Canon AV-1は、35mmフィルムを使用するマニュアルフォーカス一眼レフカメラです。
撮影者が絞り値を選ぶと、カメラが適切なシャッター速度を決定する「絞り優先AE」を搭載しています。背景のぼけやピントの合う範囲を自分で調整しながら、露出の計算はカメラへ任せられることが特徴です。
キヤノンAシリーズではシャッター速度優先AEを搭載したAE-1が有名ですが、AV-1は操作思想が正反対です。また、通常のマニュアル露出モードを搭載していないため、購入前にこの点を理解しておきましょう。
Canon AV-1とは
Canon AV-1は、1979年5月に発売された35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフカメラです。
当時のキヤノンは、シャッター速度のほうが絞り値より利用者に理解されやすいという考えから、AE-1などでシャッター速度優先AEを採用していました。
しかし、アメリカをはじめとする海外市場では絞り優先AE機の人気が高く、海外販社からも絞り優先モデルを求める声が寄せられます。その要望に応える形で開発されたのがAV-1です。発売時価格はNew FD 50mm F2付きで5万7,000円でした。
Aシリーズの絞り優先AEモデル
キヤノンAシリーズには、機能や露出方式の異なる複数のモデルがあります。
- AE-1:シャッター速度優先AE
- A-1:プログラム・絞り優先・シャッター速度優先などに対応
- AV-1:絞り優先AE
- AT-1:マニュアル露出
- AE-1 Program:プログラムAEとシャッター速度優先AE
- AL-1:フォーカスエイド搭載
AV-1は多機能機ではなく、絞り優先AEへ機能を絞り込んだシンプルなモデルです。
絞り優先AEを搭載
AV-1では、レンズの絞りリングから撮影者がF値を選びます。
カメラはTTL露出計で被写体の明るさを測り、設定された絞り値とフィルム感度に合ったシャッター速度を自動的に決定します。測光にはSPC受光素子によるTTL開放中央部重点平均測光が採用されています。
絞り優先AEの基本的な使い方
通常撮影では、ボディー上部のセレクターダイヤルを「A」に合わせます。
基本的な撮影手順は次のとおりです。
- 使用するフィルムのISO感度を設定する
- セレクターダイヤルを「A」にする
- レンズの絞りリングからF値を選ぶ
- ファインダーを見てピントを合わせる
- ファインダー内のシャッター速度を確認する
- シャッターを切る
シャッター速度は、2秒から1/1000秒までの範囲でカメラが無段階に制御します。撮影者がシャッター速度ダイヤルから1/125秒や1/500秒を直接選ぶことはできません。
絞りで背景のぼけを調整できる
F1.4やF2などの小さな数字を選ぶと絞りが大きく開き、背景をぼかしやすくなります。
人物や花など、主役を背景から浮かび上がらせたい場面に適しています。ただし、ピントの合う範囲が狭くなるため、慎重なピント合わせが必要です。
F8やF11などへ絞ると、手前から奥までピントの合う範囲が広くなります。風景、建物、日中のスナップなどに使いやすい設定です。
シャッター速度はファインダー内で確認する
ファインダー内にはシャッター速度目盛りと露出計指針が表示されます。
選んだ絞り値に対してカメラが設定しようとしているシャッター速度を、撮影前に確認できます。露出過不足警告のほか、低速シャッターによる手ぶれを知らせる指標も備えています。
一般的には、50mmレンズを手持ちで使用する場合、1/60秒より遅くなると手ぶれしやすくなります。指針が低速側を示した場合は、絞りを開く、三脚を使う、より高感度のフィルムを選ぶなどの対策を行いましょう。
通常のマニュアル露出は搭載していない
AV-1を選ぶうえで、特に重要なのがマニュアル露出の制限です。
上部のセレクターダイヤルには、主に次の位置があります。
- A:絞り優先AE
- 1/60秒:一般的なフラッシュ撮影用
- B:シャッターボタンを押している間だけ開く
- SELF:セルフタイマー
1/30秒、1/125秒、1/500秒などを撮影者が自由に選べる通常のマニュアル露出モードはありません。
1/60秒とBは選択できる
セレクターダイヤルをフラッシュマーク付きの「60」に合わせると、シャッター速度が1/60秒に設定されます。
一般的な電子フラッシュを使用するときや、限定的にシャッター速度を固定したいときに利用できます。Bでは、シャッターボタンを押している間だけシャッターが開くため、夜景や光跡などの長時間露光が可能です。
ただし、この2つだけで一般的なマニュアル撮影をすべて行えるわけではありません。
露出を細かく作り込みたい人には不向き
動いている被写体を止めるために必ず1/500秒を使う、流し撮りのために1/30秒へ固定するといった操作は苦手です。
AV-1では、絞り値やフィルム感度を変えて、カメラが選ぶシャッター速度を間接的に調整します。
露出をすべて自分で決めたい場合は、Canon AT-1、FTb、F-1、A-1などのほうが適しています。
逆光補正スイッチを搭載
カメラ前面には、逆光撮影用の露出補正スイッチがあります。
人物の背後に明るい窓や空がある場合、そのまま測光すると背景の明るさを基準に露出が決まり、人物が暗く写ることがあります。
このような場面では、露出補正スイッチを押したままシャッターを切ります。カメラが通常より多めの露出を与え、主要な被写体が暗くなることを抑えます。
ISO感度設定でも露出補正できる
AV-1には一般的なプラス・マイナス式の露出補正ダイヤルがありません。
より細かな補正を行う場合は、フィルム感度設定を変更する方法があります。
たとえば、ISO100フィルムを装填した状態でISO50へ設定すると、カメラは実際より感度が低いフィルムだと判断し、露出を増やします。反対にISO200へ設定すると露出が減ります。
撮影後に元のフィルム感度へ戻すことを忘れないようにしましょう。
FDマウントを採用
Canon AV-1は、キヤノンFDマウントを採用しています。
標準レンズとしてNew FD 50mm F1.8とNew FD 50mm F2が用意されました。広角、望遠、ズーム、マクロなど、豊富なFDレンズを使用できます。
New FDレンズと同時期に登場
AV-1の発売と同時期に、FDレンズはワンタッチ着脱式のNew FDへ移行しました。
旧FDレンズでは、レンズ後部の固定リングを回して取り付けます。New FDレンズでは、一般的なバヨネットマウントのようにレンズ本体を回転させて装着します。
どちらもAV-1で使用できますが、取り付け方法が異なります。旧FDレンズを無理にレンズ本体ごと回したり、New FDレンズの固定部分へ過度な力を加えたりしないよう注意しましょう。
FLレンズにも対応
FDマウント以前のFLレンズも、AV-1へ装着できます。
ただし、FDレンズと同じ開放測光には対応しないため、レンズを実際の絞り値まで閉じた状態で測る「絞り込みAE」を利用します。
接写用の中間リングや、絞り連動機構を持たないアクセサリーを使用する場合にも絞り込みAEを利用できます。キヤノンの公式説明書でも、FDレンズによる開放測光AEに加え、FLレンズや接写用品を用いた絞り込みAEが案内されています。
EF・EF-S・RFレンズは直接使用できない
後年のEOS用EF・EF-Sレンズや、ミラーレスカメラ用RFレンズはAV-1へ直接装着できません。
AV-1用の交換レンズを探す場合は、「FD」または「New FD」と記載された製品を基本に選びましょう。
ピント合わせはマニュアルフォーカス
AV-1にはオートフォーカス機能がありません。
ファインダー中央にはスプリットイメージ、その周囲にはマイクロプリズムが配置されています。
スプリットイメージを合わせる
ピントが外れていると、中央部分で被写体の線や輪郭が上下にずれて見えます。
レンズのフォーカスリングを回し、分かれている像が一直線につながればピントが合った状態です。
マイクロプリズムも利用できる
スプリットイメージ周辺では、ピントが外れていると像が細かくちらつきます。
フォーカスリングを回し、ちらつきが消えて像が明瞭に見える位置へ合わせます。
人物の目、建物の縦線、看板の文字など、輪郭がはっきりした部分を利用すると合わせやすいでしょう。
全速電子制御式シャッターを搭載
AV-1には、布幕横走り式フォーカルプレーンシャッターが搭載されています。
絞り優先AE時には、2秒から1/1000秒までの範囲でシャッター速度を無段階に電子制御します。長時間露光用のBと、フラッシュ撮影用の1/60秒も選択できます。
撮影には電池が必要
AV-1は電子制御式カメラです。
電池は露出計だけでなく、シャッターの制御にも使用されます。機械式のCanon FTbなどとは異なり、電池が切れると正常な撮影はできません。
使用電池は、6Vの4LR44アルカリ電池または同形状の対応電池1個です。
撮影へ出かける際は、予備の4LR44を携帯しておくと安心です。
スピードライトによる自動調光撮影
AV-1はホットシューを備え、キヤノンスピードライト155A、177A、199Aなどに対応しています。
対応するスピードライトを装着すると、カメラ側をAに設定したままストロボ調光撮影が可能です。ファインダー内には、スピードライトの充電完了表示も備えています。
一般的な他社製フラッシュなどを使う場合は、セレクターダイヤルを1/60秒へ設定し、フラッシュのガイドナンバーと撮影距離に合わせて絞り値を決定します。
古いフラッシュには高いトリガー電圧を持つ製品もあるため、現代の機器と併用する場合は仕様を確認しましょう。
パワーワインダーAに対応
AV-1は、別売りのパワーワインダーAを装着できます。
撮影後のフィルム巻き上げとシャッターチャージを自動化でき、1コマ撮影に加えて毎秒約2コマの連続撮影が可能です。
通常は上部の巻き上げレバーを使用します。レバーは120度回転、予備角30度で、小刻みな分割巻き上げにも対応しています。
Canon AV-1の基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年月 | 1979年5月 |
| カメラ形式 | 35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフ |
| 使用フィルム | 35mm・135フィルム |
| 画面サイズ | 24×36mm |
| レンズマウント | Canon FDマウント |
| 標準レンズ | New FD 50mm F1.8/50mm F2 |
| ピント合わせ | マニュアルフォーカス |
| 露出方式 | 絞り優先AE・絞り込みAE |
| 測光方式 | SPCによるTTL開放中央部重点平均測光 |
| 測光連動範囲 | ISO100・F1.4でEV1~18 |
| フィルム感度 | ISO25~1600 |
| シャッター | 布幕横走りフォーカルプレーン |
| AE時のシャッター速度 | 2秒~1/1000秒・無段階 |
| 手動選択できる速度 | 1/60秒、B |
| ファインダー倍率 | 約0.87倍 |
| ファインダー視野率 | 上下約92%・左右約93% |
| フィルム巻き上げ | レバー式・分割巻き上げ可能 |
| パワーワインダー | パワーワインダーA対応 |
| セルフタイマー | LED点滅表示付き |
| 電源 | 6V・4LR44など1個 |
| サイズ | 約139×85×48mm |
| ボディー重量 | 約490g |
Canon AE-1との違い
AV-1とAE-1は外観がよく似ていますが、AE方式が異なります。
| 項目 | AV-1 | AE-1 |
|---|---|---|
| 発売年 | 1979年 | 1976年 |
| 主なAE | 絞り優先AE | シャッター速度優先AE |
| 撮影者が選ぶ設定 | 絞り値 | シャッター速度 |
| 一般的なマニュアル露出 | 非対応 | 対応 |
| 最高シャッター速度 | 1/1000秒 | 1/1000秒 |
| マウント | FD | FD |
| ピント合わせ | 手動 | 手動 |
背景のぼけや被写界深度を優先して撮影したい場合はAV-1が分かりやすく、動きを止める、流すといったシャッター速度の操作を重視する場合はAE-1が向いています。
Canon A-1との違い
A-1は、AV-1より上位に位置する多機能モデルです。
A-1では絞り優先AEのほか、シャッター速度優先AE、プログラムAE、マニュアル露出などを使用できます。
AV-1は操作がシンプルで軽量ですが、露出モードの自由度ではA-1に及びません。絞り優先AEだけで十分ならAV-1、撮影方法を幅広く選びたいならA-1が適しています。
中古のCanon AV-1を購入するときの注意点
電池室の液漏れ
底部の電池室を開き、次の症状がないか確認します。
- 白色や緑色の付着物
- 電極の錆
- 電池蓋の破損
- 電池蓋が閉まらない
- 接点の変形
- 内部へ続く腐食
AV-1は電池に依存するカメラです。新品の4LR44を入れ、露出計とシャッターが安定して作動するか確認しましょう。
絞り優先AEの動作
レンズを装着し、絞り値を変更しながら明るい場所と暗い場所へカメラを向けます。
次の動作を確認します。
- ファインダー内の指針が動く
- 絞りを開くと速いシャッター速度を示す
- 絞ると遅いシャッター速度を示す
- 明るさに応じてシャッターの作動時間が変わる
- 露出過不足警告が表示される
露出計の針が動いても、実際のシャッター速度が正しいとは限りません。可能であれば、撮影結果まで確認された個体を選びましょう。
セレクターダイヤル
A、1/60秒、B、セルフタイマーへ切り替え、各位置で正常に作動するか確認します。
ダイヤルをAから外す際は、中央のロック解除ボタンを押しながら回します。無理に回すとダイヤルやロック機構を傷める可能性があります。
シャッター鳴き
シャッターを切ったときに、「キュン」「ギュン」という甲高い音が出る個体があります。
シャッターやミラーが動いていても、内部機構の潤滑状態が悪化している可能性があります。
外部から潤滑油を吹き付けると、シャッター幕や電気接点へ油が広がる危険があります。整備は専門業者へ依頼するのが安全です。
シャッター幕
裏蓋を開け、布製シャッター幕を確認します。
- 穴や破れ
- 強いしわ
- たるみ
- 油汚れ
- 幕端の剥がれ
- 走行途中での停止
シャッター幕は薄く傷つきやすいため、指で触れないようにしましょう。
レンズの自動絞り
FDレンズを装着してシャッターを切り、撮影時に絞り羽根が設定値まで閉じるか確認します。
撮影後は素早く開放状態へ戻る必要があります。絞り羽根に油が付着している、動きが遅い、途中で止まるレンズでは、AE撮影時の露出が不安定になります。
ファインダーと露出計表示
ファインダー内のカビ、クモリ、ゴミ、プリズム腐食を確認します。
スプリットイメージとマイクロプリズムだけでなく、露出計指針、シャッター速度目盛り、警告表示が見えることも重要です。
モルトの劣化
裏蓋周辺やミラー上部のモルトは、経年劣化によって粉状に崩れたり、粘着質になったりします。
裏蓋のモルトが劣化すると光線漏れ、ミラー受けが劣化すると作動音やミラー停止位置へ影響する可能性があります。
パワーワインダーA
ワインダー付きの場合は、電池室の液漏れと接点の腐食を確認します。
モーター音がしても、実際にフィルム送りとシャッターチャージが行われているとは限りません。ボディーへ取り付けた状態で動作を確認しましょう。
Canon AV-1はどんな人に向いている?
Canon AV-1は、次のような人に向いています。
- 絞り優先AEでフィルム撮影を始めたい人
- 背景のぼけを自分で調整したい人
- FDレンズを所有している人
- マニュアルフォーカスを楽しみたい人
- 複雑なモード切り替えを必要としない人
- AE-1とは異なるAシリーズを使いたい人
- 比較的軽量なフィルム一眼レフを探している人
一方、シャッター速度を自由に固定したい人や、完全なマニュアル露出を使いたい人には向きません。
また、電子制御式なので、電池なしで撮影できる機械式一眼レフを求める人にも不向きです。
まとめ
Canon AV-1は、1979年に発売されたFDマウント採用の35mm一眼レフカメラです。
撮影者が絞り値を選び、カメラが2秒から1/1000秒の範囲でシャッター速度を無段階に決定する絞り優先AEを搭載しています。
New FDレンズへの移行と同時期に登場し、50mm F1.8や50mm F2をはじめとする豊富なFDレンズを使用できます。
一方、通常のマニュアル露出には対応せず、撮影者が直接選べるシャッター速度は主に1/60秒とBです。購入時には、この操作上の制限を理解しておく必要があります。
中古で購入するときは、電池室、絞り優先AE、露出計、セレクターダイヤル、シャッター幕、自動絞り、ファインダー、モルトを確認しましょう。
正常に動作する個体なら、絞りによる表現を学びながら、フィルム一眼レフ撮影を比較的シンプルに楽しめる一台です。









