- 巻き取りスプールを取り出す
- フィルム先端をスプールへ固定する
- フィルムカートリッジとスプールを同時に入れる
- パーフォレーションがスプロケットへ合っているか確認する
- 底蓋を確実に閉じる
- 空送りして撮影開始位置まで進める
後年の裏蓋開閉式カメラと比べると、装填には少し慣れが必要です。
巻き上げは上部ノブ式
フィルム巻き上げは、カメラ上部の回転ノブで行います。
レバー式ではないため、撮影後はノブを回してフィルム送りとシャッターチャージを行います。フィルム巻き戻しも上部の回転ノブ式です。(Canon Global)
手動セット式カウンター
フィルムカウンターは、巻き上げノブの基部にある0~39の順算式です。
フィルムを装填したあと、撮影開始位置へ手動で合わせます。現在のカメラのように、裏蓋を閉じるだけで自動的にリセットされる方式ではありません。(Canon Global)
Canon III Aの基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年月 | 1951年4月 |
| カメラ形式 | 35mmフォーカルプレーンシャッター式距離計連動カメラ |
| 使用フィルム | 35mmフィルム |
| 画面サイズ | 24×36mm |
| 標準レンズ | Serenar 50mm F1.8 |
| レンズマウント | 標準ねじ式マウント |
| ピント合わせ | 二重像合致式連動距離計 |
| ファインダー | 3段階視野倍率可変式 |
| 露出計 | なし |
| 露出方式 | マニュアル |
| シャッター | 2軸式布幕横走りフォーカルプレーン |
| 高速側 | B、1/25~1/1000秒 |
| 低速側 | T、1秒~1/8秒 |
| フラッシュ同調 | なし |
| フィルム装填 | 底蓋取り外し式 |
| フィルム巻き上げ | 上部回転ノブ式 |
| フィルムカウンター | 手動セット順算式・0~39 |
| フィルム巻き戻し | 上部回転ノブ式 |
| 電源 | 不要 |
| サイズ | 約136×72.2×30.5mm |
| 重量 | 約790g・Serenar 50mm F1.8装着時 |
主な仕様はキヤノンカメラミュージアムに基づきます。(Canon Global)
Canon IIIとの違い
Canon III Aは、Canon IIIの機構を大幅に変更した後継機ではありません。
最高1/1000秒のシャッター、3段階可変式ファインダー、底部装填などの基本性能は共通です。主な違いは、操作部の形状と標準レンズです。(Canon Global)
| 項目 | Canon III | Canon III A |
|---|---|---|
| 発売年月 | 1951年2月 | 1951年4月 |
| 標準レンズ | Serenar 50mm F1.9 | Serenar 50mm F1.8 |
| 変倍レバー | つまみ付き | 一体型ソリッドタイプ |
| ノブのローレット | 菱目 | 縦目 |
| 感度表示メモ板 | なし | あり |
| 最高速度 | 1/1000秒 | 1/1000秒 |
中古市場では機種名が刻印されていない個体も多いため、変倍レバーと巻き上げ・巻き戻しノブの形状が重要な判断材料になります。
Canon IVとの違い
Canon IVも、Canon III Aと同じ1951年4月に発売されました。
両機は最高1/1000秒の2軸式シャッターと3段階可変式ファインダーを備えていますが、Canon IVにはレール直結式のフラッシュ同調機構があります。Canon III Aにはこの機構がありません。(Canon Global)
フラッシュ用レールと接点の有無は、両機を見分ける代表的なポイントです。
中古のCanon III Aを購入するときの注意点
本当にIII Aなのか確認する
1955年以前のキヤノン製カメラには、機種名が本体へ刻印されていないものが多くあります。商品名だけでなく、外観から機種を確認する必要があります。(Canon Global)
Canon III Aの主な識別点は次のとおりです。
- 一体型のソリッド式変倍レバー
- 縦目ローレットの巻き上げ・巻き戻しノブ
- 巻き上げノブ上のフィルム感度メモ板
- フラッシュ用レール直結ソケットがない
- 高速ダイヤルに1/1000秒がある
古いカメラでは部品交換が行われていることもあるため、複数の特徴を組み合わせて判断しましょう。
布製シャッター幕
底蓋を外し、布製シャッター幕に次の症状がないか確認します。
- ピンホール
- 破れ
- 強いしわ
- 幕のたるみ
- 表面の硬化
- 幕端の剥がれ
- 走行途中での停止
布幕へ小さな穴が開いていると、フィルムへ光が入り込む可能性があります。
シャッター幕は非常に薄いため、指で押したり布で拭いたりしてはいけません。
高速・低速シャッター
1秒から1/1000秒まで順番に作動させます。
特に低速側では、途中停止、設定より長い露光、すべて同じ速度になるといった症状に注意しましょう。
1/500秒や1/1000秒は作動音だけで精度を判断できません。幕の走行が不均一だと、画面の左右で明るさが変わる露光むらが発生します。
距離計の二重像
遠方の建物へ向け、レンズの無限遠位置で二重像が一致するか確認します。
1~2m程度の近距離でも確認し、二重像が上下にずれていないこと、ピントリングに合わせて滑らかに動くことも重要です。
3段階ファインダー
変倍レバーを操作し、それぞれの位置で見え方が変化するか確認します。
ファインダー内部のクモリやハーフミラーの劣化があると、距離計像が薄くなり、ピント合わせが難しくなります。
巻き上げノブとフィルム送り
巻き上げノブを回し、次の動作を確認します。
- ノブが滑らかに回る
- 1コマ分で停止する
- シャッターが確実にチャージされる
- スプロケットが回転する
- 巻き取りスプールが動く
- カウンターが進む
- 巻き戻し機構が作動する
巻き上げが重い場合は、工具などで無理に回してはいけません。
底蓋の変形
底蓋が確実に閉まり、ロックされるか確認します。
落下などで底蓋やボディー下部が変形していると、光線漏れやフィルム装填不良につながる可能性があります。
付属レンズ
Serenar 50mm F1.8などが付属する場合は、次の部分も確認します。
- カビやクモリ
- 強い拭き傷
- 絞り羽根の油
- ピントリングの固着
- マウントねじの変形
- 距離計との連動
- 無限遠位置
ボディーが正常でも、レンズの強いクモリや距離計連動のずれがあれば、鮮明な写真を撮影できません。
Canon III Aはどんな人に向いている?
Canon III Aは、次のような人に向いています。
- 1950年代初頭の国産レンジファインダーを使いたい人
- 電池不要の機械式カメラを探している人
- 最高1/1000秒のシャッターを使いたい人
- 二重像によるピント合わせを楽しめる人
- ねじ式の交換レンズを使いたい人
- 3段階可変式ファインダーに興味がある人
- ノブ巻き上げ式カメラの操作を楽しみたい人
- Canon IIIやIVとの仕様差を収集したい人
一方、露出計、自動露出、オートフォーカス、レバー式巻き上げを求める人には向きません。
フィルム装填や2軸式シャッターにも慣れが必要であり、撮影の簡単さより、機械操作そのものを味わうためのカメラです。
まとめ
Canon III Aは、1951年にCanon IIIの改良型として発売された35mmレンジファインダーカメラです。
最高1/1000秒の布幕機械式シャッター、二重像合致式距離計、3段階可変式ファインダー、標準ねじ式マウントを搭載しています。
Canon IIIから、変倍レバーを一体型へ変更し、巻き上げ・巻き戻しノブを縦目ローレット化。巻き上げノブにはフィルム感度表示用のメモ板も追加されました。
同時発売のCanon IVとは、レール直結式フラッシュ同調機構の有無で見分けられます。
中古で購入するときは、機種の識別、布製シャッター幕、高速・低速シャッター、距離計、3段階ファインダー、巻き上げノブ、底蓋、付属レンズを確認しましょう。
正常に整備された個体なら、Serenar 50mm F1.8などの交換レンズと組み合わせ、戦後のキヤノンが高級35mmカメラを急速に発展させていた時代の精密な操作感を楽しめます。









