Canon FXは、35mmフィルムを使用するマニュアルフォーカス一眼レフカメラです。
1964年にFLレンズシリーズと同時に登場し、それまでのCanonflexとRレンズから、新しいキヤノン一眼レフシステムへ移行する役割を担いました。最高1/1000秒の機械式シャッター、完全自動絞り、CdS式露出計、ミラーアップ機構などを備えています。
ただし、露出計は撮影レンズを通った光を測るTTL方式ではありません。カメラ前面の受光部で明るさを測り、適正な絞り値を指示する外光式です。露出計用電池がなくても、シャッターと絞りが正常なら撮影できます。
Canon FXとは
Canon FXは、1964年4月に発売された35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフカメラです。
キヤノン初の一眼レフ「Canonflex」から続いていたRシリーズに代わり、新しいFLマウントシステムの第1号機として登場しました。発売時価格はFL50mm F1.8付きで4万4,800円、FL58mm F1.2付きで5万9,800円でした。
「FX」という名称の由来
FXでは、それまで機種名に使われていた「Canonflex」から、一眼レフを意味する「flex」の表記が取り除かれました。
機種名の「FX」は、Flexの最初の「F」と最後の「X」を組み合わせたものです。以後のキヤノン一眼レフでは、FP、FT、FTb、F-1など「F」を基調とした名称が広く使われるようになります。
CanonflexからFLシステムへの転換点
キヤノンは1959年に、同社初の35mm一眼レフCanonflexを発売しました。
CanonflexシリーズではRレンズが使われていましたが、製造コストや将来の測光方式への対応を考えると、カメラとレンズの連動機構を根本的に見直す必要がありました。
そこで1964年、Rレンズに代わるFLレンズシリーズと、新しいボディーであるCanon FXが登場します。キヤノンはFXとFLレンズを、カメラとレンズの連動を滑らかにし、将来のTTL測光へ発展させるための新システムとして位置づけています。
FX自体はTTL測光ではない
Canon FXはTTL測光を見据えて設計されたカメラですが、FXに内蔵されている露出計そのものはTTL方式ではありません。
TTLは「Through The Lens」の略で、撮影レンズを通過した光をカメラ内部で測る方式です。FXではカメラ前面にあるCdS受光部で外部の明るさを測ります。
キヤノンがTTL測光を本格的に採用するのは、1965年のPELLIXや、1966年のFT QL以降です。
Canon FLマウントを採用
Canon FXは、FLマウントを採用しています。
マウント内径は48mm、フランジバックは42mm。レンズ後部の固定リングを回してボディーへ締め付ける、スピゴット式のブリーチロック構造です。
レンズ本体ではなく固定リングを回す
FLレンズを取り付ける際は、レンズ本体を大きく回転させません。
基本的な取り付け方は次のとおりです。
- レンズとボディーの取り付け位置を合わせる
- レンズをマウントへまっすぐ差し込む
- レンズ後部の固定リングを回す
- 確実に固定されたことを確認する
一般的なバヨネットマウントと操作方法が異なります。レンズ本体を無理にひねると、固定リングや自動絞り機構を傷める可能性があります。
完全自動絞りに対応
FLレンズには、撮影時だけ絞りを設定値まで閉じる完全自動絞り機構があります。
ピント合わせ中はレンズが開放状態に保たれるため、ファインダー像を明るく見ることができます。シャッターを切ると設定した絞り値まで羽根が閉じ、撮影後はフィルムを巻き上げる前でも開放状態へ戻ります。
このレンズ側で開放へ復帰する機構によって、Canonflex時代より巻き上げ操作が軽くなりました。
FL50mm F1.8とFL58mm F1.2を標準レンズに採用
Canon FXの標準レンズとして、主に次の2本が用意されました。
- FL50mm F1.8
- FL58mm F1.2
FL50mm F1.8は、日常のスナップ、人物、風景などに使いやすい標準レンズです。FL58mm F1.2は開放F1.2の大口径レンズで、暗い場所での撮影や、背景を大きくぼかした表現に適しています。
FL50mm F1.8の特徴
初期のFL50mm F1.8 Iは、4群6枚のガウスタイプです。
最短撮影距離は0.6m、最小絞りはF16、フィルター径は48mm。Sマウント用50mm F1.8で培われた設計理論を一眼レフ用へ応用し、FXからTLまでの標準レンズとして使われました。
レンズ交換時は絞り機構も確認する
中古のFLレンズでは、装着前に次の点を確認しましょう。
- 絞りリングが滑らかに動く
- 絞り羽根に油が付いていない
- 自動絞りレバーが動く
- レンズ後部の固定リングが固着していない
- マウント部分に変形がない
ボディーへ装着できても、絞りが閉じなければ適正露出で撮影できません。
CdS式外光露出計を内蔵
Canon FXには、CdS受光素子を使った露出計が内蔵されています。
カメラ前面の受光部で明るさを測り、設定したシャッター速度に対応する適正絞り値を表示します。絞り値を自動設定する機能はなく、表示を見ながら撮影者がレンズの絞りリングを操作します。
高感度・低感度の2段階切り替え
露出計には、高感度側と低感度側の切り替えがあります。
ISO100使用時の測光連動範囲は次のとおりです。
- 低輝度側:EV1~10
- 高輝度側:EV9~18
暗い室内から明るい屋外まで測定できるよう、光の強さに応じてレンジを切り替えます。対応するフィルム感度はISO10~800です。
露出計は絞り値を指示するだけ
Canon FXには、AEや自動露出はありません。
撮影の基本的な流れは次のとおりです。
- 使用するフィルムのISO感度を設定する
- 被写体に合わせてシャッター速度を選ぶ
- 露出計の高感度・低感度を切り替える
- メーターが示した絞り値を確認する
- レンズの絞りリングを手動で合わせる
- ファインダーでピントを合わせる
- シャッターを切る
露出計がF5.6を示した場合は、自分でレンズの絞りをF5.6へ設定します。
フィルター使用時は露出補正が必要
FXの露出計は撮影レンズを通して測光していません。
レンズへNDフィルターや色付きフィルターを取り付けても、その光量低下は露出計に反映されません。フィルターに記載された露出倍数に応じて、絞りまたはシャッター速度を補正する必要があります。
1.3V水銀電池を使用する
内蔵露出計には、1.3VのHD型水銀電池を使用します。
現在では当時の指定水銀電池は一般的に販売されていません。Canon FXを実用する場合は、電圧を調整するアダプター、空気亜鉛電池、露出計の再調整などが必要になる場合があります。FXにはバッテリーチェック機構も備わっています。
1.5V電池では測光誤差が出る可能性がある
形状が近い1.5Vのアルカリ電池をそのまま使用すると、指定電圧との差によって露出計の表示がずれる可能性があります。
針が動いても、正確な露出を示しているとは限りません。外部露出計やデジタルカメラ、スマートフォンの露出計アプリと比較して確認しましょう。
電池がなくても撮影できる
電池が必要なのは露出計だけです。
シャッターは機械式なので、露出を別の方法で決めれば電池なしでも撮影できます。内蔵露出計が故障している個体でも、シャッター、絞り、フィルム送りが正常なら実用可能です。
最高1/1000秒の機械式シャッター
Canon FXには、2軸式の布幕横走りフォーカルプレーンシャッターが搭載されています。
シャッター速度はB、1秒から1/1000秒までと、フラッシュ撮影用のXを選択できます。セルフタイマーも内蔵されています。
使用できるシャッター速度
主な設定は次のとおりです。
- 1秒
- 1/2秒
- 1/4秒
- 1/8秒
- 1/15秒
- 1/30秒
- 1/60秒
- 1/125秒
- 1/250秒
- 1/500秒
- 1/1000秒
- B
- X
1/30秒以下では手ぶれが発生しやすいため、三脚や安定した台を使用するとよいでしょう。
X接点の同調速度は約1/55秒
Canon FXはFP接点とX接点を備え、接点は自動で切り替わります。
電子フラッシュを使用するX接点の同調速度は約1/55秒です。現在の感覚では、シャッターダイヤルの1/60秒付近を基準に考えると分かりやすいでしょう。フラッシュ端子はボディー前面に配置されています。
古いカメラではシンクロ接点や内部配線が劣化している可能性があるため、実際に発光と同調を確認する必要があります。
固定式ペンタプリズムファインダーを搭載
Canon FXのファインダーは、固定式のアイレベルファインダーです。
FL50mm装着時の倍率は約0.9倍、視野率は上下約90%、左右約93%。中央にはスプリットイメージ式の距離計があり、その周囲はフレネルマット式スクリーンとなっています。
スプリットイメージでピントを合わせる
ファインダー中央では、ピントが外れていると被写体の線が上下にずれて見えます。
レンズのフォーカスリングを回し、分かれている線が一直線につながればピントが合った状態です。
人物の目、建物の輪郭、電柱、看板の文字など、直線や境界のはっきりした部分を利用すると合わせやすくなります。
ミラーアップ機構を搭載
Canon FXにはミラーアップ機構があります。
ミラーを上げた状態で固定することで、シャッターを切った際のミラー振動を減らせます。接写、望遠撮影、低速シャッターを使った撮影などで利用できます。
ただし、ミラーアップ中はファインダー像が見えません。先に構図とピントを決めてからミラーを上げる必要があります。
中古品ではレバーが固着している場合があるため、極端に重いときは無理に操作しないようにしましょう。
Canon FXの基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年月 | 1964年4月 |
| カメラ形式 | 35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフ |
| 使用フィルム | 35mm・135フィルム |
| 画面サイズ | 24×36mm |
| レンズマウント | Canon FLマウント |
| 標準レンズ | FL50mm F1.8/FL58mm F1.2 |
| ピント合わせ | マニュアルフォーカス |
| 露出方式 | マニュアル |
| 露出計 | CdS式外光露出計 |
| 測光範囲 | ISO100でEV1~10/EV9~18 |
| フィルム感度 | ISO10~800 |
| シャッター | 布幕横走りフォーカルプレーン |
| シャッター速度 | B、1秒~1/1000秒、X |
| フラッシュ同調 | X接点・約1/55秒 |
| ファインダー倍率 | 約0.9倍・FL50mm装着時 |
| ファインダー視野率 | 上下約90%・左右約93% |
| ミラーアップ | 対応 |
| フィルム巻き上げ | レバー式・分割巻き上げ可能 |
| 露出計用電池 | 1.3V水銀電池 |
| サイズ | 約141.5×91×86mm |
| 重量 | 約900g・FL50mm F1.8付き |
Canon FPとの違い
Canon FPは、FXと同じ1964年に登場した姉妹機です。
基本構造はFXとほぼ共通ですが、FPでは内蔵露出計が省略されています。露出計を必要としないプロや経験豊富な撮影者を想定したモデルでした。
見分ける際は、カメラ前面のCdS露出計と感度切り替え部分を確認しましょう。
- FX:CdS式露出計を内蔵
- FP:内蔵露出計なし
PELLIXやFT QLとの違い
Canon FXの後に登場したPELLIXやFT QLでは、撮影レンズを通った光を測るTTL測光が採用されました。
PELLIX
PELLIXは半透明の固定式ペリクルミラーを採用し、撮影時にもミラーを跳ね上げない独特な構造を持っています。
TTL測光を搭載しており、FXより一歩進んだ測光システムです。
FT QL
FT QLはTTL部分測光と、フィルム装填を簡略化するQL機構を搭載しています。
FXではフィルム先端を巻き取りスプールへ差し込みますが、FT QLでは指定位置までフィルムを引き出して裏蓋を閉じることで装填しやすくなりました。キヤノンはPELLIXとFT QLを、TTL部分測光を採用した初期の一眼レフとして紹介しています。
中古のCanon FXを購入するときの注意点
布製シャッター幕
裏蓋を開け、シャッター幕に次の症状がないか確認します。
- ピンホールや破れ
- 強いしわ
- 幕のたるみ
- 油の付着
- 幕端の剥がれ
- 走行途中での停止
布幕に小さな穴が開いていると、撮影画像へ光が入り込む可能性があります。幕は傷つきやすいため、指で触れないようにしましょう。
低速シャッターの粘り
1秒、1/2秒、1/4秒などを選び、設定に応じて開いている時間が変化するか確認します。
古い機械式カメラでは、低速シャッターが途中で止まる、ミラーが上がったまま戻らない、設定より長く開くといった症状が起こります。
高速側は音だけで正確性を判断しにくいため、可能であればフィルムによる撮影確認済みの個体を選びましょう。
CdS露出計
代替電池を入れ、明るい場所と暗い場所へ向けて露出計の針が変化するか確認します。
併せて、次の部分も動かします。
- ISO感度設定
- シャッター速度ダイヤル
- 高感度・低感度切り替え
- バッテリーチェック
針が動いても正確とは限りません。電圧の異なる電池が使われている場合は、測光値がずれる可能性があります。
電池室の腐食
電池室を開け、白色や緑色の付着物、接点の錆、電池蓋の固着がないか確認します。
露出計を使わない場合でも、古い電池の液漏れが内部まで進んでいる個体には注意が必要です。
FLレンズの自動絞り
レンズを装着し、絞りリングをF8やF16へ設定してシャッターを切ります。
撮影時に絞り羽根が設定値まで閉じ、撮影後にすぐ開放へ戻ることを確認しましょう。
動きが遅い場合は、レンズ側の絞り羽根や自動絞り機構、ボディー側の作動レバーに問題がある可能性があります。
ファインダーとスプリットイメージ
ファインダー内のカビ、クモリ、ゴミ、プリズムの腐食を確認します。
スプリットイメージが見えにくい個体では、マニュアルフォーカスによるピント合わせが難しくなります。
ファインダーの汚れは写真へ直接写りませんが、撮影時の使いやすさには大きく影響します。
ミラーアップ機構
ミラーアップレバーを操作し、ミラーが上がった状態で保持され、解除後に正しい位置へ戻るか確認します。
ミラーが途中で止まる、レバーが極端に固い、解除してもファインダー像が戻らない個体は整備が必要です。
フィルム巻き上げ
巻き上げレバーを操作し、次の動作を確認します。
- レバーが滑らかに動く
- シャッターがチャージされる
- スプロケットが回転する
- 巻き取りスプールが回る
- フィルムカウンターが進む
- 裏蓋を開けるとカウンターが戻る
- 巻き戻し機構が解除される
Canon FXの巻き上げ角は160度と大きめですが、小刻みな分割巻き上げにも対応しています。
モルトとミラー受け
裏蓋周辺やミラー上部には、遮光や衝撃吸収のためのモルトが使われています。
劣化すると粉状に崩れたり、粘着質になったりします。裏蓋側のモルト劣化は光線漏れ、ミラー受けの劣化はミラーの停止位置や作動音へ影響する可能性があります。
Canon FXはどんな人に向いている?
Canon FXは、次のような人に向いています。
- 初期のキヤノン一眼レフに興味がある人
- CanonflexからFシリーズへの歴史を楽しみたい人
- FLレンズをフィルムで使いたい人
- 機械式シャッターのカメラを探している人
- 露出とピントをすべて手動で操作したい人
- ミラーアップ機構を使いたい人
- 重量感のある金属製一眼レフが好きな人
- CdS式外光露出計の操作を体験したい人
一方、TTL測光、自動露出、オートフォーカスを利用したい人には向きません。
FL50mm F1.8を装着した状態で約900gあるため、軽量なフィルム一眼レフを求める人にも重く感じられるでしょう。
まとめ
Canon FXは、1964年にFLレンズシリーズとともに登場した35mm一眼レフカメラです。
CanonflexとRレンズの時代から、新しいFLシステムへ移行する第1号機として、完全自動絞り、CdS式露出計、最高1/1000秒の機械式シャッター、ミラーアップ機構を搭載しました。
内蔵露出計はTTL方式ではなく、前面の受光部で明るさを測る外光式です。露出計が示したF値を確認し、撮影者がレンズの絞りリングを手動で設定します。
中古で購入するときは、布製シャッター幕、低速シャッター、CdS露出計、電池室、FLレンズの自動絞り、ファインダー、ミラーアップ、フィルム巻き上げを確認しましょう。
露出計が使えなくても、機械式シャッターと絞りが正常なら撮影できます。状態のよい個体なら、キヤノン一眼レフがCanonflexからFシリーズへ移り変わった時代の、重厚な操作感を味わえる一台です。









