





Canon FTb QLは、35mmフィルムを使用するマニュアルフォーカス一眼レフカメラです。
1971年にプロ向け最高級機Canon F-1と同時に登場し、同じFDマウント、TTL開放測光、中央部分測光などを採用しました。ファインダー交換などの大規模なシステム性は省かれていますが、F-1に準じた撮影機能を備えた中堅モデルとして位置づけられています。(Canon Global)
露出とピントは手動ですが、露出計が示す2本の針を重ねる「追針合致式」によって適正露出を確認できます。シャッターは機械式なので、露出計用の電池が切れても撮影を続けられることが特徴です。
Canon FTb QLとは
Canon FTb QLは、1971年3月に発売された35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフカメラです。
発売時価格はボディーのみで3万5,000円。FD50mm F1.8付きが4万9,800円、FD50mm F1.4付きが5万7,000円、FD55mm F1.2付きが7万4,000円でした。(Canon Global)
キヤノン公式名称は「FTb」
ボディー前面には「FTb QL」と表示されていますが、キヤノンカメラミュージアムでは製品名を「FTb」としています。
「QL」はQuick Loadingの略で、フィルム装填を簡略化するキヤノン独自のクイックローディング機構を表します。
中古市場では「Canon FTb」「Canon FTb QL」「FTb-N」などの名称が混在しています。特に1973年発売の改良型FTb-Nとは一部の仕様と外観が異なるため、購入時には見分ける必要があります。(Canon Global)
Canon F-1に準じた中堅モデル
FTb QLは、同時に発売されたプロ向けCanon F-1の基本機能を受け継いだ量販モデルです。
両機は次の機能を共有しています。
- FDマウント
- TTL開放測光
- 追針合致式露出計
- 画面中央約12%の部分測光
- TTL絞り込み測光
- 機械式シャッター
- ミラーアップ
- 多重露出
キヤノン公式資料によると、FTbは発売から約3年で生産100万台を突破し、当時の主力製品となりました。(Canon Global)
F-1とはシステム性が異なる
FTb QLの基本的な撮影機能はF-1に近いものの、ファインダーやフォーカシングスクリーンは固定式です。
F-1では交換ファインダー、モータードライブ、長尺フィルム用アクセサリーなどを組み合わせられました。FTb QLはそのようなプロ向けシステムを省き、一般の写真愛好家が扱いやすい構成にまとめられています。
FDマウントを採用
Canon FTb QLは、1971年に登場したFDレンズシリーズへ対応しています。
発売時の標準レンズとして、次の3本が用意されました。
- FD50mm F1.8
- FD50mm F1.4
- FD55mm F1.2
FDレンズはレンズの開放F値や設定絞り値をボディーへ伝える機構を備え、明るい開放状態のまま測光できるTTL開放測光へ対応しています。(Canon Global)
旧FDとNew FDを使用できる
FTb QLでは、初期の旧FDレンズと、1979年以降のNew FDレンズを使用できます。
旧FDレンズは、レンズ後部の固定リングを回して取り付けるブリーチロック式です。New FDレンズは、一般的なバヨネットマウントに近く、レンズ本体を回して装着します。
同じFDマウントでも取り付け方法が異なります。旧FDレンズをレンズ本体ごと無理に回さないよう注意しましょう。
FLレンズにも対応
FD以前のFLレンズも装着できます。
ただし、FLレンズはFDレンズと同じ開放測光には対応しません。設定した絞り値まで実際に絞りを閉じて測る「TTL絞り込み測光」を使用します。
FTb QLには絞り込み測光用の定点が用意され、露出計の指針を定点へ合わせることで適正露出を確認できます。(Canon Global)
EF・EF-S・RFレンズは使用できない
後年のEOS用EF・EF-Sレンズや、ミラーレスカメラ用RFレンズは直接装着できません。
FTb QL用のレンズを探す場合は、基本的に「FD」「New FD」「FL」と表記されたレンズから選びます。
TTL開放中央部分測光を搭載
Canon FTb QLには、CdS受光素子を使用したTTL露出計が内蔵されています。
測光範囲は画面中央の約12%です。画面全体を平均的に測る中央重点平均測光ではなく、中央の限られた範囲を基準に露出を決めます。(Canon Global)
追針合致式で露出を決める
ファインダー内には、露出計の指針と、カメラの設定に連動する追針が表示されます。
基本的な撮影手順は次のとおりです。
- 使用するフィルムのISO感度を設定する
- シャッター速度を選ぶ
- ファインダーを見てピントを合わせる
- 露出計を作動させる
- 絞りリングを回して2本の針を重ねる
- 構図を整えてシャッターを切る
2本の針が重なれば、カメラが判断した適正露出です。
露出計は設定値を案内するだけであり、絞りやシャッター速度を自動的に変更するAE機能はありません。
中央12%部分測光の使い方
逆光の人物を撮影する場合は、人物の顔を中央の測光範囲へ入れて露出を合わせます。
露出を設定したあと、シャッター速度と絞り値を変えずに構図を戻して撮影します。
背景の空や窓を中央へ入れたまま測光すると、明るい背景が基準となり、人物が暗く写る可能性があります。どの部分を測っているか意識することが重要です。
1.3V水銀電池を露出計に使用する
FTb QLの露出計には、1.3VのHD型水銀電池1個を使用します。設定できるフィルム感度はISO25から2000、測光連動範囲はISO100・F1.4使用時でEV2.5から18です。(Canon Global)
現在、当時の指定水銀電池は一般的に販売されていません。
実用する場合は、電圧調整機能を備えたアダプター、代替電池、露出計の電圧調整などが必要になる場合があります。
1.5V電池では測光値に注意
形状が近い1.5V電池をそのまま入れると、指定電圧との差によって露出計の表示がずれる可能性があります。
針が動くだけで正常とは判断できません。使用する電池を決めたあと、単体露出計やデジタルカメラの測光結果と比較しましょう。
電池がなくても撮影できる
FTb QLのシャッターは機械式です。
電池は露出計にだけ使用するため、シャッター、絞り、フィルム送りが正常であれば電池なしでも撮影できます。
内蔵露出計が故障している個体でも、外部露出計やスマートフォンの露出計アプリを使えば実用可能です。
最高1/1000秒の機械式シャッター
Canon FTb QLは、布幕横走り式のフォーカルプレーンシャッターを搭載しています。
シャッター速度はBと1秒から1/1000秒まで。X接点、セルフタイマー、多重露出機構も備えています。(Canon Global)
すべての速度を手動で選ぶ
使用できる主なシャッター速度は次のとおりです。
- 1秒
- 1/2秒
- 1/4秒
- 1/8秒
- 1/15秒
- 1/30秒
- 1/60秒
- 1/125秒
- 1/250秒
- 1/500秒
- 1/1000秒
- B
- X
シャッター速度はカメラが自動設定しません。手ぶれや被写体の動き、使用するフィルム感度を考えて撮影者が選択します。
フラッシュはホットシューに対応
FTb QLはFP・X接点の自動切り替え式フラッシュシンクロに対応し、ボディー前面のシンクロソケットに加えてホットシューも備えています。(Canon Global)
古いフラッシュを使用する場合は、発光だけでなく、シャッター幕全体が正しく露光されるか確認しましょう。
固定式ファインダーを搭載
ファインダーは固定式のペンタプリズムアイレベルファインダーです。
倍率は約0.85倍、視野率は約94%。中央にはマイクロプリズム式距離計を備え、その周囲はフレネルマットスクリーンとなっています。(Canon Global)
マイクロプリズムでピントを合わせる
中央のマイクロプリズム部分では、ピントが外れていると像が細かくちらついて見えます。
レンズのフォーカスリングを回し、ちらつきが消えて被写体が明瞭に見える位置へ合わせます。
人物の目や看板の文字、建物の輪郭などを利用すると判断しやすいでしょう。
ファインダー内にシャッター速度は表示されない
1971年型FTbでは、ファインダー内に設定シャッター速度が表示されません。
露出計指針、追針、測光範囲、絞り込み測光用定点、測光範囲外警告などは表示されますが、シャッター速度はカメラ上部のダイヤルで確認します。(Canon Global)
シャッター速度がファインダー内に表示されるのは、1973年発売の改良型FTb-Nです。(Canon Global)
ミラーアップ機構を搭載
FTb QLにはミラーアップ機構があります。
あらかじめミラーを上げておくことで、シャッターを切った際に生じるミラーの振動を抑えられます。接写、望遠撮影、低速シャッターなどで使用できます。(Canon Global)
ミラーアップ中はファインダー像が見えません。先に構図とピントを決めてから操作します。
中古品ではレバーやミラー機構が固着している場合があるため、動きが極端に重いときは無理に操作しないようにしましょう。
多重露出に対応
FTb QLでは、同じフィルム面へ複数回の露光を重ねる多重露出が可能です。(Canon Global)
フィルムを次のコマへ送らずにシャッターだけをチャージし、異なる被写体や構図を重ねます。
露光回数が増えるほど光量も加算されるため、各撮影の露出を減らすなどの調整が必要です。
QL機構でフィルム装填を簡略化
「QL」はQuick Loadingを意味し、フィルム装填を簡単にする機構です。
フィルム先端を複雑なスリットへ差し込む代わりに、指定位置まで引き出してQLカバーの下へ置き、裏蓋を閉めて巻き上げます。FTbの巻き上げレバーは174度回転、予備角は21度で、小刻みな分割巻き上げにも対応しています。(Canon Global)
フィルムが送られているか確認する
フィルム装填後は、巻き上げレバーを操作した際に巻き戻しクランクも回転するか確認しましょう。
フィルムカウンターだけが進み、巻き戻しクランクが動かない場合は、フィルムが正しく巻き取られていない可能性があります。
Canon FTb QLの基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年月 | 1971年3月 |
| カメラ形式 | 35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフ |
| 使用フィルム | 35mm・135フィルム |
| 画面サイズ | 24×36mm |
| レンズマウント | Canon FDマウント |
| 標準レンズ | FD55mm F1.2/FD50mm F1.4/FD50mm F1.8 |
| ピント合わせ | マニュアルフォーカス |
| 露出方式 | 追針式マニュアル |
| 測光方式 | CdS・TTL開放中央約12%部分測光 |
| 絞り込み測光 | 対応 |
| 測光範囲 | ISO100・F1.4でEV2.5~18 |
| フィルム感度 | ISO25~2000 |
| シャッター | 布幕横走りフォーカルプレーン |
| シャッター速度 | B、1秒~1/1000秒、X |
| ファインダー | 固定式ペンタプリズム |
| ファインダー倍率 | 約0.85倍 |
| ファインダー視野率 | 約94% |
| ピントスクリーン | マイクロプリズム付きフレネルマット |
| ミラーアップ | 対応 |
| 多重露出 | 対応 |
| フィルム装填 | QLクイックローディング |
| 巻き上げ角 | 174度 |
| 露出計用電池 | 1.3V・HD型水銀電池1個 |
| サイズ | 約144×93×43mm |
| ボディー重量 | 約750g |
主な仕様はキヤノンカメラミュージアムに基づきます。(Canon Global)
FTb QLとFTb-Nの違い
1973年7月には、FTbの改良型「FTb-N」が発売されました。
FTb-Nもボディー前面には「FTb」と表示されるため、中古市場では1971年型と1973年型をまとめてFTb QLと呼ぶことがあります。
主な違いは次のとおりです。
| 項目 | 1971年型FTb | FTb-N |
|---|---|---|
| 発売年 | 1971年 | 1973年 |
| ファインダー内速度表示 | なし | あり |
| シャッターボタン | 小型 | 大型化 |
| 巻き上げレバー | 金属製 | 樹脂製指当て付き |
| セルフタイマーレバー | 初期形状 | 細身の新形状 |
| 基本測光 | 中央12%部分測光 | 中央12%部分測光 |
| 最高速度 | 1/1000秒 | 1/1000秒 |
FTb-Nでは、設定したシャッター速度をファインダー内で確認できるようになり、シャッターボタンやレバーの操作性も改良されました。測光方式やシャッター速度などの主要性能は共通です。(Canon Global)
Canon F-1との違い
FTb QLと初代F-1は同時発売され、FDマウントや中央12%部分測光などを共有しています。
一方、F-1は最高1/2000秒の金属幕シャッター、交換式ファインダー、交換式フォーカシングスクリーン、モータードライブ対応などを備えたプロ向けシステム機です。FTb QLは最高1/1000秒の布幕シャッターと固定式ファインダーを採用し、システム性を抑えた一般向けモデルです。(Canon Global)
F-1の機能を必要としない人にとって、FTb QLは同じFDレンズと似た測光操作をよりシンプルに楽しめるカメラでした。
中古のCanon FTb QLを購入するときの注意点
布製シャッター幕
裏蓋を開け、シャッター幕を確認します。
- ピンホールや破れ
- 強いしわ
- 幕のたるみ
- 油の付着
- 幕端の剥がれ
- 走行途中での停止
布幕は薄く傷つきやすいため、指で押したり布で拭いたりしてはいけません。
低速シャッターの粘り
1秒、1/2秒、1/4秒などを順番に作動させ、設定に応じて開いている時間が変化するか確認します。
古い機械式カメラでは、低速シャッターが途中で止まる、ミラーが戻らない、すべて同じ速度になるといった不具合があります。
1/500秒や1/1000秒は音だけで精度を判断しにくいため、可能であれば実写確認済みの個体を選びましょう。
露出計と代替電池
代替電池を入れ、明るい場所と暗い場所で露出計指針が変化するか確認します。
シャッター速度、絞り、ISO感度を変更したとき、追針が連動することも重要です。
針が動いても測光値が正しいとは限りません。使用する代替電池の電圧を確認し、別の露出計と比較しましょう。
FDレンズの自動絞り
FDレンズを装着し、絞りをF8やF16に設定してシャッターを切ります。
撮影時に絞り羽根が設定値まで閉じ、撮影後に素早く開放へ戻ることを確認します。
絞り羽根に油が付着している、動きが遅い、途中で止まる場合は、露出不足や不安定な露出につながります。
QL機構
裏蓋を開き、QLカバー、スプロケット、巻き取り軸に破損や変形がないか確認します。
テスト用フィルムを装填し、巻き上げ時にフィルムが確実に送られることを確認できれば安心です。
ファインダーとマイクロプリズム
ファインダー内のカビ、クモリ、プリズム腐食、スクリーンの傷を確認します。
マイクロプリズムが見えにくい個体では、マニュアルフォーカスによるピント合わせが難しくなります。
ファインダー内の汚れは写真へ直接写りませんが、撮影時の使いやすさへ大きく影響します。
ミラーアップと絞り込みレバー
セルフタイマーレバーは絞り込み操作にも使用されます。
絞り込み測光、セルフタイマー、ミラーアップの各機構が固着していないか確認しましょう。
レバーが極端に重い場合は無理に動かさず、整備を前提に考えたほうが安全です。
モルトの劣化
裏蓋周辺やミラー受けのモルトを確認します。
劣化したモルトは粉状に崩れたり、粘着質になったりします。裏蓋側の劣化は光線漏れ、ミラー受けの劣化はミラーの停止位置や作動音に影響する可能性があります。
Canon FTb QLはどんな人に向いている?
Canon FTb QLは、次のような人に向いています。
- 電池に依存しない機械式一眼レフを使いたい人
- FDレンズをフィルムで楽しみたい人
- 絞りとシャッター速度を自分で決めたい人
- 追針式露出計を使ってみたい人
- 中央部分測光を学びたい人
- Canon F-1よりシンプルなモデルを探している人
- ミラーアップや多重露出を利用したい人
- 金属製カメラの重厚な操作感が好きな人
一方、AEやオートフォーカスを使いたい人には向きません。
ボディー重量は約750gあり、レンズを装着すると1kg前後になることもあります。軽量さよりも、機械式一眼レフらしい確実な操作感を楽しむためのカメラです。
まとめ
Canon FTb QLは、1971年にCanon F-1と同時発売されたFDマウント採用の35mm一眼レフカメラです。
F-1に準じたTTL開放測光、中央約12%部分測光、追針合致式露出計を搭載しながら、固定ファインダーと最高1/1000秒の布幕シャッターを採用することで、一般の写真愛好家向けにまとめられました。
FDレンズでは開放測光、FLレンズや接写用品では絞り込み測光を利用できます。機械式シャッターのため、露出計用電池が切れても撮影可能です。
中古で購入するときは、布製シャッター幕、低速シャッター、露出計、代替電池、FDレンズの自動絞り、QL機構、ファインダー、ミラーアップを確認しましょう。
正常に整備された個体なら、FDレンズの豊富な選択肢とF-1譲りの中央部分測光を、完全なマニュアル操作で味わえる一台です。









