Canon demi S(キヤノン デミS)は、35mmフィルムを通常の半分となる24×18mmで撮影するハーフサイズカメラです。
1964年に初代Canon demiの上位モデルとして登場し、30mm F1.7の大口径レンズ、最高1/500秒のレンズシャッター、セレン光電池式露出計を搭載。距離計やオートフォーカスはありませんが、3種類のゾーンマークを使って素早くピントを設定できます。
電池を使わずに露出を測定でき、一般的な36枚撮りフィルムなら約72コマを撮影できることも特徴です。小型カメラでありながら、明るいレンズと露出設定の自由度を備えた実用的な一台です。
Canon demi Sとは
Canon demi Sは、1964年9月に発売された35mmレンズシャッター式ハーフサイズカメラです。
1963年に登場した初代Canon demiの上位機種にあたり、レンズを28mm F2.8から30mm F1.7へ大口径化。外装にはアルミ合金のパール仕上げが採用され、初代より高級感のあるモデルとして販売されました。
発売時価格は1万4,000円で、ケースは1,200円、リストストラップは300円でした。(Canon Global)
「demi」は半分を意味する
「demi」は、フランス語で「半分」を意味する言葉です。
一般的な35mmカメラが24×36mmの画面を使用するのに対し、demi Sの画面サイズは24×18mm。フィルムを半分ずつ使用するため、通常のおよそ2倍の枚数を撮影できます。(Canon Global)
カメラを横向きに構えた場合、フィルム上には縦位置の写真として記録されます。横位置で撮影したい場合は、カメラを縦に構えるのがハーフサイズカメラの基本です。
30mm F1.7の大口径レンズを搭載
demi Sには、Canon SH 30mm F1.7レンズが固定装着されています。
レンズ構成は4群6枚のガウスタイプ。初代demiのSH 28mm F2.8より明るく、暗い場所での撮影や背景をぼかした表現へ対応しやすくなりました。(Canon Global)
F1.7からF16まで設定できる
絞りはF1.7からF16まで設定できます。
F1.7やF2.8では多くの光を取り込めるため、室内や夕方の撮影に有利です。F8やF11まで絞るとピントの合う範囲が広がり、ゾーンフォーカスでも失敗を抑えやすくなります。
ただし、レンズ交換はできません。広角・望遠・ズームレンズを使い分けるカメラではなく、30mmレンズ一本で日常のスナップを楽しむ構成です。
レンズ全体が前後するヘリコイド式
demi Sでは、前玉だけを回転させる方式ではなく、レンズ群全体を前後させてピントを調整します。
説明書では、レンズ全体を繰り出す構造によって、ピント位置が変わっても良好な描写性能を保ちやすいと説明されています。(Orphancameras)
ゾーンフォーカスでピントを合わせる
Canon demi Sには、連動距離計や一眼レフ式のピントスクリーンはありません。
被写体までのおおよその距離を判断し、レンズのフォーカシングリングを回して設定するゾーンフォーカス方式です。
近・中・遠のマークを使用する
フォーカシングリングには、次の3種類のピクトグラムが設けられています。
- 近距離:約1m
- 中距離:約3m
- 遠距離:約15mから無限遠
さらに細かな距離設定も可能で、ピント合わせの範囲は約0.8mから無限遠です。カメラの裏蓋には、ゾーンマークと実際の撮影距離を対応させた表が表示されています。(Canon Global)
厳密なピント合わせには向かない
ゾーンフォーカスでは、二重像やファインダー像を見ながらピントを厳密に確認できません。
絞りを開いた状態で人物の目へ正確に合わせたい場合や、0.8m付近で接近撮影する場合は、被写体までの距離を慎重に見積もる必要があります。
一方、F8前後まで絞った日中のスナップでは被写界深度を利用でき、近・中・遠のマークを選ぶだけで素早く撮影できます。
追針合致式のセレン露出計を搭載
demi Sには、セレン光電池を使用した露出計が内蔵されています。
被写体へカメラを向けると、光の強さに応じて細い指針が動きます。絞りリングを回して太い追針を重ねると、適正露出となる絞り値が設定されます。(Orphancameras)
シャッター速度を先に選ぶ
基本的な露出設定は次の手順で行います。
- 使用するフィルムのISO感度を設定する
- 撮影に使うシャッター速度を選ぶ
- カメラを被写体へ向ける
- 絞りリングを回して2本の針を重ねる
- ピントと構図を決める
- シャッターを切る
説明書では、シャッター速度を先に決める「シャッター速度優先型」として案内されています。ただし、カメラが自動的に絞りを動かすAEではなく、撮影者が絞りリングを操作する追針式です。(Orphancameras)
絞りとシャッター速度の組み合わせを変更できる
適正露出を合わせたあと、シャッター速度リングを動かすと、露出を維持しながら絞り値との組み合わせを変更できます。
動きを止めたい場合は高速シャッター側、背景をぼかしたい場合は絞りが開く組み合わせを選ぶなど、撮影目的に応じた調整が可能です。
公式資料で「プログラム式」と表現されるのは、シャッター速度と絞りの組み合わせが連動する機構を備えているためです。現代的な全自動プログラムAEとは異なります。(Canon Global)
露出計に電池は不要
セレン光電池は、受けた光から発電して露出計を動かします。
そのため、Canon demi Sには露出計用電池がありません。電池の入手や電圧の違いを心配せずに使用できます。
ただし、セレン素子は経年劣化することがあります。針が動いても測光値が正しいとは限らないため、中古品では単体露出計や露出計アプリと比較しましょう。
露出計を使わないマニュアル撮影も可能
内蔵露出計が作動しなくても、絞り値とシャッター速度は手動で設定できます。
外部露出計などで露出を決めれば撮影可能です。Bシャッターでは露出計と連動しないため、絞りと露光時間を自分で設定します。(Orphancameras)
1/8秒から1/500秒のレンズシャッター
Canon demi Sには、セイコーシャ製のレンズシャッターが搭載されています。
シャッター速度は1/8秒から1/500秒とB。初代demiが最高1/250秒だったのに対し、demi Sでは最高1/500秒へ高速化されました。(Canon Global)
高速シャッターを使いやすい
1/500秒を使用すれば、明るい屋外でF1.7やF2.8を選びやすくなります。
歩いている人物や乗り物など、動く被写体を止めて写したい場面にも有効です。
一方、最低速度は1/8秒です。これより長い露光にはBを使用し、三脚とケーブルレリーズでシャッターを開いている時間を調整します。
X接点によるフラッシュ撮影
フラッシュシンクロはX接点式で、電子フラッシュに対応します。
M級・F級のフラッシュバルブは、1/30秒以下で同調可能です。フラッシュ撮影時は露出計ではなく、フラッシュのガイドナンバーと撮影距離から絞り値を設定します。(Canon Global)
実像式ファインダーを採用
ファインダーはケプラー型の実像式で、倍率は約0.41倍、視野率は約90%です。(Canon Global)
撮影レンズの真上にファインダーを配置することで、レンズとファインダーの位置の違いによるパララックスを抑えています。
ただし、撮影レンズを通した像を見るわけではありません。ピントや背景のぼけ、露出結果をファインダー内で確認することはできません。
フィルムの巻き上げは上部レバー式
裏蓋を開き、フィルム先端を巻き取りスプールの溝へ差し込んで装填します。
上部の巻き上げレバーは145度回転で、小刻みな分割巻き上げにも対応。シャッターを切ると再び巻き上げられるようになります。(Canon Global)
カウンターは2コマで1目盛り進む
ハーフサイズでは、一般的な35mmカメラの1コマ分に2枚を記録します。
そのため、フィルムカウンターは撮影するたびではなく、2回巻き上げるごとに1目盛り進みます。裏蓋を開くと自動的にスタート位置へ戻ります。(Orphancameras)
フィルム装填後は、巻き上げ操作に合わせて巻き戻しクランクが回転することを確認しましょう。
Canon demi Sの基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年月 | 1964年9月 |
| カメラ形式 | 35mmレンズシャッター式ハーフサイズカメラ |
| 画面サイズ | 24×18mm |
| レンズ | Canon SH 30mm F1.7 |
| レンズ構成 | 4群6枚 |
| レンズ交換 | 不可 |
| 絞り | F1.7~F16 |
| ピント方式 | ゾーンフォーカス |
| 撮影距離 | 約0.8m~無限遠 |
| 露出計 | セレン光電池式 |
| 露出調整 | 追針合致式 |
| 測光範囲 | ISO100でEV4.5~17 |
| フィルム感度 | ISO25~400 |
| シャッター | セイコーシャ製レンズシャッター |
| シャッター速度 | B、1/8~1/500秒 |
| フラッシュ | X接点 |
| ファインダー | ケプラー型実像式 |
| ファインダー倍率 | 約0.41倍 |
| ファインダー視野率 | 約90% |
| フィルム巻き上げ | 上部レバー式・分割巻き上げ可能 |
| 巻き上げ角 | 145度 |
| フィルム巻き戻し | 上部クランク式 |
| 電源 | 不要 |
| サイズ | 約115×68×48mm |
| 重量 | 約400g |
主な仕様はキヤノンカメラミュージアムに基づきます。(Canon Global)
初代Canon demiとの違い
初代demiは1963年に発売されました。
両機は基本的なボディー形状、ハーフサイズ方式、ゾーンフォーカス、セレン露出計などを共有していますが、レンズとシャッター性能が異なります。
| 項目 | Canon demi | Canon demi S |
|---|---|---|
| 発売年 | 1963年 | 1964年 |
| レンズ | 28mm F2.8 | 30mm F1.7 |
| レンズ構成 | 3群5枚 | 4群6枚 |
| 最高速度 | 1/250秒 | 1/500秒 |
| 最低速度 | 1/30秒 | 1/8秒 |
| 測光範囲・ISO100 | EV8~17 | EV4.5~17 |
| 奥行き | 約37mm | 約48mm |
| 重量 | 約380g | 約400g |
demi Sは少し厚く重くなりましたが、暗い場所への対応力とシャッター速度の選択肢が大幅に向上しています。(Canon Global)
Canon demi EE17との違い
1966年には、同じ30mm F1.7レンズを搭載したdemi EE17が発売されました。
demi Sがセレン露出計による追針式なのに対し、demi EE17はCdS露出計とシャッター速度優先EEを搭載。選択したシャッター速度に合わせて、カメラが絞りを自動設定します。
EE17はセルフタイマーやファインダー内の距離指針も備えた、デミシリーズの最高級モデルでした。(Canon Global)
操作を自分で行いたい場合はdemi S、露出の自動化を重視する場合はdemi EE17という違いがあります。
中古のCanon demi Sを購入するときの注意点
セレン露出計
明るい場所と暗い場所へ向け、細い指針が滑らかに動くか確認します。
次に絞りリングを回し、太い追針が連動することを確認しましょう。針が動いても、別の露出計と大きく値が異なる場合はセレン素子が劣化している可能性があります。
レンズシャッター
1/8秒から1/500秒まで順番に作動させます。
特に1/8秒や1/15秒で羽根が途中停止する、設定より長く開く、シャッターを切っても閉じない個体には注意が必要です。
高速側は目視や音だけで精度を判断しにくいため、可能であれば実写確認済みの個体を選びましょう。
シャッター羽根と絞り羽根
レンズ内部を確認し、羽根に油が付着していないか確認します。
油が多いと、低速シャッターの粘りや絞りの動作不良につながります。外部から潤滑油を吹き付けると悪化する可能性があるため、分解整備は専門業者へ依頼するのが安全です。
ゾーンフォーカス
フォーカシングリングを0.8mから無限遠まで動かし、途中で引っかからないか確認します。
リングが極端に軽い、重い、レンズががたつく個体では、ヘリコイドの劣化や分解後の組み付け不良が考えられます。
レンズのカビやクモリ
30mm F1.7レンズは固定式なので、状態が悪くても交換できません。
カビ、白いクモリ、バルサム切れ、強い拭き傷、コーティング劣化を確認しましょう。特に逆光で強いクモリがあると、コントラストが低下します。
フィルム送り
巻き上げレバー、巻き取りスプール、スプロケット、フィルムカウンターを確認します。
ハーフサイズのため、カウンターが2回の巻き上げで1目盛り進む動作を故障と誤解しないよう注意が必要です。
ファインダー
ファインダー内のカビ、クモリ、ゴミを確認します。
ファインダーの汚れは写真へ直接写りませんが、構図確認を難しくします。近距離撮影では視差が残るため、画面の端へ重要な被写体を置きすぎないほうが安全です。
Canon demi Sはどんな人に向いている?
Canon demi Sは、次のような人に向いています。
- ハーフサイズカメラで多く撮影したい人
- 30mm F1.7の明るいレンズを使いたい人
- 電池不要のカメラを探している人
- ゾーンフォーカスで素早く撮影したい人
- 絞りとシャッター速度を自分で選びたい人
- 1960年代の小型金属製カメラが好きな人
- 初代demiより高性能なモデルを選びたい人
一方、オートフォーカス、距離計、自動露出を求める人には向きません。
正確なピント合わせが必要な撮影よりも、被写界深度を利用した街中のスナップや旅行記録に適しています。
まとめ
Canon demi Sは、1964年に初代demiの上位モデルとして発売された35mmハーフサイズカメラです。
4群6枚構成の30mm F1.7レンズ、1/8秒から1/500秒のレンズシャッター、セレン光電池式の追針露出計を搭載。電池を必要とせず、露出計が故障しても手動で絞りとシャッター速度を設定できます。
ピント合わせは、約1m・3m・15mのマークを使うゾーンフォーカス方式です。厳密なピント合わせには慣れが必要ですが、絞り込んだスナップでは素早く撮影できます。
中古で購入するときは、セレン露出計、低速シャッター、シャッター・絞り羽根、ヘリコイド、30mm F1.7レンズ、フィルム送りを確認しましょう。
正常に動作する個体なら、ハーフサイズならではの撮影枚数と、明るいF1.7レンズによる表現力を、電池なしで楽しめる一台です。









