NIKON NIKKOR-Q 300mm F9は、ビューカメラやフィールドカメラで使用する大判カメラ用レンズです。
300mmという焦点距離を持ちながら、開放F値をF9、レンズ構成を4枚に抑えた比較的小型の設計が特徴です。4×5判では中望遠、5×7判ではやや長めの標準、8×10判では標準に近い画角となり、風景、人物、静物などへ幅広く利用できます。
ただし、Nikon FやF2へ装着する一眼レフ用300mmレンズではありません。レンズボードへ取り付け、カメラの蛇腹を前後させてピントを合わせる大判撮影用のレンズです。
NIKKOR-Q 300mm F9とは
NIKKOR-Q 300mm F9は、日本光学工業が1960年代から展開していた長焦点の大判用レンズです。
詳細な発売年月を確認できる公式資料は限られますが、初期の300mm F9は1965年ごろに登場し、1970年代後半に後継のNIKKOR-M 300mm F9へ整理されたとみられます。
レンズ前面には、次のような文字が刻まれています。
- NIKKOR-Q
- 1:9
- f=300mm
- Nippon Kogaku Japan
中古市場では「Nikon NIKKOR-Q」と表記されますが、製造時期によっては、現在のNikonではなく旧社名の「Nippon Kogaku」が使われています。
「Q」は4枚構成を表す
古いNIKKORレンズでは、製品名のアルファベットによってレンズ枚数を示していました。
「Q」はラテン語系の4を表す言葉に由来し、4枚構成のレンズであることを示します。Nikonの公式資料では、Tが3枚、Qが4枚、Pが5枚、Hが6枚、Sが7枚という命名規則が説明されています。(Nikon)
後継のNIKKOR-M 300mm F9は、3群4枚構成です。NIKKOR-QもMシリーズと同系統の光学設計とする資料がありますが、Q型について群構成まで明記した当時の公式資料は確認しにくいため、本記事では確実に確認できる「4枚構成」として扱います。
シンプルな構成で小型化
300mmの大判レンズは、一般に鏡筒やシャッターが大型化しやすくなります。
NIKKOR-Q 300mm F9は、開放値をF9とし、レンズ枚数を4枚に抑えることで、300mmとしては比較的コンパクトにまとめられています。
大きなレンズボードや重量級の前枠を必要としにくいため、8×10判用レンズを屋外へ持ち出したい場合にも扱いやすい設計です。
使用するフィルムサイズで画角が変わる
大判レンズでは、同じ300mmでもフィルムサイズによって画角が大きく変わります。
4×5判では中望遠
4×5判で300mmを使用すると、35mm判換算ではおおむね85mm前後に相当します。
標準レンズより写る範囲が狭く、風景の一部分を切り取る、人物を周囲から浮かび上がらせる、遠くの建物を整理して写すといった用途に適しています。
ただし、蛇腹を無限遠でも約300mm近く伸ばす必要があります。小型のフィールドカメラでは、レールや蛇腹の最大伸長量を確認しましょう。
5×7判ではやや長めの標準
5×7判では、35mm判の60mm前後に近い画角となります。
極端な遠近感がつきにくく、風景、静物、人物を自然な比率で撮影しやすい焦点距離です。
8×10判では標準に近い
8×10判では、300mmは35mm判の約40~45mmに近い画角です。
広すぎず狭すぎないため、8×10判では風景や人物の常用レンズとして利用できます。一般的な8×10判の標準レンズとして、300mm前後が選ばれる理由でもあります。
約325mmのイメージサークル
NIKKOR-Q 300mm F9は、F22で約325mmのイメージサークルを持つとされています。
8×10判の画面対角線は約312mmなので、数値上は8×10判をカバーできます。ただし、余裕は十数mm程度しかなく、8×10判で利用できるライズやシフトは限定的です。
4×5判では大きなアオリが可能
4×5判の画面対角線は約150mm台です。
約325mmのイメージサークルに対して大幅な余裕があるため、ライズ、フォール、シフトなどを大きく使えます。
建築物の垂直線を整える、風景で前枠を上昇させる、商品撮影でカメラの映り込みを避けるといった用途にも対応しやすいでしょう。
8×10判ではアオリ量に注意
8×10判では、レンズを大きく移動させるとイメージサークルの外へ出る可能性があります。
また、公称イメージサークル内であっても、限界付近では次の現象が発生することがあります。
- 周辺光量の低下
- 四隅の解像力低下
- コントラスト低下
- シャッターやレンズ鏡筒による機械的なケラレ
重要な撮影では、ピントグラスの四隅をルーペで確認しましょう。
開放F9の特徴
NIKKOR-Q 300mmの開放F値はF9です。
F5.6の大判レンズよりピントグラス像は暗くなりますが、日中の屋外であれば構図とピントを確認できます。暗い室内では、フォーカシングクロスをかぶり、ルーペを使って慎重に確認する必要があります。
長焦点なので被写界深度は浅い
開放値はF9でも、焦点距離そのものは300mmです。
特に近距離では被写界深度が浅く、人物の目に合わせると耳や背景が大きくぼけることがあります。絞り込むだけでなく、ビューカメラのティルトやスイングを利用してピント面を調整できることが、大判カメラの利点です。
絞りはF64まで
確認できるセイコーシャッター仕様の個体では、絞り目盛りはF9からF64までです。
F9、F11、F16、F22、F32、F45、F64の各目盛りが設けられています。後継のNIKKOR-M 300mm F9はF128まで絞れますが、NIKKOR-QではF64までの個体が確認できます。
強く絞ると被写界深度は広がりますが、回折によって細部の鮮明さが低下する可能性があります。一般撮影ではF22からF32付近を基準にし、必要なピント範囲とアオリ量に応じて調整するとよいでしょう。
セイコーNo.1シャッターを搭載
NIKKOR-Q 300mm F9には、セイコーNo.1シャッターへ純正装着された個体があります。
確認できる個体では、1秒から1/400秒までの速度、絞りレバー、シャッターチャージレバー、シンクロ端子などを備えています。
一方、中古市場にはCopal No.1シャッターへ組み込まれた個体もあります。製造時期による違いのほか、後年にシャッターを交換された可能性もあるため、実物の刻印と絞り目盛りを確認してください。
レンズシャッターはフラッシュ撮影に有利
レンズシャッターは、絞り羽根に近い位置でシャッター羽根が開閉します。
フォーカルプレーンシャッターと異なり、対応する電子フラッシュなら高速側まで同調させやすいことが特徴です。
ただし、古いシャッターではシンクロ接点が腐食していたり、切り替えレバーが固着していたりする場合があります。発光することだけでなく、フィルム面全体へ正しく同調しているか確認しましょう。
NIKKOR-Q 300mm F9の基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| レンズ形式 | 大判カメラ用レンズ |
| 焦点距離 | 300mm |
| 開放絞り | F9 |
| 最小絞り | F64・確認個体 |
| レンズ枚数 | 4枚 |
| イメージサークル | 約325mm・F22 |
| 最大適用判型 | 8×10判 |
| 主なシャッター | セイコーNo.1 |
| シャッター速度 | 1秒~1/400秒など |
| フラッシュ接点 | あり |
| ピント合わせ | カメラの蛇腹を前後させる |
| 専用マウント | なし・レンズボードへ固定 |
| コーティング | 単層コーティングとされる |
| 製造表示 | Nippon Kogaku Japan |
シャッターや絞り目盛りは個体によって異なる場合があります。NIKKOR-Qの詳細な公式仕様表が少ないため、中古品では実物を優先してください。
NIKKOR-M 300mm F9との違い
NIKKOR-M 300mm F9は、NIKKOR-Qの後継にあたる大判用レンズです。
NIKKOR-Qが単層コーティングであるのに対し、Mシリーズではマルチコーティングが採用されています。両者は同系統の光学設計とされますが、シャッター、鏡筒、絞り目盛りなどには違いがあります。
| 項目 | NIKKOR-Q 300mm F9 | NIKKOR-M 300mm F9 |
|---|---|---|
| 世代 | 初期型 | 後期型 |
| コーティング | 主に単層 | マルチコーティング |
| レンズ枚数 | 4枚 | 3群4枚 |
| 最小絞り | F64の個体を確認 | F128 |
| イメージサークル | 約325mm・F22 | 325mm・F22 |
| シャッター | セイコーNo.1など | Copal No.1 |
| シャッター最高速 | 1/400秒前後 | 1/400秒 |
| 重量 | 個体差あり | 約290g |
NIKKOR-Mは公式資料が豊富で、300mm F9ながら全長43mm、重量290gという小型設計が確認できます。(mr-alvandi.com)
逆光耐性やカラー撮影での安定性を重視するならM型、旧日本光学時代の外観や単層コーティングの描写を楽しみたいならQ型が候補になります。
NIKKOR-W 300mm F5.6との違い
NIKKOR-W 300mm F5.6も大判用300mmレンズですが、設計目的が異なります。
W型は6群6枚、開放F5.6、F22で420mmのイメージサークルを持ち、Copal No.3シャッターを採用しています。Q型より明るく、広いアオリに対応する一方、大型で重いレンズです。(mr-alvandi.com)
| 項目 | NIKKOR-Q 300mm F9 | NIKKOR-W 300mm F5.6 |
|---|---|---|
| 開放絞り | F9 | F5.6 |
| レンズ枚数 | 4枚 | 6群6枚 |
| イメージサークル | 約325mm | 約420mm |
| シャッター | No.1 | Copal No.3 |
| 特徴 | 小型・軽量 | 明るく広いアオリ |
携帯性を重視するならQまたはM、8×10判で大きなアオリを使うならWが適しています。
中古で購入するときの注意点
レンズのカビやクモリ
前玉と後玉を光へ向け、次の状態を確認します。
- 糸状のカビ
- 全体を覆う白いクモリ
- 強い拭き傷
- コーティングの劣化
- レンズ端部の剥離
- 前群と後群の組み違い
単層コーティングの古いレンズなので、強く清掃された個体では表面に細かな傷が残っている場合があります。
低速シャッター
1秒、1/2秒、1/4秒などを順番に作動させます。
シャッター羽根が途中で止まる、開いたまま戻らない、すべて同じ速度になる場合は整備が必要です。1/250秒や1/400秒は音だけで精度を判断できません。
絞り羽根
絞りレバーをF9からF64まで動かし、羽根が均等に開閉するか確認します。
油が付着している、錆がある、羽根の一部が重なっていない個体には注意しましょう。
シャッター開放機構
ピント合わせ用の開放レバーを操作し、シャッターを開いた状態で保持できるか確認します。
撮影前に確実に閉じることも重要です。シャッターが開いたまま引き蓋を抜くと、フィルムが感光します。
レンズボードと固定リング
付属するレンズボードが、使用する大判カメラへ装着できるか確認します。
リンホフ型、トヨ型、ジナー型などでは、ボードの外寸や固定方法が異なります。No.1シャッター用の固定リングが欠品していないことも重要です。
カメラの蛇腹伸長量
無限遠でも300mm前後の蛇腹伸長が必要です。
人物や静物を近距離で撮影する場合は、さらに長い蛇腹が必要になります。小型フィールドカメラでは、延長レールや延長ボードを用意しなければピントが合わないことがあります。
NIKKOR-Q 300mm F9はどんな人に向いている?
NIKKOR-Q 300mm F9は、次のような人に向いています。
- 8×10判で標準レンズを使いたい人
- 4×5判で中望遠撮影を楽しみたい人
- 小型の300mm大判レンズを探している人
- 風景や人物を自然な遠近感で撮影したい人
- 単層コーティングの旧型NIKKORに興味がある人
- Nippon Kogaku表記のレンズを収集している人
- レンズ重量より携帯性を重視する人
一方、開放F5.6の明るさや、8×10判で大きなライズ・シフトを求める人には、NIKKOR-W 300mm F5.6などのほうが適しています。
まとめ
NIKON NIKKOR-Q 300mm F9は、日本光学時代に製造された大判カメラ用の長焦点レンズです。
名称の「Q」は4枚構成を表し、開放F9とシンプルな光学系によって、300mmとしては比較的小型にまとめられています。
F22で約325mmのイメージサークルを持ち、8×10判をわずかな余裕でカバー。4×5判では中望遠、5×7判ではやや長めの標準、8×10判では標準に近い画角として使用できます。
中古で購入するときは、単層コーティングの光学系、セイコーまたは交換されたシャッター、低速作動、絞り羽根、開放レバー、固定リングを確認しましょう。使用するカメラが300mm以上の蛇腹伸長へ対応するかも重要です。
正常に整備された個体なら、8×10判をカバーする大きな像面と、小型4枚構成レンズならではの携帯性を両立した、実用性の高い大判用NIKKORです。









