





Canon EX Autoは、35mmフィルムを使用するマニュアルフォーカス一眼レフカメラです。
シャッター速度優先式の自動露出を搭載しながら、一般的な一眼レフとは異なり、レンズ全体ではなく「前玉ユニット」を交換する独特の仕組みを採用しています。
レンズの選択肢は限られますが、露出操作を簡略化し、一眼レフ初心者でも扱いやすいカメラを目指して設計された個性的なモデルです。
Canon EX Autoとは
Canon EX Autoは、1972年2月に発売された35mm判一眼レフカメラです。
1969年に登場した「Canon EX EE」を改良したモデルで、開放TTL測光、シャッター速度優先AE、交換レンズ装着時の開放F値自動補正などを採用しました。EX 50mm F1.8付きの発売時価格は3万9,000円です。
一眼レフ初心者を意識したモデル
Canon EX Autoは、絞りとシャッター速度をすべて手動で設定する一眼レフよりも、簡単に露出を決められるように設計されています。
撮影者がシャッター速度を選び、レンズ側の設定を「EE」に合わせると、カメラが撮影時の明るさに応じて適切な絞り値を決定します。キヤノンは、従来の一眼レフを難しいと感じていた初心者から人気を得たモデルと説明しています。
ただし、ピント合わせは手動です。現在のカメラのようなオートフォーカス機能はありません。
シャッター速度優先式の自動露出を搭載
Canon EX Autoの大きな特徴が、「EE」と呼ばれるシャッター速度優先式の自動露出です。
撮影者が被写体の動きや明るさに応じてシャッター速度を設定すると、カメラが適切な絞り値を選択します。
EE撮影の基本手順
自動露出を利用する場合の基本的な流れは次のとおりです。
- 使用するフィルムのASA感度を設定する
- フィルムを巻き上げる
- 絞りの切り替えリングを「EE」に合わせる
- シャッター速度を選ぶ
- ファインダーを見ながらピントを合わせる
- 露出指針が適正範囲にあることを確認する
- シャッターを切る
「EE」に設定してシャッターボタンを押すと、絞りが適切な位置まで自動的に閉じて撮影されます。
露出オーバーと露出不足を確認できる
ファインダー内には、カメラが選択する絞り値を示す指針と、露出オーバー・露出不足の警告表示があります。
明るすぎる場合は、シャッター速度を速くするか、NDフィルターを使用します。暗すぎる場合は、シャッター速度を遅くするか、照明やフラッシュを使用します。
カメラが絞り値を自動設定しても、利用可能な絞りの範囲を超えた場合は適正露出になりません。撮影前にファインダー内の表示を確認することが重要です。
マニュアル露出でも撮影できる
Canon EX Autoは、自動露出だけでなくマニュアル露出にも対応しています。
絞り切り替えリングを「EE」から解除すると、撮影者が任意の絞り値を設定できます。シャッター速度も手動で選べるため、逆光時に意図的に明るく写したい場合や、露出を変えて表現したい場合に利用できます。
露出計が故障している個体でも、シャッターや絞りが正常であれば、外部露出計を使ったマニュアル撮影が可能です。
レンズの前群だけを交換する独自構造
Canon EX Autoは、一般的なキヤノンFL・FDマウントのカメラではありません。
カメラ本体にレンズの後群と絞り機構が組み込まれており、撮影する焦点距離に応じて前方のレンズユニットだけを交換します。
レンズ全体を取り外す方式ではない
通常の一眼レフでは、レンズを交換すると、フォーカス機構、絞り、前玉から後玉までの光学系が一体となって取り外されます。
一方、Canon EX Autoでは、後方のレンズ群や絞り機構の一部がボディー側に残ります。交換するのは専用のねじ込み式前玉ユニットです。
この仕組みにより、交換レンズ側の構造を簡略化し、システム全体の価格を抑えることが可能になりました。カメラ本体には3枚2群の後群レンズが組み込まれています。
使用できるEXレンズ
Canon EX Auto用には、次の専用レンズが用意されました。
- EX 35mm F3.5:広角レンズ
- EX 50mm F1.8:標準レンズ
- EX 95mm F3.5:望遠レンズ
- EX 125mm F3.5:望遠レンズ
EX 125mm F3.5は、EX EEからEX Autoへ改良された際に追加されたレンズです。
FL・FD・EFレンズは使用できない
Canon EX Autoのマウントは、EXシリーズ専用です。
キヤノンのFL、FD、New FD、EF、EF-S、EF-M、RFレンズなどは装着できません。マウントの形状だけでなく、ボディー内蔵の後群レンズを含めて光学系を構成するため、一般的な交換レンズとの互換性はありません。
中古で購入するときは、ボディーだけでなく、使用可能なEXレンズが付属しているかを必ず確認しましょう。
開放TTL測光を採用
Canon EX Autoでは、レンズを開放した明るい状態のまま測光できる「開放TTL測光」が採用されています。
TTLは「Through The Lens」の略で、撮影レンズを通過した光をカメラ内部の受光素子で測定する方式です。
ファインダーを明るく保ったまま測光できる
前モデルのEX EEでは、露出測定時にレンズを絞り込む方式が使われていました。
EX Autoでは開放状態のまま測光できるため、ファインダー像を暗くせずにピント合わせと露出確認ができます。測光にはCdS受光素子を使用し、画面中央を重視した中央部重点平均測光を行います。
レンズの開放F値を自動補正
EX 50mm F1.8からF3.5の広角・望遠レンズへ交換すると、利用できる最大絞りが変わります。
EX Autoでは、専用レンズを装着したときに開放F値の違いが自動的に補正されます。前モデルのEX EEでは手動補正が必要だったため、この自動化はEX Autoの主要な改良点です。
Canon EX Autoの基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年月 | 1972年2月 |
| カメラ形式 | 35mm判一眼レフカメラ |
| 使用フィルム | 35mm・135フィルム |
| 画面サイズ | 24×36mm |
| レンズ方式 | 前群交換式 |
| レンズマウント | EX専用ねじ込み式マウント |
| 標準レンズ | Canon EX 50mm F1.8 |
| ピント合わせ | マニュアルフォーカス |
| 測光方式 | CdS素子による開放TTL測光 |
| 測光特性 | 中央部重点平均測光 |
| 露出方式 | シャッター速度優先AE・マニュアル |
| シャッター | 横走り布幕フォーカルプレーン |
| シャッター速度 | B、1/8~1/500秒 |
| フラッシュ同調 | X接点・1/60秒 |
| フィルム感度 | ASA25~800 |
| ファインダー倍率 | 0.9倍・50mmレンズ使用時 |
| フィルム巻き上げ | レバー式・分割巻き上げ可能 |
| セルフタイマー | あり |
| 露出計用電池 | 1.3V水銀電池1個 |
| サイズ | 約143×92×84mm |
| 重量 | 約900g・50mmレンズ装着時 |
機械式フォーカルプレーンシャッターを搭載
Canon EX Autoのシャッターは、横走り式の布幕フォーカルプレーンシャッターです。
シャッター速度はBと1/8秒から1/500秒まで設定できます。
最高シャッター速度は1/500秒
選択できるシャッター速度は次のとおりです。
- B
- 1/8秒
- 1/15秒
- 1/30秒
- 1/60秒
- 1/125秒
- 1/250秒
- 1/500秒
ダイヤルは、数字が指標位置で確実に止まる場所へ合わせて使用します。Bでは、シャッターボタンを押している間、シャッターが開いたままになります。
電池がなくてもマニュアル撮影は可能
電池は、主に露出計とEE機構を作動させるために使用します。
そのため、電池が切れている場合でも、機械式シャッターとマニュアル絞りが正常なら、外部露出計を使って撮影できます。
ただし、Canon EX Autoの特徴であるシャッター速度優先AEは利用できません。購入時には、シャッターが切れるだけでなく、電池を入れた状態でEE機構が作動するかも確認しましょう。
明るい一眼レフファインダー
Canon EX Autoには、固定式のペンタプリズムファインダーが搭載されています。
ファインダー倍率は、EX 50mm F1.8装着時で0.9倍。中央にはマイクロプリズム式のピント合わせ部分があります。
マイクロプリズムでピントを合わせる
ファインダー中央の円形部分を見ると、ピントが外れている被写体は像がちらついたり、細かく崩れて見えたりします。
フォーカスリングを回し、像が明瞭で安定して見える位置へ合わせればピントが合います。
スプリットイメージ式のように二つの像を重ねる方式ではないため、細い線や輪郭がはっきりした部分を利用すると合わせやすいでしょう。
QL機構でフィルムを装填しやすい
Canon EX Autoには、フィルム装填を簡略化するQL機構が搭載されています。
QLは「Quick Loading」の略で、フィルムの先端を指定位置まで引き出し、専用のカバーで押さえて裏蓋を閉じる仕組みです。
フィルム装填の基本手順
- 巻き戻しクランクを引き上げて裏蓋を開ける
- フィルムカートリッジをフィルム室へ入れる
- フィルム先端を赤いセットマークまで引き出す
- パーフォレーションとスプロケットの位置を確認する
- 裏蓋を閉じる
- 空シャッターと巻き上げを繰り返す
- フィルムカウンターを撮影開始位置へ進める
フィルムが正常に送られていれば、巻き上げレバーを操作したときに巻き戻しクランクも回転します。
現在の自動装填式カメラほど簡単ではありませんが、フィルム先端を巻き取りスプールの細い溝へ差し込む一般的な方式より扱いやすい構造です。
専用フラッシュによる自動調光に対応
Canon EX Autoは、専用の「Canolite D」を使用した自動フラッシュ撮影に対応しています。
EX 50mm F1.8を装着し、Canolite Dをアクセサリーシューへ取り付けると、レンズの距離設定とフラッシュが連動します。
CATシステムを搭載
この仕組みは、CATシステムと呼ばれます。
ピントを合わせた撮影距離の情報に応じて、カメラが適切な絞り値を設定します。キヤノンは、夜間でも昼間と同じような感覚で撮影できる機能として紹介しています。
ただし、完全なTTLフラッシュ調光ではありません。撮影距離、フィルム感度、フラッシュの光量を機械的・電気的に連動させる当時の自動調光システムです。
専用フラッシュや接点が正常に動作する個体は少ないため、中古では通常の撮影機能とは分けて確認しましょう。
Canon EX EEとの違い
Canon EX Autoは、EX EEの基本構造を引き継ぎながら、初心者がさらに扱いやすいように改良されています。
開放測光になった
EX EEは、設定した絞りまでレンズを閉じて測光する絞り込み測光でした。
EX Autoでは開放TTL測光へ変更され、明るいファインダーを保ったまま測光できるようになりました。
開放F値の補正が自動化された
EX EEでは、F1.8とF3.5のレンズを交換した際、開放F値の違いを撮影者が手動で補正する必要がありました。
EX Autoでは、専用レンズを取り付けるとカメラが開放F値を自動補正します。
ホットシューとCATシステムを採用
EX Autoではホットシューが追加され、専用Canolite Dと組み合わせたCATシステムを利用できるようになりました。
また、交換レンズにEX 125mm F3.5が加わり、望遠撮影の選択肢も広がっています。
中古のCanon EX Autoを購入するときの注意点
Canon EX Autoは発売から50年以上が経過しています。
外観がきれいでも、露出計、EE機構、シャッター、絞りが正常とは限りません。
専用EXレンズの有無
最初に確認したいのが、使用可能なEXレンズが付属しているかどうかです。
Canon EX Autoは、通常のFL・FDレンズを使用できません。ボディーだけを購入しても、専用の前玉ユニットがなければ撮影できません。
標準レンズ付きの場合も、前玉ユニットが確実にねじ込まれ、緩みや変形がないか確認しましょう。
ボディー側の後群レンズ
Canon EX Autoでは、レンズの一部がカメラ本体に固定されています。
一般的な一眼レフならレンズを交換することで光学系全体を取り替えられますが、EX Autoではボディー側の後群レンズが汚れていると、どの交換レンズを使用しても撮影画像へ影響します。
確認したい症状は次のとおりです。
- カビ
- クモリ
- 強い傷
- バルサム切れ
- コーティングの劣化
- 内部への油の付着
専用前玉だけでなく、ボディー側に残るレンズも必ず確認しましょう。
露出計とEE機構
1.3Vの代替電池を入れ、明るい場所と暗い場所へカメラを向けます。
ファインダー内の指針が変化するか、シャッター速度を変更すると指針の位置も変わるかを確認します。
さらに、レンズを「EE」に設定してシャッターを切り、明るさに応じて絞り羽根の閉じ方が変化するかを確認しましょう。
指針が動いていても測光値が正確とは限らないため、外部露出計や正常なデジタルカメラと比較すると判断しやすくなります。
使用電池の電圧
取扱説明書では、1.3VのM20、PX625などの水銀電池が指定されています。これらは現在では一般的に販売されていません。
形状が似た1.5V電池をそのまま使用すると、露出計の表示がずれる可能性があります。
電圧を調整するアダプターや、1.3Vに近い代替電池を利用する方法がありますが、個体ごとの調整状態も確認する必要があります。
電池室の腐食
古い水銀電池が長期間入ったままだった個体では、液漏れによって電池室や内部配線が腐食していることがあります。
次の状態がないか確認しましょう。
- 白色や緑色の付着物
- 接点の錆
- 電池蓋の固着
- 電池蓋のねじ山の破損
- 不自然な配線や改造
電池室がきれいでも、内部の配線だけが腐食している場合があります。
シャッター幕とシャッター速度
裏蓋を開け、布幕に穴、しわ、たるみ、油汚れがないか確認します。
1/8秒から1/500秒まで速度を変更し、設定に応じて作動時間が変わるかもチェックしましょう。
低速シャッターが粘る、幕が途中で止まる、ミラーが上がったまま戻らない個体は、整備が必要です。
絞り羽根の動作
マニュアル絞りに切り替え、設定を変えながらシャッターを切ります。
絞り羽根が指定位置まで素早く閉じ、撮影後に開放状態へ戻るか確認しましょう。
絞り羽根に油が付いている、動きが遅い、途中で止まる場合は、自動露出にも影響します。
QL機構とフィルム送り
裏蓋を開け、QLカバーの変形や破損がないか確認します。
巻き上げレバーを操作し、スプロケットと巻き取り部分が動くか、フィルムカウンターが進むかも重要です。
QLカバーはフィルムを所定の位置へ保持する部品なので、無理に開いたり押したりしないようにしましょう。
ファインダーの状態
ファインダー内のカビ、クモリ、プリズム腐食、黒い線を確認します。
中央のマイクロプリズムが見えにくい個体では、マニュアルフォーカスによるピント合わせが難しくなります。
露出指針や警告表示が確認できることも重要です。
Canon EX Autoはどんな人に向いている?
Canon EX Autoは、次のような人に向いています。
- 珍しい国産一眼レフに興味がある人
- シャッター速度優先AEを使ってみたい人
- 前玉交換式という独特な構造を楽しみたい人
- 1970年代のキヤノンカメラを収集している人
- 一般的なFDマウント機とは違うモデルを探している人
- 金属製カメラの重量感が好きな人
- カメラの機械構造や設計思想を楽しみたい人
一方、豊富な交換レンズから自由に選びたい人には向きません。
使用できるレンズは専用EXシリーズに限られ、ボディー側の後群レンズやEE機構に不具合があると、修理できる店舗も限定されます。
まとめ
Canon EX Autoは、シャッター速度優先AEと開放TTL測光を搭載した、1972年発売の35mm一眼レフカメラです。
一般的な交換レンズ方式ではなく、ボディー側に後群レンズを残し、35mm、50mm、95mm、125mmの前玉ユニットを交換する独特な構造を採用しています。
前モデルのEX EEから、開放測光、開放F値の自動補正、ホットシュー、CATシステムなどが追加され、一眼レフ初心者でも扱いやすいモデルへ改良されました。
中古で購入するときは、専用EXレンズ、ボディー内の後群レンズ、露出計、EE機構、電池室、シャッター幕、絞り、QL機構の状態を確認することが重要です。
レンズの選択肢や修理性には制約がありますが、通常のキヤノン一眼レフとは異なる設計を楽しめる、個性の強いフィルムカメラです。









