ARCO CINE-T.ARCO 38mm F1.4は、アルコ写真工業が8mm映画撮影用として製造した大口径望遠シネレンズです。
マウントはDマウント。
主に1950年代後半のダブル8方式8mmムービーカメラで使用され、ARCO EIGHT 803Aなどの3本ターレット式カメラでは、6.5mm F1.4、13mm F1.4、38mm F1.4という3本のCINE-ARCOレンズが組み合わされていました。
当時のARCO EIGHT 803A販売資料にも、搭載レンズとして13mm・6.5mm・38mm、いずれもF1.4と明記されています。803Aは8・16・24・32・64コマ/秒の撮影速度や内蔵光電式露出計を備えた高機能8mmカメラでした。
38mmという焦点距離だけを見ると、現在の35mmカメラでは標準レンズに近く感じます。
しかしこのレンズが想定しているのは非常に小さな8mm映画フィルムです。
同じシリーズでは13mmが標準域、6.5mmが広角、38mmが望遠として使われていたため、CINE-T.ARCO 38mm F1.4は明確な望遠レンズです。現存品でも「CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4」「CINE-S.ARCO 13mm F1.4」「CINE-T.ARCO 38mm F1.4」の3本セットが確認されています。
主な特徴は次のとおりです。
- 8mmシネ撮影用の望遠単焦点レンズ
- 焦点距離38mm
- 開放F1.4
- Dマウント
- 完全マニュアルフォーカス
- 手動絞り
- ARCO EIGHT系3本ターレット用として使用
- 6.5mm F1.4・13mm F1.4とのシリーズ構成
- 1950年代後半の国産シネレンズ
- 現在はPENTAX Qなど小型センサー機でのオールドレンズ遊びにも利用可能
特に面白いのが、38mmなのに「望遠」という点です。
これは8mmシネレンズならではの世界です。
この記事では、ARCO CINE-T.ARCO 38mm F1.4の歴史、Dマウント、8mmフィルムでの画角、F1.4の意味、ARCO EIGHTとの関係、デジタルカメラへの流用、そして中古購入時の注意点を詳しく解説します。
ARCO CINE-T.ARCO 38mm F1.4とは
ARCO CINE-T.ARCO 38mm F1.4は、アルコ写真工業の8mmムービーカメラ用交換レンズです。
アルコ写真工業は戦後の日本で活動したカメラメーカーで、Camera-wikiの企業史では1946年にアサカ精工として創業し、1949年にアルコ写真工業株式会社へ社名変更したとされています。
35mmカメラのARCO 35をはじめ、三脚や各種アクセサリー、そして8mmムービーカメラを展開しました。
国立科学博物館の産業技術史資料データベースにも、1952年製の「アルコ35」がアルコ写真工業の量産製品として登録されています。
つまりARCOは単なる謎のレンズブランドではなく、1950年代に実際にカメラ本体まで開発していた日本メーカーです。
1950年代後半のシネレンズ
CINE-T.ARCO 38mm F1.4の正確な単体発売日を示すメーカー資料は現在確認しにくいものの、このレンズを搭載したARCO EIGHT 803Aの広告は1958年の写真雑誌資料にも確認できます。デンマークの広告資料データベースには1958年7月・9月のARCO EIGHT 803A広告が記録されています。
また、1958年11月号『カメラ毎日』に掲載された803A広告を紹介する資料では、当時価格78,000円だったことも確認できます。
したがってCINE-T.ARCO 38mm F1.4は、少なくとも1958年前後にはARCOの高級8mmシステムを構成していたレンズと考えるのが妥当です。
なお中古販売資料などには「1959年製」と記載される例もあるため、個々のレンズの製造年と803Aシステム登場時期は分けて考えた方が安全です。
ARCO EIGHT 803Aとの関係
このレンズを理解するなら、ARCO EIGHT 803Aを知っておくと分かりやすくなります。
803Aはダブル8方式の8mmムービーカメラです。
前面には回転式ターレットがあり、3本のレンズを装着できます。
当時のARCO販売資料では、
| 用途 | 焦点距離 | 開放F値 |
|---|---|---|
| 広角 | 6.5mm | F1.4 |
| 標準 | 13mm | F1.4 |
| 望遠 | 38mm | F1.4 |
という3本構成が示されています。
つまり38mmだけが突然存在したのではありません。
6.5mm・13mm・38mmという広角/標準/望遠の3本を、ターレットを回して瞬時に切り替えるシステム
の望遠担当がCINE-T.ARCO 38mm F1.4でした。
「CINE-T」のTは望遠系を示す名称
現存するシリーズでは、
CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4、
CINE-S.ARCO 13mm F1.4、
CINE-T.ARCO 38mm F1.4
という名称が確認できます。
このシリーズ構成から、
W=Wide、
S=Standard、
T=Tele
という役割分けと理解すると分かりやすいでしょう。
少なくとも実際の焦点距離も、6.5mmが広角、13mmが標準、38mmが望遠という関係になっています。
38mmなのに望遠レンズ
現代の35mmフルサイズカメラでは38mmは準標準域です。
しかしレンズの画角は焦点距離だけでは決まりません。
撮像面の大きさとの組み合わせで決まります。
ARCO CINE-T.ARCOは8mm映画フィルムを前提とするため、38mmはかなり長いレンズです。
シリーズの標準レンズが13mmなので、38mmは焦点距離だけでも標準の約3倍。
したがって8mm撮影では、遠くの人物や景色の一部を引き寄せる望遠レンズとして機能します。
ダブル8とは
ARCO EIGHT 803Aなどで使われたのは、現在一般にDouble 8/Regular 8/Standard 8などと呼ばれる方式です。
16mm幅のフィルムを使用し、まず片側を撮影。
フィルムを反転してもう片側を撮影し、現像後に中央で二分して8mm幅にします。
Dマウントレンズは、このような8mmシネカメラで広く使用された小型レンズマウントです。Dマウントは直径5/8インチ、32山/インチのねじ込み式で、フランジバックは約12.29mmです。
Dマウントとは
Dマウントは非常に小さなねじ込み式マウントです。
代表的な仕様は次のとおりです。
| 項目 | Dマウント |
|---|---|
| 主用途 | 8mm映画カメラ |
| ねじ径 | 約15.88mm・5/8インチ |
| ピッチ | 32TPI |
| フランジバック | 約12.29mm |
| 装着方式 | スクリュー式 |
35mm一眼レフ用レンズと比べると、驚くほど小さなマウントです。
CINE-T.ARCO 38mm F1.4も、レンズをクルクル回してカメラへねじ込みます。
Cマウントではないので注意
中古市場ではシネレンズというだけで「Cマウント」と説明されることがあります。
しかしCINE-T.ARCO 38mm F1.4の現存品はDマウントとして確認されています。専門中古店でも明確にDマウントとして販売例があります。
CマウントとDマウントは別規格です。
Cマウントは直径1インチ、フランジバック約17.526mm。
Dマウントは5/8インチ、フランジバック約12.29mmです。
見た目が似た小型ねじ込みレンズでも互換ではありません。
F1.4という明るさ
CINE-T.ARCO 38mmの開放F値はF1.4です。
1950年代の8mmシネ用望遠レンズとして、かなり明るい仕様です。
写真撮影なら暗くなったときに1/15秒や1秒へシャッター速度を落とせます。
しかし映画撮影では秒間16コマや24コマなど、一定の速度でフィルムを送り続ける必要があります。
極端なスローシャッターへ逃げることができません。
そのため、映画撮影用レンズでは大口径化に大きな意味がありました。
ARCOが803A用の6.5mm・13mm・38mmすべてをF1.4へ揃えたのも、このシネ撮影ならではの事情と考えられます。実際、当時の803A販売資料には3焦点すべてF1.4と明記されています。
803Aは最大64コマ/秒
ARCOの当時資料では803Aの撮影速度は、
8、16、24、32、64fps
とされています。
高速撮影になるほど、1コマあたりに光を当てられる時間は短くなります。
そこでF1.4という明るいレンズが効いてきます。
38mm F1.4は単に背景をぼかすための大口径レンズではなく、
限られた露光時間でフィルムへ光を送り込むための実用品
でもあったわけです。
803Aは当時かなりの高級機だった
1958年当時の広告資料ではARCO EIGHT 803Aの定価は78,000円と紹介されています。
当時の8mmカメラとしてかなり高額なモデルでした。
別の収集資料でも803Aは1958年2月頃から販売された高級ダブル8機とされ、
高速撮影、シャッター開角度調整、巻き戻し、露出計、F1.4の3本ターレットなどを特徴として挙げています。
CINE-T.ARCO 38mm F1.4も、そうした高級システムを構成する交換レンズだったと考えると位置づけが見えてきます。
シャッター開角度まで調整できたARCO EIGHT
当時の純正販売資料には、803Aについてシャッター開角度を0~165度まで調整できることが大きくアピールされています。
さらにフィルム巻き戻しによるオーバーラップ、フェードイン・フェードアウトにも対応すると説明されています。
つまりARCOは単なる家庭記録用8mmカメラというより、
本格的な映画撮影技法まで楽しめる機械
を狙っていました。
38mm F1.4も、そのシステムの望遠表現を担当します。
完全マニュアルフォーカス
CINE-T.ARCO 38mm F1.4にはAFなど当然ありません。
ピントは鏡筒のフォーカスリングを回して合わせます。
ARCO 803Aではレンズ切り替えとファインダー側の表示が連動する特徴が当時の広告でアピールされていました。
現在デジタルカメラへ流用する場合も、ピント合わせは完全なMFです。
絞りも完全手動
電子制御絞りではありません。
絞りリングを直接回します。
現代のミラーレスへ装着した場合でも、
カメラからF値を変更する、
Exifへ絞り値を記録する、
開放でピントを合わせて撮影時だけ自動的に絞る、
といった機能はありません。
リングを回したら、その場で実際に絞りが動く。
非常に単純です。
光学系は「2群4枚のペッツバール型」とされる資料がある
CINE-T.ARCO 38mm F1.4について、メーカー自身による詳細な光学断面図は現在容易には確認できません。
一方、実物を分解・実写したオールドレンズ愛好家の資料では、2群4枚のペッツバール型光学系とされています。
これはメーカー一次資料ではなく、実物研究による二次資料として扱う必要があります。
その資料では、中心部は比較的シャープながら、広い撮像面で使用すると周辺に像面湾曲や非点収差が現れ、いわゆる「ぐるぐるボケ」が生じる作例も紹介されています。
ペッツバール型とは
ペッツバール型は古典的な大口径レンズ構成です。
中心部では高い明るさと良好な解像を得やすい一方、本来の設計画角より広い範囲まで無理に使うと周辺収差が目立ちやすくなります。
CINE-T.ARCOの場合、本来は非常に小さな8mm画面を使うため、中央部の良好な範囲を利用できます。
ところが現代のより大きなデジタルセンサーへ装着すると、設計時には使われなかった周辺まで写り込みます。
その結果、
本来は欠点だった周辺収差そのものが「オールドレンズらしい表現」に変わる
という逆転現象が起こります。
「ぐるぐるボケ」を楽しめる可能性
前述の実写資料では、CINE-T.ARCO 38mm F1.4をより大きなデジタル撮像面で使用した際、周辺部が回転するように見えるボケが確認されています。
背景に、
木の葉、
草、
点光源、
細かな模様
などを配置すると特徴が分かりやすくなる場合があります。
ただしレンズ個体差、撮像面サイズ、撮影距離、絞り、背景条件によって見え方は変わります。
「38mm F1.4なら必ず激しくグルグルする」
と考えるより、センサーとの組み合わせで変化する描写を楽しむレンズと考えましょう。
8mmフィルムでは中心部分を使用する
そもそもCINE-T.ARCOは、フルサイズやAPS-Cで撮ることを想定していません。
設計対象は8mm映画です。
したがって本来の用途では、レンズが作る像の中央部分だけを使用します。
現代デジタルで周辺収差を楽しむ使い方は、1950年代のアルコが想定した撮影方法ではありません。
これはあくまで現代のオールドレンズ遊びです。
PENTAX Qとの相性がよい
Dマウントレンズの現代流用先として特に知られているのがPENTAX Qシリーズです。
理由はセンサーが小さく、フランジバックも約9.2mmと非常に短いからです。Dマウントのフランジバック約12.29mmより短いため、アダプターを介して無限遠を確保しやすい組み合わせです。
実際にDマウントレンズをPENTAX Qへ装着して楽しんでいる例も多数あり、CINE-T.ARCO 38mm F1.4自体もPENTAX Qでの使用例が確認できます。
PENTAX Qでは超望遠的な画角になる
PENTAX QやQ10は1/2.3型センサー、Q7やQ-S1は1/1.7型センサーです。
これらは35mm判より大幅に小さいため、38mmレンズを装着するとかなり狭い画角になります。
Dマウントレンズの利用例を解説した資料では、1/2.3型センサーで約5.58倍程度のクロップ率が示されています。
単純計算なら38mmは35mm判換算で200mmを大きく超える画角になります。
つまりPENTAX Qでは、
小さな38mmレンズが超小型望遠レンズ化する
わけです。
マイクロフォーサーズではケラレに注意
より大きなマイクロフォーサーズへ流用した作例もあります。
ただし実写資料では、CINE-T.ARCO 38mm F1.4をマイクロフォーサーズ相当の画面で使用すると四隅にケラレが生じると報告されています。
これは故障ではありません。
そもそも8mmシネ用レンズへ、設計対象よりはるかに大きな画面を要求しているためです。
むしろ円形・周辺暗部も含めた特殊描写として楽しむ人もいます。
フルサイズ用レンズではない
非常に重要です。
Dマウントだからアダプターさえ作れば、35mmフルサイズで普通の38mm F1.4になる――わけではありません。
イメージサークルが圧倒的に足りません。
フルサイズで通常の38mm相当レンズとして画面全面を利用する用途には適しません。
APS-Cでも同様です。
このレンズをデジタル化するなら、
小型センサーで本来に近い使い方をするか、大型センサーでケラレや周辺収差そのものを楽しむか
のどちらかになります。
一眼レフへの単純変換は難しい
Dマウントのフランジバックは約12.29mmです。
一方、Nikon FやCanon EFなど一般的な一眼レフマウントは数十mmあります。
つまり普通の筒状アダプターを挟むとレンズが撮像面から遠くなりすぎ、無限遠へピントが合いません。
Dマウントは、
フランジバックの短いミラーレス向け
と考えるのが基本です。
安易なマウント改造は慎重に
CINE-T.ARCO 38mm F1.4は大量流通している現行レンズではありません。
実写愛好家の中にはDマウント部を外して別マウントへ改造した事例もありますが、加工内容によってはオリジナル状態へ戻せなくなります。
現在はDマウント用アダプターも存在します。
コレクション価値を残したいなら、
削る前にアダプターで使える方法を検討する
のがおすすめです。
ARCO CINE-T.ARCO 38mm F1.4の基本スペック
メーカーによる詳細仕様書が十分残っていないため、確認可能な一次資料と現存品情報を中心にまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メーカー | アルコ写真工業 |
| ブランド表記 | ARCO |
| レンズ名 | CINE-T.ARCO |
| 用途 | 8mm映画撮影 |
| 焦点距離 | 38mm |
| 開放F値 | F1.4 |
| レンズタイプ | 望遠 |
| マウント | Dマウント |
| マウント径 | 約15.88mm・5/8インチ |
| マウントピッチ | 32TPI |
| フランジバック | 約12.29mm |
| フォーカス | マニュアル |
| 絞り | 手動 |
| 電子接点 | なし |
| AF | なし |
| 代表的対応システム | ARCO EIGHT系 |
| 803A標準レンズ群 | 6.5mm F1.4/13mm F1.4/38mm F1.4 |
| 光学構成 | 二次資料では2群4枚ペッツバール型 |
| 製造時期 | 1950年代後半 |
| 現代利用 | Dマウントアダプターによる小型ミラーレス等 |
ARCO EIGHT 803Aの当時資料は、3本すべてF1.4であったことを明確に示しています。
なお最短撮影距離、絞り羽根枚数、最小絞りなどについては、確実なメーカー仕様を確認できないため、本記事では断定していません。
中古購入時には実際の個体に刻まれた距離目盛りと絞り目盛りを確認してください。
中古購入時に確認したいポイント
CINE-T.ARCO 38mm F1.4は、およそ70年近く前のシネレンズです。
しかも現在の中古品には、もともとの8mmカメラから取り外されたレンズ単体も多くあります。
そのため通常の一眼レフ用交換レンズとは少し違う視点で状態を確認します。
本当に38mm F1.4か
まず前面の銘板を見ます。
CINE-T.ARCO 38mm F1.4
であることを確認しましょう。
ARCOには、
CINE-W.ARCO 6.5mm F1.4、
CINE-S.ARCO 13mm F1.4、
CINE-T.ARCO 38mm F1.4
など、非常によく似た小型シネレンズがあります。
写真だけではサイズ感が分かりにくいため、焦点距離刻印を見るのが確実です。
F1.8版との混同にも注意
中古市場では38mm F1.8のCINE-T.ARCOも確認されます。
またARCOの別モデル用資料では、6.5mm・13mm・38mmをF1.8で揃えた構成も記録されています。当時のARCO広告でもMODEL-KにはCINE ARCO F1.8の13mm・6.5mm・38mmが記載されています。
したがって、
38mmなら全部F1.4
ではありません。
必ず実物の開放F値を確認しましょう。
Dマウントか確認する
レンズ後端を確認します。
本来の38mm F1.4はDマウントとして中古市場に確認されています。
ただし古いシネレンズは、過去の所有者によって、
M42、
Cマウント、
独自アダプター、
その他のマウント
へ改造されている場合があります。
銘板が正しくても後端が純正とは限りません。
Dマウントねじ山
細いねじ山なので、
つぶれ、
斜めねじ込み跡、
欠け、
打痕、
汚れ
を確認します。
Dマウントは直径約15.88mmしかありません。
無理に斜めへねじ込むと簡単に傷める可能性があります。
アダプターへ最後まで入るか
現代デジタルで使うなら、実際のDマウントアダプターへ装着して確認するのが理想です。
途中で急に固くなる場合は無理に締めないでください。
古いねじ山へ力を掛けると、レンズとアダプターの両方を傷めます。
無限遠が出るか
アダプター使用時には重要です。
Dマウントはフランジバック約12.29mmと非常に短いため、アダプターの厚さや加工精度によって無限遠がずれます。
レンズ自体が正常でも、
アダプターの精度が悪くて無限遠が出ない
ことがあります。
別々に原因を考えましょう。
フォーカスリング
最短側から∞までゆっくり動かします。
古いグリースが固化すると、
異常に重い、
途中だけ固い、
ジャリジャリする、
まったく動かない、
という症状が出ます。
シネレンズは動画撮影中に滑らかにピントを送る必要があるため、ヘリコイドの状態は重要です。
フォーカスリングが軽すぎる場合
逆にスカスカでも注意します。
古いグリースが完全に抜けている、分解時に適切なグリースが使われていない、内部ヘリコイドが摩耗している可能性があります。
レンズを上や下へ向けただけでピント位置が勝手に動くようなら実用性が落ちます。
距離目盛りと実際のピント
∞へ合わせたときに遠景へ合うか確認します。
改造歴や分解歴のあるシネレンズでは、ヘリコイドを違う位置から組み直して距離目盛りが狂っている場合があります。
デジタルカメラへ装着し、拡大表示で確認するのが確実です。
前玉のカビ
強いライトを斜めから当てます。
蜘蛛の巣状、糸状の模様がないか確認しましょう。
1950年代のレンズなので、カビあり個体は珍しくありません。
実際の中古流通品でもカビ・曇りが記載された38mm F1.4が確認されています。
レンズ内部の曇り
カビ以上に注意したい場合があります。
全体が白く霞んだレンズでは、
コントラスト低下、
逆光フレア増加、
黒浮き、
解像感低下
が起こります。
オールドレンズらしい柔らかさと、単なる強い曇りは別物です。
小さなチリは過度に気にしない
70年近いシネレンズなら多少のチリは珍しくありません。
中古専門店の流通品でも、レンズ内ホコリを状態として明記した個体があります。
少量のチリより、
強い曇り、
カビ、
接合部の異常、
深い傷
を優先して確認しましょう。
前玉の拭き傷
古いコーティングを持つレンズでは、長年の清掃による細かな傷が見られる場合があります。
LEDを真正面から当てるだけでなく、斜め方向から反射光を見ます。
大量の拭き傷があると、強い逆光でフレアが増える可能性があります。
コーティングの状態
現代の多層膜コーティングとは異なる時代です。
色付き反射そのものを劣化と判断しないようにします。
問題になるのは、
まだらな剥離、
強い白濁、
カビ跡、
傷によるコーティング欠損
などです。
接合部の異常
レンズ周辺に、
虹色の模様、
白い輪、
境界から広がる剥離状の模様
がないか確認します。
古い光学系では接合部の経年変化が起きていることがあります。
小さなチリとは修理難易度が違うため注意しましょう。
絞りリング
開放F1.4から最小絞り側まで動かします。
シネレンズでは動画撮影中の露出変更も想定されるため、絞りリングの操作感は重要です。
固着や極端な引っ掛かりがないか確認します。
絞り羽根
前後から覗きながら絞りを変えます。
絞り羽根が均等に動き、途中で一枚だけ引っ掛からないことを確認しましょう。
絞り羽根の油
羽根表面に油が付着していないか確認します。
完全手動絞りなので、一眼レフの自動絞りレンズほど「瞬時に閉じないと露出が狂う」という問題はありません。
それでも大量の油は、
固着、
羽根外れ、
動作不良
につながるため避けたいところです。
開放F1.4まで完全に開くか
古い絞り機構では、リングがF1.4位置へ来ても羽根が少し閉じたままという場合があります。
レンズを正面から見て、開放状態が正常か確認します。
絞り形状
絞り込んだ際に開口部が極端に歪んでいないか見ます。
羽根が外れている、重なり順が崩れている個体は修理が必要です。
鏡筒のへこみ
非常に小型なレンズですが、金属鏡筒です。
落下によって、
前枠、
絞りリング、
フォーカスリング、
Dマウント部
が変形していないか確認します。
特にリング周辺のへこみは操作を重くすることがあります。
フードの有無
中古では専用フード付きセットも確認されています。
1950年代のシネレンズは現代レンズほど逆光耐性が高くありません。
フードは単なるコレクション品ではなく、実写でも役立ちます。
純正品ならなお価値があります。
前後キャップ
Dマウントは小さく、後玉も露出しやすいためリアキャップがあると安心です。
純正でなくても構いません。
裸で長期間保管された個体は、後玉傷やマウント汚れを念入りに確認します。
3本セットなら価値がある
CINE-W 6.5mm F1.4、
CINE-S 13mm F1.4、
CINE-T 38mm F1.4
の3本が残っている個体も現存します。中古専門店でも3本セットの流通例が確認できます。
ARCO EIGHT本来のシステムを集めるなら、単品を後から探すより3本セットが魅力的です。
ARCO EIGHT本体付きならターレットも確認する
カメラごと購入する場合はレンズだけでなくターレットを回します。
各位置へ確実に停止し、使用レンズが撮影位置へ正しく入ることが重要です。
803Aは3本レンズの切り替えを前提としたカメラです。
ターレットのガタが大きいと光軸やピントへ影響する可能性があります。
ARCO EIGHTのファインダー連動
803Aの当時広告は、レンズを切り替えるとファインダー側も連動して変化する機構を大きくアピールしています。
カメラ付きセットなら、
6.5mm、
13mm、
38mm
へターレットを切り替え、それぞれでファインダー表示が正常か確認したいところです。
現代デジタルで使うならPENTAX Qが有力
CINE-T.ARCO 38mm F1.4単体を買うなら、実用方法として最も分かりやすいのがDマウント対応の小型センサーミラーレスです。
特にPENTAX Q系はフランジバックが短く、Dマウントシネレンズ愛好家による利用例が多くあります。
ただし購入前に、
使用するQボディ、
D-Qアダプター、
レンズ後部の干渉、
無限遠、
イメージサークル
を確認しましょう。
フルサイズ用「38mm F1.4」として買わない
中古サイトで焦点距離とF値だけを見れば、
「38mm F1.4か。明るい準広角として面白そう!」
と思うかもしれません。
だが待て。
これは8mmシネ用Dマウントです。
フルサイズ用ではありません。
ここを理解せず購入すると、
「アダプターがない」
「無限遠が出ない」
「画面が真っ黒にケラレる」
の三段攻撃を食らいます。
CINE-T.ARCO最大の購入注意点です。
ARCO CINE-T.ARCO 38mm F1.4が向いている人
このレンズが面白いのは、単なる高性能レンズを探している人より、
1950年代の国産シネカメラが好きな人、
ARCOを収集している人、
Dマウントレンズを楽しんでいる人、
PENTAX Qでオールドレンズ撮影をしたい人、
ペッツバール系とされる描写を試したい人、
小さなシネレンズの機械加工が好きな人、
そしてARCO EIGHTを本来の3本ターレット状態へ戻したい人です。
「最新レンズより高画質か」という物差しではなく、
この小さな金属鏡筒から1950年代の8mm映画が生まれた
という部分を楽しむレンズです。
ARCO CINE-T.ARCO 38mm F1.4が向かない場合
反対に、フルサイズカメラで普通の38mm単焦点として使いたい場合には向きません。
AFもありません。
電子接点もありません。
Exifも残りません。
一般的な一眼レフへの単純アダプター装着にも向きません。
現代カメラで使うには、Dマウントとフランジバック、イメージサークルについて多少理解する必要があります。
また、70年近く前のレンズなので、購入後すぐ完全な状態で使える保証もありません。
カビ・曇り・ヘリコイド固着などの整備リスクも含めて楽しめる人向けです。
まとめ
ARCO CINE-T.ARCO 38mm F1.4は、1950年代後半にアルコ写真工業が8mm映画撮影用として展開したDマウント望遠シネレンズです。
当時のARCO EIGHT 803A販売資料を見ると、6.5mm・13mm・38mmをすべてF1.4でそろえた3本レンズシステムだったことが分かります。803A自体も8~64fps、光電式露出計、フィルム巻き戻し、シャッター開角度調整などを備えた意欲的な8mmカメラでした。
そして38mm F1.4は、その中の望遠担当です。
現代の38mmとは意味が違います。
8mm映画では13mmが標準。
38mmはその約3倍。
だからCINE-T.ARCOです。
さらに実物研究資料では2群4枚のペッツバール型とされ、大きなデジタル撮像面へ流用すると、中心部と周辺部の描写差や「ぐるぐるボケ」を楽しめる例も報告されています。これはメーカー公称資料ではなく、現存レンズの分解・実写による知見として理解しておきましょう。
中古購入では特に、
38mm F1.4であること、Dマウントがオリジナル状態で残っていること、ヘリコイド、カビ・曇り、絞り、無限遠
を重視します。
そして現代デジタルへ流用する場合は、レンズより先にマウントを考える必要があります。
Dマウントのフランジバックは約12.29mm。
PENTAX Qのような小型・短フランジバックのミラーレスなら遊びやすい。
一方、フルサイズ一眼レフへ普通の38mm F1.4として装着するレンズではありません。
それにしても、1950年代後半。
小さな8mmカメラの前に、
6.5mm F1.4。
13mm F1.4。
38mm F1.4。
この3本を並べ、ターレットをガチャンと回して広角・標準・望遠を切り替える。
ズームではありません。
必要な画角ごとに、丸ごと一本レンズを交換する。
しかも全部F1.4です。
ARCO CINE-T.ARCO 38mm F1.4は、日本の8mm映画ブームが生んだ「豆粒サイズの大口径望遠レンズ」であり、アルコ写真工業が本気でムービーシステムを作っていた時代を今に残す一本です。









