FUJI FUJINON・W 180mm F5.6は、ビューカメラやフィールドカメラで使用する大判カメラ用レンズです。
35mmカメラ用レンズのような専用マウントやピントリングはなく、レンズシャッターをレンズボードへ固定し、カメラの蛇腹を前後させてピントを合わせます。
180mmという焦点距離は、4×5判では標準からやや長めにあたります。風景、商品、建築、人物などへ幅広く使える一方、同じ「FUJINON・W 180mm F5.6」という表記でも複数の世代があり、レンズ構成、コーティング、フィルター径、イメージサークルが異なります。
FUJI FUJINON・W 180mm F5.6とは
FUJINON・W 180mm F5.6は、富士写真フイルムが展開していた大判カメラ用の一般撮影レンズです。
「W」は広いイメージサークルを持つシリーズを示しますが、35mmカメラにおける広角レンズという意味ではありません。当時のカタログでは、Wシリーズの150mm、180mm、210mmなどを、4×5判用の標準的なレンズとして案内しています。用途には風景、商品、人物などが挙げられていました。
4×5判では標準に近い画角
4×5判で180mmを使用した場合の対角画角は約46.6度です。
35mm判の50mmレンズの対角画角が約47度なので、画角だけを比較すれば、4×5判での180mmは35mm判の50mm前後に近い感覚です。極端な遠近感がつきにくく、自然な構図を作りやすい焦点距離といえます。
5×7判では、4×5判よりも広角寄りの画角になります。使用するフィルムサイズによって、同じ180mmでも写る範囲が大きく変わることが大判レンズの特徴です。
同名のレンズに複数の仕様がある
FUJINON・W 180mm F5.6を調べる際に最も注意したいのが、世代による仕様差です。
中古市場では、初期の単層コーティング版と、後年のEBCマルチコーティング版が、どちらも単に「FUJINON W 180mm F5.6」として販売されています。
初期の単層コーティング版
初期型の代表的な仕様は次のとおりです。
- レンズ構成:4群6枚
- 絞り:F5.6~F64
- 包括角度:約80度
- イメージサークル:約305mm・F22
- フィルター径:58mm
- シャッター:セイコーNo.1またはコパルNo.1
- コーティング:単層コーティング
初期型は、製品名や焦点距離がフィルター枠の内側へ記載されていることが特徴です。当初はセイコーNo.1シャッター、その後はコパルNo.1シャッターへ組み込まれた個体が確認されています。
後期のEBC版
後期型は外観上「FUJINON・W」と表示されていますが、資料整理上は初期型と区別して「NW」と呼ばれることがあります。
代表的な仕様は次のとおりです。
- レンズ構成:6群6枚
- 絞り:F5.6~F64
- 包括角度:約76度
- イメージサークル:約280mm・F22
- フィルター径:62mmまたは67mm
- シャッター:コパルNo.1
- コーティング:EBCマルチコーティング
後期型では、レンズ名がフィルター枠の内側ではなく鏡筒外側へ表示されます。初期型より新しい設計ですが、公称イメージサークルは305mmから280mmへ小さくなっています。
したがって、「後期型だからすべての数値が上」というわけではありません。撮影フォーマットやアオリ量を重視する場合は、外観だけでなく仕様を確認する必要があります。
大きなイメージサークルを生かしたアオリ撮影
大判カメラでは、レンズが作る円形の像を「イメージサークル」と呼びます。
フィルムの四隅まで像を届けたうえで余裕が残れば、レンズやフィルム面を上下左右へ動かすライズ、フォール、シフトなどを利用できます。
4×5判では十分な余裕がある
4×5判の対角線は約155mmです。
初期型のイメージサークルは約305mm、後期EBC版でも約280mmとされているため、4×5判では大きな余裕があります。建物の垂直線を整えるライズ操作や、商品の形を調整するティルト・スイングにも活用しやすい仕様です。
5×7判にも対応しやすい
5×7判の対角線は約208mmです。
初期型・後期型ともに公称イメージサークルがこれを上回るため、5×7判もカバーできます。ただし、実際に使えるアオリ量は、絞り値、撮影距離、要求する周辺画質によって変わります。
8×10判での使用は慎重に判断する
8×10判の対角線は約311mmです。
イメージサークル305mmとされる初期型は数値上ほぼ同等ですが、四隅まで確実にカバーする余裕はありません。フィルムホルダーの実画面寸法によっては写る場合があるものの、周辺減光や画質低下が生じやすく、アオリもほとんど使えません。
イメージサークル約280mmの後期EBC版は、通常の8×10判を完全にカバーするレンズとは考えないほうが安全です。
開放F5.6でピントを確認しやすい
大判カメラでは、撮影前にシャッターを開き、ピントグラスへ投影された像をルーペで確認します。
FUJINON・W 180mmの開放F値はF5.6です。F8やF9の軽量レンズと比較すると、ピントグラス像が明るく、室内や日陰でも構図とピントを確認しやすいことが利点です。
撮影時はF16~F22程度まで絞り、周辺画質や被写界深度を確保する使い方が基本となります。富士フイルムの資料でも、Wシリーズは広いイメージサークルと色再現、鮮鋭度を重視した一般撮影用レンズとして案内されています。
レンズシャッターを搭載
FUJINON・W 180mm F5.6は、前群と後群の間にレンズシャッターを組み込んだ構造です。
代表的な個体には、セイコーNo.1またはコパルNo.1シャッターが使用されています。後年のCM FUJINON W 180mm F5.6では、コパルNo.1、T・B・1秒~1/400秒という仕様が公式に掲載されています。
ただし、中古品ではシャッターが交換されていることがあります。実物の銘柄と速度目盛りを確認しましょう。
撮影前にシャッターをチャージする
一般的な撮影手順は次のとおりです。
- ピントグラスで構図とピントを合わせる
- 絞りを撮影値へ設定する
- シャッターを閉じる
- フィルムホルダーを装着する
- 引き蓋を抜く
- シャッターをチャージする
- レリーズを押して撮影する
- 引き蓋を戻す
シャッターを開放したままフィルムホルダーの引き蓋を抜くと、フィルムが感光します。大判撮影では、操作の順番を一定にすることが重要です。
FUJINON・W 180mm F5.6の基本スペック
同名の複数世代があるため、主な仕様を分けて掲載します。
| 項目 | 初期型W | 後期EBC版W |
|---|---|---|
| 焦点距離 | 180mm | 180mm |
| 開放絞り | F5.6 | F5.6 |
| 最小絞り | F64 | F64 |
| レンズ構成 | 4群6枚 | 6群6枚 |
| 包括角度・F22 | 約80度 | 約76度 |
| イメージサークル・F22 | 約305mm | 約280mm |
| シャッター | セイコー/コパルNo.1 | コパルNo.1 |
| フィルター径 | 58mm | 62mmまたは67mm |
| コーティング | 単層 | EBC |
| 表記位置 | フィルター枠内側 | 鏡筒外側 |
仕様は年代や装着シャッターによって異なる場合があります。中古品では、フィルター径、コーティング表示、シャッター銘柄を実物から確認してください。
CM FUJINON W 180mm F5.6との違い
さらに後年には、CM FUJINON W 180mm F5.6が登場しています。
CM-W版は5群6枚、イメージサークル260mm、包括角度71度、67mmフィルター、コパルNo.1シャッターという仕様です。重量は約405gで、5×7判までを最大適用画面寸法としています。
| 項目 | FUJINON・W後期型 | CM FUJINON W |
|---|---|---|
| レンズ構成 | 6群6枚 | 5群6枚 |
| イメージサークル | 約280mm | 約260mm |
| 包括角度 | 約76度 | 約71度 |
| フィルター径 | 62mm/67mm | 67mm |
| 最大適用判型 | 主に4×5・5×7 | 5×7 |
名称は似ていますが、CM-Wは別設計です。販売時の商品名だけでなく、レンズ前面の表記を確認しましょう。
中古で購入するときの注意点
前玉・後玉のカビやクモリ
レンズを前後から光へ向け、カビ、白いクモリ、強い拭き傷、コーティングの荒れを確認します。
大判レンズは後群も簡単に露出するため、後玉へ傷が付いている個体もあります。前後のレンズセルが別個体から組み合わされていないかにも注意しましょう。
低速シャッター
1秒、1/2秒、1/4秒などを順番に作動させます。
シャッター羽根が途中で止まる、設定を変えても同じ速さになる、閉じるまで時間がかかる個体は整備が必要です。1/400秒は作動音だけで精度を判断できません。
絞り羽根
絞りレバーをF5.6からF64まで動かし、羽根が均等に開閉するか確認します。
羽根の油、錆、変形があると、動作不良や絞り形状の乱れにつながります。
シャッター開放機構
ピント合わせ用の開放レバーが正常に作動し、撮影位置へ確実に戻ることを確認します。
開放レバーが半端な位置に残ると、フィルム装填時の感光事故につながります。
レンズボードと固定リング
付属するレンズボードが、自分の大判カメラに対応するか確認します。
同じコパルNo.1でも、ボードの外寸はリンホフ型、トヨ型、ホースマン型などで異なります。固定リングの欠品や、シャッター周囲のねじ山の変形にも注意が必要です。
FUJINON・W 180mm F5.6はどんな人に向いている?
FUJINON・W 180mm F5.6は、次のような人に向いています。
- 4×5判で自然な画角を使いたい人
- 風景・商品・人物を一本で撮影したい人
- ライズやシフトを大きく使いたい人
- 開放F5.6の明るいピントグラス像を求める人
- 5×7判にも使えるレンズを探している人
- 富士フイルム製の大判レンズを収集している人
一方、軽量性を最優先する人や、8×10判で大きなアオリを使いたい人には適していません。
まとめ
FUJI FUJINON・W 180mm F5.6は、4×5判で標準に近い画角を得られる大判カメラ用レンズです。
初期型は4群6枚、58mmフィルター、約305mmのイメージサークルを持ち、後期EBC版は6群6枚、62mmまたは67mmフィルター、約280mmのイメージサークルを備えます。どちらも同じ「FUJINON・W 180mm F5.6」と表記されるため、中古購入時には世代の識別が欠かせません。
4×5判では十分なアオリ量を確保しやすく、5×7判にも対応可能です。ただし、8×10判での使用は初期型でも余裕がなく、後期型ではイメージサークルが不足します。
中古で購入するときは、レンズのカビやクモリだけでなく、シャッター全速、絞り羽根、開放レバー、固定リング、レンズボードを確認しましょう。
正常に整備された個体なら、4×5判らしい緻密な描写とアオリ操作を、風景から商品撮影まで幅広く楽しめる実用的な一本です。









