Nikon Nikomat FT(ニコマートFT)は、35mmフィルムを使用するマニュアルフォーカス一眼レフカメラです。
1965年にNikon Fを支える普及型モデルとして登場し、Nikon Fマウント、TTL露出計、最高1/1000秒の機械式シャッター、ミラーアップ機構などを搭載しました。普及型とはいえ、ボディー重量は約745g。金属製カメラらしい頑丈さと重厚な操作感を備えています。(Nikon)
国内では「Nikomat」、海外では主に「Nikkormat」の名称で販売されました。中古市場では後継のFTNと混同されることが多いため、露出計の測光方式やレンズ交換時の操作を確認することが重要です。
Nikon Nikomat FTとは
Nikomat FTは、1965年7月に日本光学工業から発売された35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフです。
NIKKOREX Fに代わるNikon Fの姉妹モデルとして開発され、50mm F1.4付きの発売時価格は5万4,500円でした。上位のNikon Fと同じ交換レンズを使用できる一方、ファインダーを固定式とし、生産性を考慮した独自の内部構造を採用しています。(Nikon)
Nikon Fの廉価版だけではない
Nikomat FTは、単にNikon Fから機能を省いたカメラではありません。
ボディー内部や巻き上げ機構、シャッターなどは別の設計です。ミラーボックスと前板を一体化したダイキャスト構造を採用することで、部品点数や製造工程を抑えながら、実用上の強度と精度を確保しました。(Nikon)
Nikon Fマウントを採用
レンズマウントには、Nikon Fと共通のFマウントを採用しています。
発売当時の標準レンズは、次の2本でした。
- Nikkor Auto 50mm F1.4
- Nikkor Auto 50mm F2
広角、望遠、マイクロ、ズームなど、当時の豊富なNIKKORレンズを使用できます。(Orphancameras)
カニ爪による露出計連動
開放測光では、レンズの絞りリングに付いた露出計連動爪、通称「カニ爪」をボディー側の連動ピンへかみ合わせます。
Nikomat FTでは、レンズを交換するたびに、そのレンズの開放F値をカメラ側の目盛りへ手動設定する必要があります。後継のFTNに採用された、絞りリングを往復させるだけの「ガチャガチャ」操作には対応していません。(Nikon)
カニ爪のないレンズや、接写リングによって連動が切れる場合には、絞り込み測光を利用できます。(Orphancameras)
ニコン初のボディー内蔵TTL露出計
Nikomat FTの重要な特徴が、カメラ本体へ組み込まれたTTL露出計です。
撮影レンズを通った光をCdS受光素子で測定するため、レンズ交換やフィルター装着後の光量も反映されます。開放測光と絞り込み測光の両方に対応し、画面全体の明るさを平均的に測る方式が採用されました。(Nikon)
ファインダーと上面の両方に露出計表示
露出計の指針は、ファインダー内とボディー上面の小窓から確認できます。
撮影時は、シャッター速度またはレンズの絞りを変更し、指針が中央へ来るように調整します。露出を自動設定するAEではなく、測光結果を見ながら撮影者が設定を合わせる追針式です。(Orphancameras)
巻き上げレバーが露出計スイッチを兼ねる
巻き上げレバーをボディーから少し引き出すと露出計が作動し、収納すると電源が切れます。
専用の電源スイッチを設けず、撮影準備と露出計の電源を連動させた構造です。ニコンによれば、Nikomat FTはこの方式を採用した最初のカメラでした。(Nikon)
露出計には水銀電池が必要
露出計の電源には、当時の1.3V水銀電池を使用します。
現在、指定された水銀電池は一般販売されていません。代替電池を使う場合は、サイズだけでなく電圧の違いにも注意が必要です。電圧調整機能付きアダプターを使うか、修理店で測光回路の調整を依頼する方法があります。
1.5V電池をそのまま入れると、指針が動いても測光値がずれる可能性があります。単体露出計やデジタルカメラと比較して精度を確認しましょう。
なお、電池を使うのは露出計だけです。シャッターは機械式なので、露出を別の方法で決めれば電池なしでも撮影できます。(Orphancameras)
最高1/1000秒の機械式シャッター
Nikomat FTには、金属羽根を使用した縦走りフォーカルプレーンシャッターが搭載されています。
シャッター速度はBと1秒から1/1000秒まで。電子制御を使用しないため、すべての速度が電池なしで作動します。(Nikon)
シャッター速度リングはマウント周囲に配置
一般的な一眼レフではボディー上面にシャッターダイヤルがありますが、Nikomat FTではレンズマウントの周囲にシャッター速度リングがあります。
これは採用されたコパルスクエアSシャッターの構造と、露出計の連動機構によるものです。左手でレンズを支えながら、マウント横のレバーを動かして速度を変更します。(Nikon)
初めは独特に感じますが、ファインダーをのぞいたまま絞りとシャッター速度を左手で操作しやすい配置でもあります。
フラッシュ同調は1/125秒
電子フラッシュは、X接点を使用して1/125秒以下で同調します。
M接点とX接点はボディー側面へ別々に配置されています。アクセサリーシューはボディーに固定されておらず、フラッシュを載せる場合は接眼部へ専用シューを取り付けます。(Orphancameras)
固定式ペンタプリズムファインダー
ファインダーは固定式のアイレベルペンタプリズム方式です。
中央には直径約4mmのマイクロプリズムがあり、その周囲をマット面とフレネルレンズが囲みます。視野率は約92%で、実際の写真にはファインダーで見えた範囲より少し広く写ります。(Orphancameras)
Nikon Fのようにファインダーやフォーカシングスクリーンを自由に交換するシステムではありませんが、一般撮影に必要なピント確認機能は備えています。
ミラーアップと被写界深度確認
Nikomat FTには、クイックリターンミラーとミラーアップ機構が搭載されています。
ボディー前面の操作部を動かすとミラーを上げた状態で固定でき、接写、複写、顕微鏡撮影、振動を抑えたい撮影などに利用できます。また、後部が大きく張り出す一部の初期超広角レンズでは、装着前にミラーアップが必要です。(Nikon)
被写界深度確認ボタンを押すと、レンズが設定した絞りまで閉じます。ファインダー像は暗くなりますが、撮影時にピントが合って見える範囲を確認できます。(Orphancameras)
Nikomat FTの基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年月 | 1965年7月 |
| 海外名称 | Nikkormat FT |
| カメラ形式 | 35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフ |
| 画面サイズ | 24×36mm |
| レンズマウント | Nikon Fマウント |
| 標準レンズ | Nikkor Auto 50mm F1.4/F2 |
| ピント合わせ | マニュアルフォーカス |
| 露出方式 | マニュアル |
| 測光方式 | CdS式TTL平均測光 |
| 測光方法 | 開放測光・絞り込み測光 |
| フィルム感度 | ASA12~1600 |
| 露出表示 | 指針式・ファインダー内/上面 |
| シャッター | 機械式金属羽根縦走り |
| シャッター速度 | B、1秒~1/1000秒 |
| フラッシュ同調 | X接点・1/125秒以下 |
| ファインダー | 固定式ペンタプリズム |
| ファインダー視野率 | 約92% |
| スクリーン | 中央マイクロプリズム式 |
| ミラーアップ | 対応 |
| 被写界深度確認 | 対応 |
| セルフタイマー | 約8秒 |
| フィルム巻き上げ | レバー式・約155度 |
| 露出計電源 | 1.3V水銀電池 |
| ボディー重量 | 約745g |
主な仕様はニコン公式資料および当時の取扱説明書に基づきます。(Nikon)
Nikomat FTNとの違い
Nikomat FTNは、1967年に登場したFTの改良型です。
| 項目 | Nikomat FT | Nikomat FTN |
|---|---|---|
| 測光方式 | 画面全体の平均測光 | 中央重点測光 |
| 開放F値の設定 | カメラ側で手動設定 | 絞りリング往復で半自動設定 |
| レンズ交換後の操作 | やや複雑 | 「ガチャガチャ」操作 |
| 発売年 | 1965年 | 1967年 |
FTNでは画面中央を重視する測光へ変更され、レンズ装着後に絞りリングを最小から最大まで動かすことで、開放F値をカメラへ伝えられるようになりました。(Nikon)
中古市場ではFTよりFTNの流通量が多く、商品名が単に「ニコマートFT」と省略されることもあります。正面の機種表示や露出計連動部を確認しましょう。
Nikomat FSとの違い
Nikomat FSは、FTと同時に発売された簡略モデルです。
FTに搭載されたTTL露出計とミラーアップ機構を省略し、50mm F2付きで3万7,800円に価格を抑えていました。シャッターや基本的なFマウントシステムは共通しています。(Nikon)
露出計を使いたい場合はFT、単体露出計を使用して構造の単純さを重視する場合はFSが候補になります。
中古のNikomat FTを購入するときの注意点
機械式シャッター
1秒から1/1000秒まで順番に作動させます。
低速側で途中停止しないこと、速度を変えると作動時間が変化することを確認しましょう。高速側は音だけでは精度を判断できないため、実写またはシャッターテスターによる確認が理想です。
シャッター速度リング
マウント周囲のリングが滑らかに動き、各速度へ確実に停止するか確認します。
動かない場合に工具や強い力を使うと、内部のシャッター連動機構を傷める可能性があります。
露出計と電池室
電池室の液漏れ、接点の腐食、蓋の固着を確認します。
対応する電源を入れ、巻き上げレバーを引き出したときに指針が動くこと、明暗や絞り、シャッター速度に応じて表示が変化することを確認しましょう。
開放F値設定機構
カニ爪付きレンズを装着し、絞りリングと連動ピンが正常に動くか確認します。
FTは開放F値を手動設定するため、この機構が固着していると開放測光の値が正しくなりません。
ミラーとファインダー
ミラーが上昇後に確実に戻ること、ミラーアップ機構が解除できることを確認します。
ファインダーのカビやクモリ、プリズムの腐食、マイクロプリズムの見え方も重要です。
Nikomat FTはどんな人に向いている?
Nikomat FTは、次のような人に向いています。
- 電池なしでも撮影できる一眼レフを探している人
- 非AI時代のNIKKORレンズを使いたい人
- TTL露出計付きの機械式カメラを楽しみたい人
- Nikon Fより手頃なクラシックニコンを選びたい人
- マウント周囲のシャッター操作を楽しめる人
- 初期ニコマートの歴史に興味がある人
一方、絞り優先AE、オートフォーカス、軽量なボディーを求める人には向きません。
レンズ交換時の開放F値設定もFT独自の作法です。簡単さを優先するならFTNやFT2、AIレンズとの連動を重視するならFT3のほうが扱いやすいでしょう。
まとめ
Nikon Nikomat FTは、1965年に発売されたニコマートシリーズ最初の35mm一眼レフです。
Nikon Fマウント、CdS式TTL平均測光、最高1/1000秒の機械式縦走りシャッター、ミラーアップ、被写界深度確認を搭載。露出計には電池が必要ですが、シャッターは電池なしでも全速作動します。
後継のFTNとは、測光方式と開放F値の設定方法が異なります。FTではレンズ交換時にカメラ側で開放F値を設定する必要があるため、中古購入時には露出計連動機構の確認が欠かせません。
正常に整備された個体なら、初期NIKKORレンズと組み合わせ、1960年代のニコンらしい堅牢な機械操作とTTL測光を楽しめる一台です。









