





ニコンFは、35mmフィルムを使用するレンズ交換式一眼レフカメラです。
交換式ファインダー、交換式フォーカシングスクリーン、機械式シャッター、ミラーアップ、モータードライブへの対応など、撮影目的に応じて構成を変えられる本格的なシステムカメラとして設計されました。
露出計を内蔵しないアイレベルファインダー仕様から、露出計付きのフォトミック仕様まで複数の形態が存在します。中古品を選ぶ際は、ボディーだけでなく、装着されているファインダーの種類も確認することが重要です。
ニコンFとは
ニコンFは、1959年に発売されたニコン初のレンズ交換式一眼レフカメラです。
当時の日本光学工業が、それまで製造していたレンジファインダーカメラ「ニコンSP」の技術を生かしながら、ミラーボックス、ペンタプリズム、バヨネットマウントなどを新たに開発しました。1973年まで約15年間にわたって生産され、ニコンとNIKKORのブランドを世界へ広めたモデルです。
「F」はReflexに由来する
ニコン公式資料によると、「F」という名称は一眼レフを意味する「Reflex」から取られています。
当時は製品名にReflexの「R」を使う例もありましたが、英語圏以外では発音が異なりやすいことから、比較的発音の変わりにくい「F」が選ばれました。
プロの使用を意識した耐久性
ニコンFは、報道、スポーツ、学術、産業など、厳しい条件での使用も想定して設計されました。
耐久試験、低温試験、振動試験などが行われ、モータードライブを使用したシャッター作動試験では10万回の耐久性が検証されています。ニコンが交換レンズの豊富さ、耐久性、操作性、周辺アクセサリーを成功の理由として挙げていることからも、単体のカメラではなく、業務用システム全体として重視されていたことが分かります。
ニコンFは構成を変えられるシステムカメラ
ニコンFの大きな特徴は、ファインダーやフォーカシングスクリーンを撮影目的に応じて交換できることです。
現在の一般的な一眼レフではファインダーがボディーに固定されていますが、ニコンFでは上部のファインダーユニットを取り外せます。
アイレベルファインダー
アイレベルファインダーは、露出計を内蔵しない標準的なペンタプリズムファインダーです。
余分な測光機構がないため、ニコンF本来の直線的で端正なデザインを楽しめます。露出を決める際は、単体露出計やスマートフォンの露出計アプリなどを使用します。
機械式カメラとしてシンプルに使いたい人や、露出計の故障を気にせず長く使いたい人に向いた構成です。
ウエストレベルファインダー
ウエストレベルファインダーは、カメラを胸や腰の高さに構え、上からフォーカシングスクリーンを見て撮影するためのファインダーです。
ローアングル撮影、接写、複写などに利用できます。一般的なアイレベルファインダーとは像の見え方や操作感が異なるため、使用前に構図の決め方を確認しておきましょう。
フォトミックファインダー
フォトミックファインダーは、露出計を組み込んだ交換式ファインダーです。
最初のニコンFフォトミックは1962年に登場し、ファインダー前面に入る光を測る外光式露出計を搭載していました。その後、撮影レンズを通った光を測るフォトミックT、中央部を重視して測光するフォトミックTN、操作性を改良したフォトミックFTNへ発展しました。
同じ「ニコンFフォトミック」として販売されていても、装着されているファインダーによって測光方法や使用電池、操作方法が異なります。
フォーカシングスクリーンも交換できる
ニコンFはファインダーだけでなく、ピント合わせに使うフォーカシングスクリーンも交換できます。
標準的なスプリットイメージ式やマット式のほか、接写、望遠撮影、複写などに適したスクリーンが用意されました。ニコンFのシステム性を象徴する機能の一つです。
視野率100%のファインダー
ニコンFのファインダー視野率は100%です。
ファインダー内で確認した範囲と、実際にフィルムへ写る範囲がほぼ一致するため、画面の端まで正確に構図を決められます。ニコンは、視野率100%と大口径バヨネットマウントを備えた一眼レフとして、ニコンFを世界初の製品と位置づけています。
一般的なアマチュア向け一眼レフでは、ファインダーに見えていない範囲までフィルムへ写る場合があります。報道、複写、建築写真など、画面の端まで厳密に構図を決めたい撮影では、視野率100%が大きな利点になります。
ニコンFマウントを採用
ニコンFには、専用に開発されたバヨネット式のニコンFマウントが採用されています。
マウントの内径は44mmとされ、明るいレンズや望遠レンズへの発展を考慮して設計されました。重い望遠レンズを支えられるよう、マウントには耐久性と耐食性に優れたステンレス鋼が使用されています。
発売当初から複数のNIKKORレンズを用意
ニコンFの発売時には、35mm、50mm、105mm、135mmなどのNIKKORレンズが用意されました。
その後も超広角、望遠、ズーム、マイクロ、魚眼、医療用など、幅広いレンズが追加されています。ニコンFは、交換レンズの選択肢を含めて一つのシステムとして拡張されました。
新しいFマウントレンズとの組み合わせに注意
ニコンFには、絞りリングを備えた初期の非Ai NIKKORレンズが適しています。
後年のAi・Ai-Sレンズもボディーへ装着できる場合がありますが、フォトミックファインダーとの絞り連動方式は異なります。露出計を使用する場合は、ファインダーとレンズの組み合わせを確認しましょう。
絞りリングを持たないGタイプレンズや、電磁絞りを採用したEタイプレンズでは、ニコンFから絞りを正常に制御できません。単にマウント形状が同じという理由だけでレンズを選ばないことが重要です。
チタン製フォーカルプレーンシャッターを搭載
ニコンFには、横走り式のフォーカルプレーンシャッターが搭載されています。
初期には布幕を使用した個体もありましたが、量産過程で厚さ0.02mmのチタン箔を用いたシャッター幕が実用化されました。軽量化と強度向上に加え、レンズを通った太陽光によるシャッター幕の焼損を防ぐことも目的とされています。
電池を使わない機械式シャッター
シャッターは機械式で、露出計を使用しなければ電池を必要としません。
シャッター速度は1秒から1/1000秒までと、B、Tを備えています。Bではシャッターボタンを押している間、Tでは再度操作するまでシャッターを開いた状態にできます。
電池が入手できない場合や、フォトミックファインダーの露出計が故障している場合でも、外部露出計を使えば撮影できます。
フラッシュ同調は1/60秒
電子フラッシュを使用する場合の同調速度は、基本的に1/60秒です。
ニコンFには撮影に使用するフラッシュバルブや電子フラッシュに応じて、同調タイミングを調整する機構が備わっています。現在の電子フラッシュを使用する場合は、接点の設定とシャッター速度を確認しましょう。
クイックリターンミラーとミラーアップ
シャッターを切るとミラーが上昇し、撮影後には元の位置へ自動的に戻ります。
ニコンFでは、一本のスプリングを利用してミラーを上下させる独自のクイックリターン機構が採用されました。撮影後すぐにファインダー像が復帰するため、次の撮影へ移りやすくなっています。
ミラーを上げた状態で固定できる
ボディー前面の操作部を使い、ミラーを上げた状態で固定することもできます。
ミラーアップは、一部の初期型超広角レンズを使用する場合や、撮影時のミラー振動を抑えたい場合に利用します。
ただし、ミラーアップ中は一眼レフファインダーで構図やピントを確認できません。撮影前に構図とピントを決めてから操作する必要があります。
被写界深度を確認できる
絞り込みボタンを押すと、レンズが設定した絞り値まで閉じます。
ファインダー像は暗くなりますが、被写体の前後がどこまでピントの合った範囲に入るかを撮影前に確認できます。
ニコンFの基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年 | 1959年 |
| カメラ形式 | 35mm判一眼レフカメラ |
| 使用フィルム | 35mm・135フィルム |
| 画面サイズ | 24×36mm |
| レンズマウント | ニコンFマウント |
| ピント合わせ | マニュアルフォーカス |
| 露出設定 | マニュアル |
| 露出計 | 装着するファインダーによって異なる |
| ファインダー | 交換式 |
| フォーカシングスクリーン | 交換式 |
| ファインダー視野率 | 100% |
| シャッター | 横走りフォーカルプレーンシャッター |
| シャッター幕 | チタン箔・一部初期個体を除く |
| シャッター速度 | T、B、1秒~1/1000秒 |
| フラッシュ同調 | 電子フラッシュ使用時1/60秒 |
| ミラー | クイックリターン式・ミラーアップ可能 |
| フィルム巻き上げ | レバー式 |
| セルフタイマー | あり |
| ボディー重量 | 約685g |
| サイズ | 約147×98×89mm・50mm F2装着時 |
サイズと重量は、ニコンが発売当時に公表した仕様に基づきます。装着するファインダーやレンズによって、実際の大きさと重量は変わります。
モータードライブにも対応
ニコンFは、専用モータードライブを使った自動巻き上げに対応しています。
36枚撮りフィルム用のF-36を装着すると、最大約3.6コマ/秒で連続撮影できます。250枚撮影用のF-250も用意され、報道、スポーツ、科学記録などに使用されました。
現在のデジタルカメラの連写速度と比べると控えめですが、撮影するたびに手動でフィルムを巻き上げる時代において、実用的なモータードライブは画期的な装備でした。
フィルムの装填方法
ニコンFは、背面の裏蓋を完全に取り外してフィルムを装填します。
後継機のニコンF2などに見られる開閉式の裏蓋ではありません。底部のロックを解除して裏蓋を取り外し、フィルムカートリッジを入れます。
フィルム先端を巻き取りスプールへ確実に固定し、パーフォレーションがスプロケットの歯へかみ合っていることを確認してから裏蓋を取り付けます。
装填後に空シャッターと巻き上げを繰り返し、巻き戻しクランクが回転していれば、フィルムが正常に送られている可能性が高いと判断できます。
中古のニコンFを購入するときの注意点
ニコンFは耐久性を重視して設計されたカメラですが、発売から半世紀以上が経過しています。
外観がきれいでも、シャッター、ミラー、巻き上げ、ファインダーが正常とは限りません。
ファインダーの種類を確認する
ニコンFでは、装着されているファインダーによって使い方と価値が大きく変わります。
確認したい主な種類は次のとおりです。
- アイレベルファインダー
- ウエストレベルファインダー
- 初代フォトミック
- フォトミックT
- フォトミックTN
- フォトミックFTN
「ニコンF」または「ニコンFフォトミック」という商品名だけで判断せず、ファインダーの銘板、形状、操作部を確認しましょう。
シャッター幕の状態
裏蓋を外し、シャッター幕に次の症状がないか確認します。
- 穴や傷
- 変形やしわ
- 幕のたるみ
- 油汚れ
- 走行部分の引っかかり
チタン幕は布幕より太陽光による焼損に強いものの、物理的に押されたり、修理時に傷つけられたりしている場合があります。
シャッター幕は薄いため、指で触れないようにしましょう。
低速・高速シャッター
1秒から1/1000秒まで速度を変更し、作動時間が変化しているか確認します。
古い機械式カメラでは、低速シャッターが粘る、ミラーが上がったまま戻らない、シャッター幕が途中で止まるといった症状が起こります。
高速側は音だけで正確性を判断しにくいため、実際にフィルムを通して撮影確認された個体のほうが安心です。
ファインダーとプリズム
ファインダーをのぞき、カビ、クモリ、汚れ、プリズムの腐食がないか確認します。
フォーカシングスクリーンに強い傷があると、ピント合わせが難しくなります。スクリーンは交換できますが、取り外す際に表面を傷つけないよう注意が必要です。
ファインダーとスクリーンがボディーへ確実に固定されていることも確認しましょう。
ミラーと自動絞り
シャッターを切った後、ミラーが元の位置へ戻るか確認します。
対応するNIKKORレンズを装着し、撮影時に絞り羽根が設定値まで閉じ、撮影後に開放へ戻ることも重要です。
絞り込みボタンやミラーアップ機構が極端に重い場合は、無理に操作しないほうが安全です。
フィルム巻き上げと裏蓋
巻き上げレバーが滑らかに動き、フィルムカウンターが正常に進むか確認します。
裏蓋のロック部分が変形していると、光線漏れや装着不良の原因になります。モータードライブ用の裏蓋が付いている個体では、通常使用に必要な部品が揃っているかも確認しましょう。
フォトミック露出計
フォトミック仕様では、電池を入れて露出計が作動するか確認します。
明るい場所と暗い場所へカメラを向け、指針が変化するか、絞りとシャッター速度に連動するかを見ます。
指針が動いても測光値が正確とは限りません。使用電池の電圧やファインダーの調整状態によって誤差が生じるため、正常な露出計と比較しましょう。
ニコンFはどんな人に向いている?
ニコンFは、次のような人に向いています。
- ニコン一眼レフの歴史に興味がある人
- 電池に頼らない機械式カメラを使いたい人
- マニュアル露出と手動ピントを楽しみたい人
- 交換式ファインダーやスクリーンに魅力を感じる人
- 初期のNIKKORレンズをフィルムで使いたい人
- 金属製カメラの重厚な操作感が好きな人
- カメラを撮影機材としてだけでなく収集対象として楽しみたい人
一方、露出計付きの軽量なフィルム一眼レフや、簡単にフィルムを装填できるカメラを求める人には扱いにくい可能性があります。
アイレベル仕様では露出計がなく、裏蓋も取り外し式です。初めてフィルムカメラを使う場合は、撮影前に操作方法を確認しておきましょう。
まとめ
ニコンFは、1959年に登場したニコン初のレンズ交換式一眼レフカメラです。
視野率100%のファインダー、交換式ファインダーとフォーカシングスクリーン、ニコンFマウント、チタン製シャッター幕、ミラーアップ、モータードライブ対応など、本格的なシステムカメラとしての機能を備えています。
アイレベル、ウエストレベル、フォトミックなど、装着するファインダーによって外観や機能が変わることもニコンFの魅力です。
中古で購入するときは、ファインダーの種類、シャッター幕、低速・高速シャッター、ミラー、巻き上げ、裏蓋、フォーカシングスクリーンを確認しましょう。フォトミック仕様では、露出計と使用電池の確認も必要です。
正常に整備された個体なら、ニコンFシリーズの原点となった重厚な操作感と、豊富なNIKKORレンズを使う楽しさを味わえるでしょう。









