CONTAX AXは、35mmフィルムを使用するオートフォーカス一眼レフカメラです。
最大の特徴は、レンズを動かすのではなく、ミラー・ファインダー・フィルム面を含む内部ユニットを前後させてピントを合わせる「オートマチック・バックフォーカシングシステム」です。
この仕組みにより、本来はマニュアルフォーカス専用だったCONTAX/YASHICAマウントのCarl ZeissレンズでAF撮影を実現しました。巨大で重量級のボディーですが、フィルムカメラ史のなかでも極めて独創的な一台です。
CONTAX AXとは
CONTAX AXは、京セラが1996年4月に発売した35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフカメラです。
発売時価格はボディーのみ25万円、Planar T* 50mm F1.4付きが29万4,000円でした。通常のAF一眼レフとは異なる機構を採用しながら、絞り優先AE、シャッター速度優先AE、プログラムAE、マニュアル露出を搭載した高級モデルです。(産業技術史資料情報センター)
MFレンズをそのままAF化
従来のCONTAX一眼レフ用Carl Zeissレンズは、基本的にマニュアルフォーカス用です。
一般的なAF一眼レフでは、レンズ内部の光学系をモーターで動かしてピントを合わせます。しかし、AXはレンズを改造せず、ボディー内部の可動ユニットを移動させることでAFに対応しました。
レンズ本来のフォーカスリングも残されているため、AFだけでなく通常のマニュアルフォーカス撮影も可能です。
オートマチック・バックフォーカシングシステム
AXのAF機構は「ABF(Automatic Back Focusing)」と呼ばれます。
ボディー内部には、ミラー、ペンタプリズム、フォーカシングスクリーン、フィルム面などをまとめた可動ユニットがあります。AF作動時には、このユニット全体が後方へ移動し、レンズとフィルム面の距離を変えてピントを合わせます。(Icon Publications Ltd)
最大移動量は10mm
可動ユニットの最大移動量は10mmです。
ファインダー内にはバックフォーカススケールが表示され、ユニットが基準位置から何mm移動しているかを確認できます。
AF撮影では、原則としてレンズの距離リングを無限遠へ設定します。そこから可動ユニットを後退させ、無限遠より近い側へピントを移動させる仕組みです。
レンズの設定距離より遠くへは合焦できない
ABF機構は、レンズの距離リングで設定した位置より近い側へピントを動かします。
たとえば距離リングを3mへ設定した場合、AFで合わせられるのは基本的に3mより近い範囲です。被写体が設定距離より遠い場合は、レンズ側の距離リングを遠距離方向へ回してAF範囲を移動させる必要があります。
一般的な撮影では無限遠へ設定しておけば広い範囲をカバーできますが、望遠レンズでは10mmの移動によって得られるAF範囲が狭くなります。あらかじめレンズを被写体付近まで手動で合わせ、最後の微調整をAFへ任せる使い方も有効です。
SAFとCAFを搭載
CONTAX AXには、2種類のオートフォーカスモードがあります。
SAF・シングルAF
SAFでは、被写体へピントが合うとAFを停止し、その位置で固定します。
静止している人物、風景、建物、商品などの撮影に向いています。合焦を優先するため、ピントが確定してからシャッターを切るのが基本です。
CAF・コンティニュアスAF
CAFでは、シャッターボタンを半押ししている間、被写体の動きに合わせてピントを調整し続けます。
移動する人物、乗り物、動物などの撮影を想定し、動体予測機能も備えています。ただし、可動ユニット全体を移動させる構造なので、後年の小型レンズ内モーター式AFとは作動感が異なります。(Icon Publications Ltd)
マクロモードを搭載
可動ユニットを最大の10mm後方へ移動させることで、レンズとフィルム面の間に接写リングを入れたような状態を作れます。
これがAXのマクロモードです。レンズ単体の最短撮影距離より被写体へ近づける場合があり、標準レンズや望遠レンズでも接写範囲を拡大できます。(Icon Publications Ltd)
マクロモードではMF撮影
マクロモードではAFを使用せず、マニュアルフォーカスで撮影します。
接写では、レンズとフィルム面の距離を変える操作が撮影倍率へ影響し、カメラそのものを前後させる操作がピント位置へ影響します。通常のAF撮影とは操作方法が異なるためです。(Icon Publications Ltd)
なお、最大撮影倍率は装着レンズによって異なります。すべてのレンズで等倍撮影ができるわけではありません。
CONTAX/YASHICAマウントを採用
CONTAX AXは、CONTAX/YASHICAマウントを採用しています。
Planar、Distagon、Sonnar、Tele-Tessar、Makro-Planar、Vario-Sonnarなど、従来のCONTAX一眼レフ用Carl Zeissレンズを装着できます。取扱説明書には、16mmから300mmまでの単焦点レンズや複数のズームレンズについて、ABFによる撮影範囲が掲載されています。
MMレンズとAEレンズで露出機能が異なる
C/Yマウントレンズには、主にMMタイプとAEタイプがあります。
MMレンズでは、次の露出モードを利用できます。
- 絞り優先AE
- シャッター速度優先AE
- プログラムAE
- マニュアル露出
AEタイプのレンズでは、絞り優先AEとマニュアル露出が基本です。シャッター速度優先AEまたはプログラムAEを選択しても、カメラは絞り優先AEとして作動します。
フローティング機構付きレンズに注意
近距離補正用のフローティング機構を備えたレンズでは、レンズ側の距離設定と実際の撮影距離が大きく異なると、画面周辺の画質が低下する可能性があります。
広角レンズや大口径レンズでは、取扱説明書が示すAF範囲やバックフォーカススケールを参考にし、必要以上に可動ユニットを移動させないことが推奨されています。
ズームレンズでは、ズーミングを完了してからAFを作動させます。ピントを合わせた後に焦点距離を変えると、ピントがずれる場合があります。
4種類の露出モード
CONTAX AXは、AF機構だけでなく露出制御も充実しています。
絞り優先AE
撮影者がレンズの絞り値を選ぶと、カメラが適正なシャッター速度を設定します。
Carl Zeissレンズの絞りリングを直接操作できるため、背景のぼけや被写界深度を優先した撮影に向いています。
シャッター速度優先AE
撮影者がシャッター速度を選び、カメラが絞り値を決定します。
MMタイプのレンズを最小絞りへ設定して使用します。動きを止める、流して写すといった撮影に利用できます。
プログラムAE
シャッター速度と絞り値の両方をカメラが自動設定します。
こちらもMMタイプのレンズが必要です。露出操作をカメラへ任せ、構図とシャッターチャンスへ集中できます。
マニュアル露出
シャッター速度と絞り値を撮影者が設定します。
意図的な露出オーバーやアンダー、単体露出計を使った撮影、スタジオ撮影などに対応できます。
中央重点平均測光とスポット測光
測光にはSPD受光素子が使われ、中央重点平均測光とスポット測光を切り替えられます。
スポット測光の範囲は、ファインダー中央に表示される直径約5mmの円です。逆光、舞台、明暗差の大きな風景など、狙った部分を基準に露出を決めたい場面で利用できます。(Icon Publications Ltd)
露出補正は±2EVの範囲を1/3EV刻みで設定可能。AEロックや、露出を段階的に変えて撮影するABCオートブラケティングも搭載しています。
最高1/6000秒の電子制御シャッター
シャッターは、電子制御式の金属幕縦走りフォーカルプレーン方式です。
露出モードによって使用できる速度範囲が異なります。
| 露出モード | シャッター速度 |
|---|---|
| 絞り優先AE・プログラムAE | 32秒~1/6000秒 |
| シャッター速度優先AE | 4秒~1/4000秒 |
| マニュアル露出 | 4秒~1/4000秒、B |
| X位置 | 1/200秒 |
フラッシュ同調は1/200秒以下。CONTAX TLAフラッシュと組み合わせれば、TTLダイレクト調光にも対応します。
フィルム送りを完全自動化
35mmフィルムを装填して裏蓋を閉じると、内蔵モーターが撮影開始位置まで自動的に送ります。
撮影後の巻き上げも自動で、連続撮影速度は最高約5コマ/秒。フィルム終端では自動巻き戻しが行われます。多重露出にも対応しています。(Icon Publications Ltd)
電源には6Vの2CR5リチウム電池1個を使用します。別売りのPower Pack P-8を接続すると、単3形電池4本から電源を供給できます。(Icon Publications Ltd)
大型で重量級のボディー
CONTAX AXの大きさは約162×123.5×72mm、重量は電池を除いて約1,080gです。
レンズを装着すると1.5kg前後になる組み合わせもあり、一般的な35mm一眼レフとしては非常に大きく重いボディーです。
可動ユニットとAF駆動機構を収める必要があるためですが、上面にはチタン合金、底部には硬質アルミニウム、主要シャーシにはアルミダイキャストが使われています。(Icon Publications Ltd)
明るいファインダー
ファインダー倍率は約0.7倍、視野率は約95%です。
標準のFW-1スクリーンには、中央の水平スプリットイメージ、その周囲のマイクロプリズム、さらに外側のマット面が配置されています。
標準スクリーンを含めて5種類の交換スクリーンが用意され、マニュアルフォーカスや接写にも対応できる構成です。(Icon Publications Ltd)
CONTAX AXの基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年月 | 1996年4月 |
| カメラ形式 | 35mmフォーカルプレーンシャッター式AF一眼レフ |
| 画面サイズ | 24×36mm |
| マウント | CONTAX/YASHICA MMマウント |
| AF方式 | オートマチック・バックフォーカシング |
| AF検出 | TTL位相差検出 |
| AFモード | SAF・CAF |
| 可動ユニット移動量 | 最大10mm |
| ピント合わせ | AF・マニュアルフォーカス |
| 露出モード | Av・Tv・P・M |
| 測光方式 | 中央重点平均・スポット |
| 露出補正 | ±2EV・1/3EV刻み |
| シャッター | 電子制御金属幕縦走り式 |
| 最高シャッター速度 | 1/6000秒・AE時 |
| フラッシュ同調 | 1/200秒以下 |
| ファインダー倍率 | 約0.7倍 |
| ファインダー視野率 | 約95% |
| フィルム送り | 自動 |
| 連続撮影 | 最高約5コマ/秒 |
| フィルム巻き戻し | 自動 |
| 電源 | 2CR5リチウム電池1個 |
| サイズ | 約162×123.5×72mm |
| 重量 | 約1,080g・電池別 |
主な仕様はCONTAX AXの取扱説明書と製品資料に基づきます。
一般的なAF一眼レフとの違い
一般的なAF一眼レフでは、レンズ内またはボディー内のモーターがレンズのフォーカス機構を動かします。
CONTAX AXではレンズを動かさないため、C/YマウントのMFレンズをそのまま使えることが最大の利点です。また、レンズのフォーカスリングによる手動調整も従来どおり行えます。
一方、AFで動かす部品が大きく、ボディーも大型化しました。最大移動量が10mmに限られるため、レンズや焦点距離によってAF可能範囲も変化します。
「どの距離からでも瞬時に合焦する一般的なAFカメラ」ではなく、必要に応じてレンズ側で大まかな距離を設定し、ABFで仕上げるという独自の操作を理解する必要があります。
中古のCONTAX AXを購入するときの注意点
ABF可動ユニット
最も重要なのが、内部の可動ユニットです。
動作するC/Yマウントレンズを装着し、距離リングを無限遠へ設定したうえで、近距離・中距離・遠距離の被写体へAFを作動させます。
- ファインダー内のバックフォーカススケールが変化する
- ユニットが滑らかに移動する
- 合焦表示が出る
- 異常な振動や引っかかりがない
- SAFとCAFの両方が作動する
モーター音がしても、規定位置まで正確に移動しているとは限りません。可能であればフィルムによるピント確認まで行いましょう。
マクロモード
マクロモードへ切り替え、可動ユニットが10mm位置まで移動するか確認します。
レンズのフォーカスリングを操作し、通常の最短撮影距離より近い位置でピントを合わせられることも確認します。
2CR5電池と電池室
電池室を開き、液漏れ、端子の腐食、電池蓋の破損を確認します。
新品の2CR5を入れ、電源投入、AF、露出計、シャッター、フィルム送りを連続して試します。電圧が低下すると、一部の表示は動いても可動ユニットや巻き上げモーターが安定しない場合があります。
電子シャッター
明るさや露出モードを変え、低速から高速まで作動時間が変化するか確認します。
最高速の1/6000秒や1/4000秒は音だけで精度を判断できません。撮影確認済みの個体や、シャッターテスターで点検された個体が安心です。
フィルム装填と巻き戻し
テスト用フィルムを装填し、次の動作を確認します。
- 自動的に1コマ目まで送られる
- 撮影後に1コマずつ巻き上げる
- 連続撮影が作動する
- カウンターが正しく進む
- 終端で自動巻き戻しする
- 巻き戻し後にフィルムを取り出せる
AXはフィルム面そのものを含むユニットを移動させるため、AFだけでなくフィルム送りまで含めた実写確認が重要です。
ファインダーとスクリーン
ファインダーのカビ、クモリ、液晶表示の欠けを確認します。
絞り、シャッター速度、露出補正、AF表示、バックフォーカススケールが読めることも重要です。交換スクリーンが正しく固定されていないと、ファインダー上のピントとフィルム面のピントが一致しない可能性があります。
シャッター幕
裏蓋を開き、金属製シャッター幕に変形、傷、油の付着、羽根の重なりの乱れがないか確認します。
シャッター幕は薄く、指や工具で触れると変形する可能性があります。清掃時も強い空気を直接吹き付けないよう注意が必要です。取扱説明書でも、幕へ触れたり強い圧力で空気を当てたりしないよう案内されています。
CONTAX AXはどんな人に向いている?
CONTAX AXは、次のような人に向いています。
- C/YマウントのCarl Zeissレンズを所有している人
- MFレンズでAF撮影を試したい人
- 独創的なフィルムカメラの機構が好きな人
- PlanarやDistagonをAFとMFの両方で使いたい人
- スポット測光や多彩な露出モードを利用したい人
- 内蔵接写機能を活用したい人
- 大型で重量感のある高級一眼レフが好きな人
- 機械構造そのものを楽しめる人
一方、軽量なカメラを求める人や、素早く広い距離範囲を移動するAFを重視する人には向きません。
複雑な電子制御と専用可動機構を備えるため、中古購入では価格や外観より、ABF、シャッター、フィルム送りを含む総合的な動作状態が重要です。
まとめ
CONTAX AXは、1996年に発売された35mmオートフォーカス一眼レフカメラです。
レンズではなく、ミラー、ファインダー、フィルム面を含む内部ユニットを最大10mm移動させるABFシステムを搭載。従来のC/YマウントCarl Zeissレンズを、マニュアルフォーカスだけでなくAFでも使用できるようにしました。
SAFとCAF、マクロモード、絞り優先・シャッター速度優先・プログラム・マニュアル露出、中央重点平均・スポット測光、最高1/6000秒の電子シャッターなど、撮影機能も充実しています。
一方、ボディー重量は約1,080gと重く、AF範囲はレンズの焦点距離や距離リングの設定に左右されます。一般的なAFカメラとは異なる操作への理解が必要です。
中古で購入するときは、ABF可動ユニット、SAF・CAF、マクロモード、2CR5電池室、電子シャッター、自動巻き上げ・巻き戻し、ファインダー表示を確認しましょう。
正常に動作する個体なら、Carl ZeissのMFレンズをカメラ側からAF化するという、CONTAXらしい大胆な技術思想を実際の撮影で味わえる一台です。









