MINOLTA RF ROKKOR 500mm F8は、ミノルタが1970年代後半に発売した一眼レフ用の超望遠レフレックスレンズです。
焦点距離は500mm。
通常なら非常に長大になりそうな超望遠レンズですが、内部にミラーを使って光路を折り返す反射光学系を採用することで、驚くほど短い鏡筒に収めています。
さらに重量も約600g台。
500mmという焦点距離を持ち歩けるサイズへ圧縮した、フィルム時代らしい個性的な超望遠レンズです。
MINOLTA RF ROKKOR 500mm F8とは
RF ROKKOR 500mm F8は、ミノルタSRマウント系一眼レフ用として1977年ごろに登場した反射望遠レンズです。
北米向けでは「RF ROKKOR-X 500mm F8」の名称が使われ、北米以外ではROKKOR-XではなくROKKOR表記の個体があります。当時のミノルタは北米市場向けレンズに「ROKKOR-X」の名称を使用していました。
代表的な仕様は次のとおりです。
- 焦点距離:500mm
- 開放F値:F8固定
- 光学系:5群6枚
- 反射光学系
- 絞り機構:なし
- 最短撮影距離:約4m
- 画角:約5°
- 前部フィルター径:77mm
- 後部フィルター径:39mm
- 最大径:約83mm
- 全長:約99mm
- 重量:約600g台
1977~1981年型について、資料ではサイズ約3.9×3.3インチ、重量約1ポンド5オンス、最短撮影距離13.1フィート、5群6枚構成とされています。
500mmなのに全長約10cm。
これがレフレックスレンズ最大の魅力です。
レンズなのに「鏡」を使っている
一般的な写真用レンズでは、光は前から後ろへ複数のレンズを通過してフィルム面へ到達します。
しかしRF ROKKOR 500mm F8では、内部に配置された主鏡と副鏡によって光を反射させます。
光を、
前へ進める
↓
鏡で後方へ反射
↓
もう一度反射
↓
フィルム面へ送る
というように内部で折り返すことで、500mmに必要な長い光路を短い鏡筒内部へ収めています。
こうした反射と屈折を併用する方式は「カタディオプトリック」と呼ばれ、写真用では一般にミラーレンズやレフレックスレンズと呼ばれます。
500mmなのに約10cmしかない
通常の500mm望遠レンズなら、鏡筒そのものがかなり長くなります。
ところがRF ROKKOR 500mm F8は全長約99mm程度。
つまり、
焦点距離500mm
↓
レンズの長さ約100mm
です。
もちろん焦点距離と物理的な鏡筒長は同じ意味ではありませんが、それでも通常の屈折式500mmと比較すれば圧倒的にコンパクトです。
カメラバッグへ500mmを入れて持ち歩ける。
野鳥、鉄道、航空機、月、遠景などを狙いたい撮影者にとって、この携帯性は大きなメリットでした。
F8固定。絞り羽根は存在しない
そしてレフレックスレンズ最大の特徴が、
F8固定
です。
普通のレンズなら、
F8
↓
F11
↓
F16
と絞ることができます。
しかしRF ROKKOR 500mm F8には一般的な絞り羽根がありません。
鏡が光路中央へ配置される特殊構造のため、通常の可変絞りを設けることができないからです。
したがって撮影時は、
常にF8。
明るさを変更したい場合はシャッタースピード、フィルム感度、NDフィルターなどで調整します。
中古レンズ定番の、
「絞り羽根に油染みがないか確認しましょう」
については――。
確認する絞り羽根がありません。
またしてもミラーレンズによる中古チェック項目の強制削除です。
ドーナツボケが出る
レフレックスレンズを象徴する描写が、
ドーナツボケ
です。
普通のレンズでは背景の点光源などが円形にボケます。
ところがミラーレンズでは、光路中央に副鏡などの遮蔽物があります。
その結果、ボケの中央部分が抜け、
○ ○ ○ ○
というリング状になります。
イルミネーション、木漏れ日、水面反射などが背景に入ると特に目立ちます。
滑らかなボケを求める場合には欠点です。
しかし現在では、
「ミラーレンズでしか出せない描写」
として、あえてドーナツボケを作品へ取り入れる楽しみ方もできます。
色収差を抑えやすいのも反射光学系の特徴
ミラーによる反射では、通常のガラスレンズによる屈折と比べて波長による焦点位置の違いが生じにくいため、色収差を抑えやすいというメリットがあります。
実際、RF ROKKOR 500mm F8の実写レビューでも色収差の少なさが特徴として挙げられています。
一方、
- コントラスト
- 周辺光量
- ボケ
- F8固定
など、反射式ならではの弱点もあります。
つまり、
普通の500mmを単に小さくしたレンズではない。
写り方そのものにもミラーレンズ特有の個性があります。
最大の注意点「NORMALフィルター」
RF ROKKOR 500mm F8を中古で探すなら、ぜひ確認したいのが後部フィルターです。
このレンズには39mm径のリアフィルターが用意されており、標準状態では「NORMAL」と表示されたフィルターを装着します。
このNORMALフィルターは単なる保護フィルターではなく、光学設計の一部として扱われています。
資料では、NORMALを含む指定リアフィルターのいずれかを常時装着することが必要とされています。
したがって中古品で、
「レンズ本体だけ。リアフィルターなし」
という個体には要注意です。
ただの付属品欠品とは意味が違います。
NDフィルターで明るさを変更する
F8固定なので、絞りをF11やF16へ変更することはできません。
そこで用意されていたのがNDフィルターです。
純正では39mmの「NDX4」などが存在し、レンズ後部へ装着して光量を減らします。
つまり、
普通のレンズ
→ 絞り羽根を閉じる
RF ROKKOR 500mm
→ NDフィルターを入れる
という違いです。
晴天時に低感度フィルムを使っていてもシャッター速度の選択肢を増やすことができます。
カラーフィルターも用意されていた
RF ROKKOR-X 500mm F8にはNORMALのほか、
- Yellow
- Orange
- Red
- NDX4
などの39mmリアフィルターが用意されていました。
黄色・オレンジ・赤フィルターはモノクロフィルム撮影でコントラストを調整するために利用できます。
空を暗く見せたり、雲を強調したりといった昔ながらのモノクロ表現です。
中古で純正ケースとフィルター一式まで残っていれば、かなり魅力的なセットといえるでしょう。
500mmで最短撮影距離約4m
最短撮影距離は約4m。
現在の望遠レンズと比べればかなり遠く感じます。
しかし焦点距離500mmなので、4m離れていても被写体をかなり大きく写せます。
一方、
「ちょっと近くにいる鳥を撮ろう」
と思ったら近すぎてピントが合わないこともあります。
常にある程度距離を取って撮影するレンズです。
画角約5°という超望遠世界
500mmの画角は非常に狭く、資料ではおよそ5°とされています。
標準レンズから500mmへ交換すると、
「どこを見ているのか分からない」
ほど視野が狭くなります。
遠くの鳥を見つけた。
カメラを構える。
ファインダーを覗く。
鳥がいない。
カメラを下ろす。
鳥を見る。
また構える。
いない。
超望遠初心者あるあるです。
しかもRF ROKKOR 500mm F8はマニュアルフォーカス。
被写体をファインダーへ入れてから、さらに自分でピントまで合わせる必要があります。
なかなか硬派です。
F8なのでファインダーは暗め
もうひとつ撮影上の問題があります。
F8固定です。
一眼レフでは撮影前にも基本的にレンズを通った光をファインダーで確認するため、F1.4やF2.8のレンズに比べるとファインダー像は暗くなります。
500mmという焦点距離で被写界深度も浅く、さらにファインダーが明るくない。
マニュアルフォーカスで野鳥などを追う場合、
「ピント合わせそのものがスポーツ」
になりかねません。
現在でもユーザーから、500mm F8のMFは難しいという声があります。
三脚や一脚との相性がいい
レンズ自体は500mmとして非常に軽量ですが、焦点距離は正真正銘500mmです。
わずかなカメラの動きでも画面上では大きなブレになります。
さらにF8固定なので、暗い環境では高速シャッターを確保しにくくなります。
そのため、
- 三脚
- 一脚
- 高感度フィルム
- 明るい屋外
などとの組み合わせが有効です。
手持ち撮影も不可能ではありませんが、
「軽いからブレない」
わけではありません。
鏡筒が軽くても500mmは500mmです。
SRマウント系ボディで使用可能
RF ROKKOR 500mm F8はミノルタのマニュアルフォーカス一眼レフ用SRバヨネット系レンズです。
一般にはMC/MDマウントなどと呼ばれる系列のボディで使用できます。
たとえば、
- SR-Tシリーズ
- XDシリーズ
- XGシリーズ
- X-700
- X-500
などのミノルタMF一眼レフと組み合わせられます。
ただし、このレンズには可変絞りそのものがないため、一般的なMC・MDレンズにあるような絞り連動機構を必要としません。レンズ資料でも絞りは「fixed」とされています。
X-700などへ装着しても、基本的にはF8のレンズとして使用します。
ROKKOR-XとROKKORは基本的に同系列
中古市場では、
MINOLTA RF ROKKOR 500mm F8
と
MINOLTA RF ROKKOR-X 500mm F8
の両方を見かけます。
「Xが付いているほうが上位モデル?」
と思ってしまいそうですが、そうではありません。
ミノルタは当時、北米向けレンズでROKKOR-Xという名称を使用していました。一方、北米以外ではROKKOR表記が基本でした。
したがってROKKORとROKKOR-Xは、単純に性能ランクを示す違いではありません。
中古購入では名称だけでなく、外装や製造時期、付属フィルターなどを確認したほうがよいでしょう。
後期型では「ROKKOR」の名前が消える
1981年以降、ミノルタはマニュアルフォーカスレンズから「ROKKOR」の名称を順次外していきました。
そのため後期型には、
MINOLTA RF 500mm 1:8
とだけ表示されたモデルがあります。
光学構成は引き続き5群6枚。
基本設計を受け継ぎながら、文字色など外観上の変更が加えられました。
つまり中古市場では、
- RF ROKKOR
- RF ROKKOR-X
- RF 500mm
と、一見すると違うレンズのような名称が並ぶことがあります。
ここは要注意です。
後にはAF版500mm F8へ発展
そしてミノルタの500mmミラーレンズ史で非常に面白いのが、その後です。
1980年代末にはAマウント用として、
MINOLTA AF REFLEX 500mm F8
が登場します。
こちらは名前のとおり、
オートフォーカス対応。
ミラーレンズはF8固定でAFセンサーへ届く光量も少ないためAF化が難しいジャンルでしたが、ミノルタはこれを実現しました。
カメラのキタムラ「ShaSha」でも、AF REFLEX 500mm F8は世界初のAF対応ミラーレンズとして紹介されています。
今回のRF ROKKOR 500mm F8は、その前時代にあたる完全マニュアルフォーカスのSRマウント版です。
同じ500mm F8でも、
RF ROKKOR 500mm F8
=SR系・MF
AF REFLEX 500mm F8
=Aマウント・AF
なので混同しないようにしましょう。
現代のミラーレスでも楽しめる
SR/MC/MD系レンズは、マウントアダプターを介して現代のミラーレスカメラへ装着できます。
RF ROKKOR 500mm F8も同様です。
デジタルカメラで使用すると、
- 拡大表示
- フォーカスピーキング
- 高感度ISO
- ボディ内手ブレ補正
などを利用できる場合があり、フィルム一眼レフ時代よりマニュアルフォーカスが楽になることもあります。
さらにAPS-C機へ装着すれば画角はより狭くなり、35mm判換算では約750mm相当。
マイクロフォーサーズなら約1000mm相当の画角になります。
ただし画角が狭くなればなるほど被写体をファインダーへ入れることも難しくなるため、
「長くなればなるほど楽しい!」
とは限りません。
超望遠沼です。
中古で確認したいポイント
MINOLTA RF ROKKOR 500mm F8は1970年代から1980年代のレンズです。
中古では、
- レンズ内部のカビ
- クモリ
- ミラー面の状態
- コーティング
- ピントリング
- マウント部分
- 前玉
- 後玉
- フード
- キャップ
- リアフィルター
などを確認しましょう。
特に普通のレンズ以上に重要なのが、
ミラーとリアフィルター。
反射面が劣化すれば、このレンズ本来の性能へ直接影響します。
NORMALフィルター欠品には特に注意
改めて強調したいのがこれです。
中古販売では、
「フィルター欠品」
とだけ書かれている場合があります。
普通なら、
「まあフィルターくらい後から買えばいいか」
と思うところです。
しかしRF ROKKOR 500mm F8では、標準のNORMALリアフィルターが光学系の一部として扱われています。
したがって、
NORMALなし=単なる付属品欠品ではない
と考えたほうがよいでしょう。
純正NORMALフィルター付きかどうかを、中古購入時の重要チェックポイントにしたいところです。
「絞り動作正常」は確認しなくていい
そして中古商品で、
「絞り羽根の動作良好」
と書いてあったら――。
ちょっと待ちましょう。
このレンズに可変絞りはありません。
F8固定です。
そのためチェックすべきなのは絞りではなく、
ピントリング、ミラー、光学系、リアフィルター。
ミラーレンズでは普通の交換レンズと中古確認ポイントそのものが違います。
まとめ
MINOLTA RF ROKKOR 500mm F8は、1970年代後半に登場したミノルタSRマウント系の超望遠レフレックスレンズです。
500mmという焦点距離を持ちながら、反射光学系によって全長約10cm、重量600g台というコンパクトなサイズを実現しています。
特徴をまとめると、
- 焦点距離500mm
- F8固定
- 5群6枚
- ミラーを使った反射光学系
- 絞り羽根なし
- 最短撮影距離約4m
- 特徴的なドーナツボケ
- 39mmリアフィルター
- SR/MC/MD系ボディで使用可能
という非常に個性的な一本です。
また中古では、標準のNORMALリアフィルターが残っているかどうかも重要です。
そして名称も、
RF ROKKOR
RF ROKKOR-X
RF
と世代・販売地域によって変化します。
現在では高性能な500mmズームや超望遠単焦点レンズも数多くあります。
AFもありません。
手ブレ補正もありません。
絞りすら変更できません。
しかし、
「500mmを約10cmの鏡筒へ押し込む」
という反射光学系ならではの発想と、リング状に現れる独特なボケは、現在の一般的なレンズにはない魅力です。
そして後にミノルタは、この系統から世界初のAF対応500mmミラーレンズへ進んでいきます。
小さな筒の中に500mm。しかも光を鏡で往復させる。
MINOLTA RF ROKKOR 500mm F8は、ミノルタの光学技術と1970年代の超望遠レンズ文化を感じられる、ユニークな一本です。









