Canon Rangefinder 50mm F1.8は、キヤノンのレンジファインダーカメラ向けに作られた、マニュアルフォーカス式の標準レンズです。
50mmの自然な画角と開放F1.8の明るさを備え、人物、街中のスナップ、風景など幅広い撮影に対応します。金属製鏡筒ならではの質感があり、キヤノン製レンジファインダーカメラだけでなく、マウントアダプターを介したミラーレス撮影でも楽しめるオールドレンズです。
掲載写真の個体は、前玉周辺の表記や黒と銀を組み合わせた鏡筒デザインから、1956年発売のCANON 50mm F1.8 IIとみられます。ただし、50mm F1.8には複数の世代があるため、正確な型式は前玉周囲の刻印や製造番号を確認して判断する必要があります。
Canon Rangefinder 50mm F1.8とは
キヤノンは1946年から1964年にかけて、レンジファインダーカメラ向けのスクリューマウントレンズを展開していました。
キヤノンカメラミュージアムでは、これらを「Sレンズ」に分類しています。対応カメラとしてCanon IV Sbなどがあり、レンズをボディーへ回しながら取り付ける標準ねじ式のスクリューマウントが採用されました。中古市場では、L39やライカスクリューマウント、LTMなどの名称で扱われることがあります。
レンジファインダーカメラ用の標準レンズ
50mmは、35mmフィルムで自然な遠近感を得やすい標準的な焦点距離です。
広角レンズほど遠近感が強調されず、望遠レンズほど写る範囲も狭くないため、次のような用途に利用できます。
- 街中のスナップ
- 人物撮影
- 日常の記録
- 旅行
- 風景
- テーブルフォト
レンジファインダーカメラでは、撮影レンズを通した像を見るのではなく、カメラ側のファインダーと距離計を使って構図とピントを確認します。
レンズのピントリングを回すとカメラ内の距離計が連動し、ファインダー内に見える二重像が重なった位置でピントが合います。
セレナー50mm F1.8から発展したレンズ
Canon 50mm F1.8の原型となったのが、1951年に発売された「Serenar 50mm F1.8 I」です。
セレナーは、キヤノンが初期の交換レンズに使用していたブランド名です。1953年以降、レンズの名称は順次「CANON」へ統一されました。
ガウスタイプの弱点を抑えた設計
Serenar 50mm F1.8 Iは、4群6枚のガウスタイプを採用しています。
当時の大口径ガウスタイプレンズでは、絞りを開いたときにコマ収差の影響によるフレアが発生しやすいという課題がありました。
キヤノンは独自の理論によってこの問題を抑え、同レンズを近代光学史に残る代表的なレンズの一つとして紹介しています。この設計思想は、その後のキヤノン製広角・望遠レンズの大口径化にも活用されました。
セレナーからCANONブランドへ変更
1951年に発売された初期モデルには「Serenar」の名称が使われています。
その後は同じ基本設計を受け継ぎながら、前玉周囲の表記が「CANON」へ変更されました。
現在の中古市場では、外観や刻印の異なる複数の50mm F1.8が流通しているため、すべてを同じ型式として扱わないよう注意が必要です。
Canon 50mm F1.8には複数の種類がある
キヤノンのレンジファインダー用50mm F1.8には、代表的なものとして次の3世代があります。
| モデル | 発売年月 | レンズ構成 | 絞り羽根 | 最小絞り | 最短撮影距離 |
|---|---|---|---|---|---|
| Serenar 50mm F1.8 I | 1951年11月 | 4群6枚 | 10枚 | F16 | 1m |
| CANON 50mm F1.8 II | 1956年2月 | 4群6枚 | 9枚 | F22 | 1m |
| CANON 50mm F1.8 III | 1958年12月 | 4群6枚 | 9枚 | F22 | 1m |
3モデルともフィルター径は40mmですが、鏡筒の長さ、重量、前玉周囲の刻印などが異なります。
掲載個体は50mm F1.8 IIとみられる
掲載写真の個体は、黒い鏡筒に銀色の絞りリングと距離目盛りを組み合わせています。
この外観は、1956年2月発売のCANON 50mm F1.8 IIとよく似ています。
50mm F1.8 IIの主な仕様は次のとおりです。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年月 | 1956年2月 |
| レンズ形式 | レンジファインダーカメラ用標準レンズ |
| 焦点距離 | 50mm |
| 開放F値 | F1.8 |
| レンズ構成 | 4群6枚 |
| 絞り羽根 | 9枚 |
| 最小絞り | F22 |
| 最短撮影距離 | 1m |
| フィルター径 | 40mm |
| 最大径 | 48mm |
| 全長 | 38.5mm |
キヤノン公式資料では、50mm F1.8 IIの発売時価格は2万7,000円と記録されています。
ただし、掲載写真では銘板の文字すべてを読み取れません。記事内で型式を断定する場合は、実物の前玉周囲にあるメーカー名、製造番号、焦点距離表記を確認しておくと安全です。
開放F1.8の明るさが特徴
Canon 50mm F1.8は、開放F1.8まで絞りを開けられます。
F2.8やF3.5のレンズより多くの光を取り込めるため、室内や夕方など、光量の少ない場所でシャッター速度を確保しやすくなります。
背景をぼかした撮影ができる
絞りをF1.8付近まで開くと、ピントを合わせた被写体の前後がぼけやすくなります。
人物や小物を背景から浮かび上がらせたい場面に向いています。
ただし、レンジファインダー用レンズの最短撮影距離は1mです。現代の50mmレンズほど被写体へ近づけないため、テーブル上の小さな物を大きく写す用途には制約があります。
絞ることで描写が安定しやすい
開放付近では、わずかなにじみや周辺部の描写低下が見られる場合があります。
F4からF8程度まで絞ると、ピントの合う範囲が広くなり、画面全体の描写も安定しやすくなります。
開放時の柔らかさと、絞ったときの変化を使い分けることも、オールドレンズを使う楽しみの一つです。
絞りとピントはすべて手動
Canon Rangefinder 50mm F1.8には、オートフォーカスや電子接点はありません。
撮影者がレンズのピントリングを回し、絞りリングからF値を設定します。
自動絞り機構はない
一眼レフ用レンズのように、撮影する瞬間だけ絞り羽根が閉じる自動絞り機構はありません。
絞りリングを回すと、その場で絞り羽根が開閉します。
レンジファインダーカメラでは撮影レンズを通してファインダー像を見ないため、絞りをF8やF11まで閉じてもファインダーが暗くなることはありません。
ピントリングの距離目盛りを利用できる
鏡筒には撮影距離と被写界深度の目盛りがあります。
たとえば、絞りをF8などに設定し、被写界深度目盛りを利用すれば、ファインダーで細かくピントを合わせずに一定範囲へピントを合わせる撮影も可能です。
街中のスナップでは、あらかじめ距離を設定しておき、被写体がその範囲へ入った瞬間に撮影する方法を利用できます。
使用できるカメラについて
Canon 50mm F1.8は、キヤノンの標準ねじ式スクリューマウントを採用したレンジファインダーカメラで使用するレンズです。
Canon IV Sbなど、対応するキヤノン製レンジファインダーカメラへ装着できます。
後年のキヤノンマウントとは互換性がない
同じキヤノン製品でも、次のマウントへ直接装着することはできません。
- Rマウント
- FLマウント
- FD・New FDマウント
- EF・EF-Sマウント
- EF-Mマウント
- RFマウント
キヤノンは、スクリューマウントの後にR、FL、FD、New FD、EF、EF-M、RFという異なるマウントを展開しています。名称に「Canon」と書かれているだけでは互換性を判断できません。
マウントアダプターでミラーレスカメラにも装着できる
対応するスクリューマウント用アダプターを使えば、現代のミラーレスカメラへ装着できる場合があります。
ただし、次の機能は基本的に使用できません。
- オートフォーカス
- 絞りの電子制御
- レンズ情報の自動記録
- カメラからの絞り値表示
ピントと絞りは手動で操作します。カメラ側の拡大表示やフォーカスピーキングを利用すると、レンジファインダーカメラより細かなピント確認がしやすくなります。
中古で購入するときの注意点
Canon Rangefinder 50mm F1.8は、製造から60年以上が経過しているレンズです。
外観がきれいでも、光学系や機械部分が正常とは限りません。
正確な型式を確認する
最初に、前玉周囲の刻印を確認します。
特に確認したいのは次の部分です。
- SerenarまたはCANONの表記
- 50mmまたは5cmの表記
- 開放F値
- 製造番号
- メーカー名の表記
- 最小絞り
- 鏡筒デザイン
50mm F1.8 I・II・IIIでは仕様や外観が異なります。単に「Canon Rangefinder 50mm F1.8」という商品名だけで判断しないようにしましょう。
レンズ内部のクモリ
古いキヤノン製50mmレンズでは、内部に白いクモリや薄い膜状の汚れが発生している場合があります。
軽いホコリだけなら撮影への影響は限定的ですが、強いクモリがあると、逆光時にコントラストが低下し、写真全体が白っぽくなることがあります。
前玉と後玉の両側から光を当てて確認しましょう。
カビとバルサム切れ
糸状や樹枝状の模様が見える場合は、カビが発生している可能性があります。
貼り合わせレンズの周辺に虹色や白い模様が見える場合は、接着部分が劣化するバルサム切れの可能性もあります。
表面清掃だけでは除去できないため、強い症状がある個体は分解整備が必要です。
絞り羽根の油
絞りリングを回し、羽根が滑らかに開閉するか確認します。
絞り羽根に油が付着していても、手動絞り式なので直ちに撮影不能になるとは限りません。しかし、油が多いと羽根の動きが重くなったり、油がレンズ面へ広がったりする可能性があります。
絞り羽根へ直接触れたり、外側から潤滑油を差したりしないようにしましょう。
ピントリングの動き
最短撮影距離から無限遠までピントリングを回し、途中で引っかからないか確認します。
グリスが劣化した個体では、次の症状が見られます。
- ピントリングが極端に重い
- 部分的に引っかかる
- 回転が軽すぎる
- 鏡筒にがたつきがある
- 無限遠まで動かない
無理に回すと距離計連動部分やねじ機構を傷める可能性があります。
距離計との連動
レンジファインダーカメラへ装着し、近距離から無限遠までピントを動かします。
ファインダー内の二重像が滑らかに動き、レンズの距離表示と実際の合焦位置が一致するか確認しましょう。
レンズだけでなくカメラ側の距離計がずれている場合もあるため、可能であれば複数の距離で撮影確認を行うと安心です。
マウントねじの状態
後部のねじ山に変形、つぶれ、強い傷がないか確認します。
装着時に途中で引っかかる場合は、無理にねじ込んではいけません。レンズ側だけでなく、カメラやアダプター側のねじ山も破損する可能性があります。
Canon Rangefinder 50mm F1.8はどんな人に向いている?
Canon Rangefinder 50mm F1.8は、次のような人に向いています。
- キヤノンのレンジファインダーカメラを使いたい人
- 金属製オールドレンズの操作感が好きな人
- 50mmの標準画角でスナップを撮影したい人
- 開放F1.8の描写を試したい人
- マニュアルフォーカスを楽しめる人
- キヤノンSレンズを収集している人
- ミラーレスカメラでオールドレンズを使いたい人
一方、オートフォーカスや電子制御を利用したい人、被写体へ大きく近づいて撮影したい人には向きません。
最短撮影距離は1mであり、現代の50mmレンズより近距離撮影の自由度は低くなります。
まとめ
Canon Rangefinder 50mm F1.8は、キヤノンのスクリューマウント式レンジファインダーカメラに対応する標準レンズです。
掲載個体は、黒と銀を組み合わせた鏡筒デザインから、1956年発売のCANON 50mm F1.8 IIとみられます。
50mm F1.8の系譜は、1951年発売のSerenar 50mm F1.8 Iから始まり、CANONブランドのII・IIIへ発展しました。いずれも4群6枚のガウスタイプを基本とし、開放F1.8の明るさとコンパクトな金属製鏡筒を備えています。
中古で購入するときは、正確な型式、カビ、クモリ、バルサム切れ、絞り羽根、ピントリング、距離計連動、マウントねじの状態を確認しましょう。
状態のよい個体なら、レンジファインダーカメラによるフィルム撮影だけでなく、ミラーレスカメラでも1950年代のキヤノンレンズらしい描写と操作感を楽しめます。









