Canon T50は、35mmフィルムを使用するマニュアルフォーカス一眼レフカメラです。
ピント合わせとレンズ選びは撮影者が行いますが、絞りとシャッター速度はプログラムAEによってカメラが自動設定します。さらにフィルム巻き上げ用モーターもボディーへ内蔵され、Aシリーズより撮影操作を簡略化した一台です。
ただし、一般的なマニュアル露出や絞り優先AE、シャッター速度優先AEは搭載していません。「一眼レフの自由なレンズ交換」と「コンパクトカメラに近い簡単操作」を組み合わせた、独特な位置づけのカメラです。
Canon T50とは
Canon T50は、1983年3月に発売された35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフカメラです。
AE-1やA-1などのAシリーズに続く、新しい「Tシリーズ」の第1号機として登場しました。発売時価格はボディーのみで4万5,000円、FD35-70mm F3.5-4.5付きで8万円です。
撮影操作の簡略化を重視した一眼レフ
1980年代初頭には一眼レフの測光・露出機能が多様化し、操作が複雑になりつつありました。
T50は、この流れとは反対に機能を絞り込み、プログラムAEと内蔵ワインダーによって誰でも扱いやすい一眼レフを目指して開発されています。1983年度にはグッドデザイン大賞を受賞しました。
北米限定のT5も存在する
アメリカでは、T50をベースとした「Canon T5」が限定販売されています。
基本的な撮影機能はT50と共通するため、中古市場では名称を取り違えないようにしましょう。
プログラムAE専用のシンプルな操作
T50の中心となる機能が、TTL開放測光によるプログラムAEです。
撮影者がシャッター速度や絞り値を指定しなくても、被写体の明るさ、装着レンズ、設定したフィルム感度に応じて、カメラが適切な組み合わせを選択します。測光方式はSPC素子を使用した中央部重点平均測光です。
基本的な撮影手順
プログラムAEを使用する際は、FDレンズの絞りリングを「A」に設定します。
撮影の流れは次のとおりです。
- 使用するフィルムのISO感度を設定する
- FDレンズの絞りリングを「A」に合わせる
- カメラ上部のダイヤルを「PROGRAM」にする
- ファインダーを見ながらピントを合わせる
- シャッターボタンを半押しして警告表示を確認する
- シャッターを切る
露出が適正範囲内なら、カメラが絞りとシャッター速度を自動設定します。
絞りとシャッター速度は表示されない
T50のファインダーには、カメラが選んだ具体的な絞り値やシャッター速度は表示されません。
確認できる主な情報は、適正露出、手ぶれ警告、露出連動範囲外警告、マニュアル表示、対応スピードライトの充電完了表示です。
撮影は簡単ですが、カメラがF2.8を選んだのかF8を選んだのか、1/60秒なのか1/500秒なのかを撮影前に把握できません。
背景のぼけを直接指定できない
プログラムAEでは、撮影者が絞り値を指定できません。
そのため、必ずF1.4で背景をぼかす、F11で風景全体へピントを合わせるといった撮影には不向きです。
大口径レンズを装着したり、感度の低いフィルムを使用したりすることで絞りが開く方向へ誘導できますが、最終的な設定はカメラが決定します。
通常のマニュアル露出には対応しない
T50には「MANUAL」の位置がありますが、一般的なマニュアル一眼レフのようにシャッター速度を自由に変更できるわけではありません。
マニュアル時のシャッター速度は1/60秒に固定され、撮影者がレンズの絞り値を設定します。
1/60秒固定で撮影する
レンズの絞りリングを「A」から外すと、ファインダー内にマニュアル表示が現れます。
この状態ではシャッター速度が1/60秒となるため、外部露出計などを使い、適正露出となる絞り値を自分で設定します。
1/60秒固定なので、動体撮影や長時間露光などへ柔軟に対応できるマニュアルモードではありません。主にフラッシュ撮影や限定的な非常用撮影を想定した機能です。
Bシャッターも搭載していない
T50のシャッター速度は、プログラムAE時の2秒から1/1000秒と、マニュアル時の1/60秒です。
シャッターボタンを押している間だけ露光するBは搭載されていません。夜景や星空など、2秒を超える長時間露光を行いたい人には不向きです。
FDマウントを採用
Canon T50はFDマウントを採用しています。
発売時の標準ズームとして、FD35-70mm F3.5-4.5などが用意されました。単焦点、広角、望遠、ズーム、マクロなど、豊富なFD系レンズを使用できます。
旧FDとNew FDを使用できる
T50では、旧FDレンズとNew FDレンズの両方を装着できます。
旧FDレンズは、レンズ後部の固定リングを回して装着するブリーチロック式です。New FDレンズは、一般的なバヨネット方式に近く、レンズ本体を回して装着します。
同じFDマウントでも取り付け方が異なります。旧FDレンズを無理に本体ごと回さないよう注意しましょう。New FDではロック機構付きのワンタッチ着脱方式が採用されています。
プログラムAEには「A」位置が必要
T50のプログラムAEを使用するには、絞りリングを「A」へ設定できるFDレンズが必要です。
絞りリングがA位置から外れていると、プログラムAEではなく1/60秒固定のマニュアル撮影となります。
レンズを装着しただけで自動露出になるとは限らないため、撮影前に絞りリングを確認しましょう。
EF・EF-S・RFレンズは装着できない
EOSシリーズ用のEF・EF-Sレンズや、ミラーレス用のRFレンズはT50へ直接装着できません。
T50用として交換レンズを探す場合は、商品名に「FD」または「New FD」と記載されているものを基本に選びます。
ピント合わせはマニュアルフォーカス
T50にはオートフォーカス機能がありません。
ファインダー中央にはニュースプリット、その周囲にはマイクロプリズムが配置されたレーザーマットスクリーンが採用されています。ファインダー倍率は約0.83倍、視野率は上下約92%・左右約93%です。
スプリットイメージでピントを合わせる
ピントが外れていると、ファインダー中央で被写体の線や輪郭が上下にずれて見えます。
レンズのフォーカスリングを回し、分かれている像が一直線につながればピントが合った状態です。
人物の目、建物の縦線、看板の文字など、輪郭のはっきりした部分を利用すると合わせやすくなります。
露出は自動でもピントは自分で合わせる
T50は外観と操作が全自動カメラに近いため、オートフォーカス機だと誤解されることがあります。
しかし、自動化されているのは露出とフィルム巻き上げです。ピントが合っているかどうかをカメラが判断したり、レンズを自動で動かしたりする機能はありません。
内蔵モーターでフィルムを自動巻き上げ
T50には、フィルム巻き上げ用のワインダーが内蔵されています。
シャッターを切ると、モーターがフィルムを次のコマへ送り、同時にシャッターをチャージします。外付けパワーワインダーを装着する必要はありません。
約0.7コマ/秒で連続撮影できる
シャッターボタンを押し続けると、約0.7コマ/秒の連続撮影が可能です。
現在の感覚ではゆっくりしていますが、巻き上げレバーを操作せずに次々と撮影できることは、当時の入門向け一眼レフとして大きな特徴でした。
フィルム装填はセミオート
裏蓋を開き、フィルム先端を指定位置へ合わせてから裏蓋を閉じます。
その後、シャッターボタンを押し続けると、内蔵モーターがフィルムを撮影開始位置まで送ります。完全な自動装填ではなく、フィルム先端を正しい位置へ置く作業は撮影者が行います。
巻き戻しは手動
フィルム巻き上げは電動ですが、撮影後の巻き戻しは手動です。
巻き戻し解除操作を行ったあと、カメラ上部の折り畳み式クランクを回してフィルムをパトローネへ戻します。後継のT70では巻き戻しも電動化されたため、両機の分かりやすい違いです。
単3形乾電池2本で作動する
T50の電源には、1.5Vの単3形乾電池2本を使用します。
特殊なカメラ用電池ではなく、現在でも入手しやすい電池で動くことは実用上の利点です。
電池がなければ撮影できない
電池は露出計だけでなく、電子制御シャッターとフィルム巻き上げモーターにも使用します。
電池が切れると正常な撮影はできません。機械式のFTbや一部速度を機械制御するNew F-1とは異なるため、予備の単3形電池を用意しておくと安心です。
電池は2本とも同時に交換する
新旧の電池や種類の異なる電池を混ぜず、同じ銘柄・同じ種類の新品2本を使用します。
長期間使わない場合は、液漏れによる腐食を防ぐために電池を取り外して保管したほうが安全です。
電子制御式縦走りシャッター
T50は、縦走行式の電子制御フォーカルプレーンシャッターを搭載しています。
プログラムAE時には、2秒から1/1000秒までの段階的なシャッター速度をカメラが選択します。フラッシュ同調速度とマニュアル時の速度は1/60秒です。
手ぶれ警告を電子音で知らせる
暗い場所でシャッター速度が遅くなると、ファインダー内の警告と電子音によって手ぶれの可能性を知らせます。
警告が出た場合は、カメラをしっかり構える、三脚を使う、より明るいレンズや高感度フィルムを使用する、フラッシュを利用するなどの対策が必要です。
対応スピードライトで自動フラッシュ撮影
T50はホットシューを備え、対応するキヤノンスピードライトを装着できます。
対応フラッシュが充電を完了するとファインダー内へ表示され、シャッター速度は同調速度の1/60秒になります。
中古の古いフラッシュを使う場合は、電池室の液漏れ、発光、充電時間、接点の腐食を確認しましょう。
Canon T50の基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年月 | 1983年3月 |
| カメラ形式 | ワインダー内蔵35mm一眼レフ |
| 使用フィルム | 35mm・135フィルム |
| 画面サイズ | 24×36mm |
| レンズマウント | Canon FDマウント |
| ピント合わせ | マニュアルフォーカス |
| 露出方式 | TTLプログラムAE |
| 測光方式 | SPC・中央部重点平均測光 |
| 測光範囲 | ISO100・F1.4でEV1~18 |
| フィルム感度 | ISO25~1600 |
| シャッター | 電子制御縦走りフォーカルプレーン |
| プログラム時 | 2秒~1/1000秒 |
| マニュアル時 | 1/60秒固定 |
| フラッシュ同調 | 1/60秒 |
| ファインダー倍率 | 約0.83倍 |
| ファインダー視野率 | 上下92%・左右93% |
| フィルム装填 | セミオートローディング |
| フィルム巻き上げ | 内蔵モーター式 |
| 連続撮影 | 約0.7コマ/秒 |
| フィルム巻き戻し | 手動クランク式 |
| セルフタイマー | 電子式・電子音付き |
| 電源 | 単3形乾電池2本 |
| サイズ | 約150×87×48mm |
| ボディー重量 | 約490g |
Canon T70との違い
T70は1984年に登場したTシリーズ第2弾です。
T50がプログラムAEへ機能を絞った入門モデルであるのに対し、T70はマルチプログラムAE、シャッター速度優先AE、マニュアル露出、実絞りAEなどへ対応しています。大型液晶パネルも搭載されました。
| 項目 | T50 | T70 |
|---|---|---|
| 発売年 | 1983年 | 1984年 |
| 主な露出方式 | プログラムAE | マルチプログラム・シャッター速度優先など |
| マニュアル露出 | 1/60秒固定のみ | 2秒~1/1000秒・B |
| 外部表示 | 基本表示のみ | 大型LCD |
| フィルム巻き上げ | 電動 | 電動 |
| フィルム巻き戻し | 手動 | 電動 |
| 電源 | 単3形2本 | 単3形2本 |
操作の簡単さならT50、露出を自分で調整したい場合はT70が適しています。
中古のCanon T50を購入するときの注意点
電池室の液漏れ
底部の電池室を開き、次の状態を確認します。
- 白色や緑色の付着物
- 電極の錆
- 接点の変形
- 電池蓋の割れ
- 蓋を閉めても電源が不安定
- 腐食が内部へ進んでいる形跡
T50は電池がなければ撮影できません。新品の単3形電池2本を入れ、一連の動作を確認しましょう。
プログラムAEの動作
FDレンズの絞りリングをA位置へ設定し、明るい場所と暗い場所でシャッターを切ります。
暗い場所では作動時間が長くなり、手ぶれ警告が出るか確認しましょう。露出計が反応していても、実際のシャッターや絞りが正しく制御されているとは限らないため、可能であればフィルム撮影済みの個体を選びます。
FDレンズのA位置と自動絞り
絞りリングがA位置で確実にロックされるか確認します。
シャッターを切った瞬間に絞り羽根が閉じ、撮影後に素早く開放へ戻ることも重要です。絞り羽根に油が付着しているレンズでは、プログラムAEの露出が不安定になる可能性があります。
フィルム巻き上げモーター
シャッターを切った後、モーターが作動して巻き取り軸とスプロケットが回転するか確認します。
モーター音だけがしてフィルムを送らない、途中で停止する、1コマ以上送ってしまう個体には注意が必要です。
セミオートローディング
テスト用フィルムを入れ、シャッターボタンを押し続けた際に撮影開始位置まで送られるか確認します。
フィルムカウンターだけでなく、巻き戻しクランクが動いていることも確認しましょう。
電子シャッター
プログラムAEで明暗を変え、シャッターの作動時間が変化するか確認します。
マニュアル位置では1/60秒で作動することも確認します。T50は電子制御式なので、シャッター回路の故障は撮影不能へ直結します。
ファインダーとピントスクリーン
ファインダー内のカビ、クモリ、ゴミ、プリズム腐食を確認します。
中央のスプリットイメージとマイクロプリズム、露出警告、手ぶれ警告が見えることも重要です。
シャッター幕
裏蓋を開け、縦走りシャッターの羽根に変形、傷、油の付着、重なりの乱れがないか確認します。
シャッター羽根は薄く傷つきやすいため、指で押したり拭いたりしてはいけません。
プラスチック外装
T50は従来のAシリーズと比べて樹脂部品を多く使用しています。
電池蓋、裏蓋ロック、モードダイヤル、グリップ周辺にひび割れや欠けがないか確認しましょう。外装が割れていると、電池接点や裏蓋の遮光状態が不安定になる可能性があります。
Canon T50はどんな人に向いている?
Canon T50は、次のような人に向いています。
- フィルム一眼レフを簡単に使いたい人
- プログラムAEへ露出を任せたい人
- FDレンズを所有している人
- ピント合わせだけは自分で楽しみたい人
- フィルム巻き上げを自動化したい人
- 単3形乾電池で動くカメラを選びたい人
- 1980年代のキヤノンTシリーズに興味がある人
- 難しい露出モードを必要としない人
一方、絞り、シャッター速度、露出補正を自由に設定したい人には向きません。
撮影表現を細かく制御したい場合は、A-1、AE-1 Program、T70、New F-1などのほうが適しています。
まとめ
Canon T50は、1983年に登場したTシリーズ最初の35mm一眼レフカメラです。
TTLプログラムAE、FDマウント、電子制御シャッター、内蔵フィルムワインダーを搭載し、露出設定と巻き上げ操作を自動化しました。撮影者が行う主な操作は、フィルム感度の設定、構図決定、マニュアルフォーカスによるピント合わせです。
一方、通常のマニュアル露出には対応せず、手動撮影時のシャッター速度は1/60秒に固定されます。フィルム巻き上げは電動ですが、撮影後の巻き戻しは手動です。
中古で購入するときは、電池室、プログラムAE、FDレンズの自動絞り、電子シャッター、巻き上げモーター、セミオートローディング、ファインダー、シャッター羽根を確認しましょう。
正常に動作する個体なら、FDレンズの交換を楽しみながら、露出操作をカメラへ任せられる、シンプルで軽快なフィルム一眼レフとして活用できます。









