Nikon F3AFは、35mmフィルムを使用するプロ向けのオートフォーカス一眼レフカメラです。
1983年にNikon F3をベースとして登場し、TTL位相差検出方式のAFファインダー「DX-1」と、モーターを内蔵した専用AFニッコールレンズを組み合わせてオートフォーカスを実現しました。
後年のAF一眼レフとは異なり、測距機構をファインダーへ、駆動モーターをレンズへ搭載した独特のシステムです。対応AFレンズは基本的に2本だけですが、一般的なAIニッコールを装着し、フォーカスエイドや通常のマニュアルフォーカスで撮影することもできます。
Nikon F3AFとは
Nikon F3AFは、1983年4月に発売された35mmフォーカルプレーンシャッター式AF一眼レフカメラです。
ニコン公式資料では、Nikon F3のボディーを基本としながら、AFファインダーと専用レンズの信号・電源をやり取りする接点をボディーへ追加したモデルとして説明されています。ニコンが市販した最初のAF一眼レフです。(Nikon)
発売時価格は次のとおりでした。
- AFファインダーDX-1付きボディー:25万円
- AI AF Nikkor 80mm F2.8S付き:33万円
当時のフラッグシップであるF3をベースにした高級機であり、AFを試験的に追加した普及機ではなく、プロ用途も意識したシステムとして開発されています。(Nikon)
一般的なNikon F3とはボディーも異なる
外観と基本操作はNikon F3に近いものの、通常のF3へDX-1と専用AFレンズを取り付けるだけではAFカメラになりません。
F3AFでは、ファインダー、ボディー、レンズの間で信号と電源を伝える専用接点が追加されています。AFを利用するには、次の3点が必要です。
- Nikon F3AF専用ボディー
- AFファインダーDX-1
- 対応するF3AF用AFニッコールレンズ
この3つを組み合わせて初めて、オートフォーカスが作動します。
AFファインダーDX-1を搭載
Nikon F3AFを象徴する装備が、大型のAFファインダーDX-1です。
DX-1内部には2個のSPD受光素子を使ったTTL像偏位検出機構が組み込まれています。現在の表現ではTTL位相差検出方式にあたり、撮影レンズを通った光からピントのずれと方向を検出します。(Nikon)
中央の測距枠でピントを検出
ファインダー中央には、AFに使用する測距枠があります。
専用AFレンズのA-M切り替えを「A」にし、被写体を中央枠へ入れてシャッターボタンを半押しすると、レンズ内モーターが作動します。
ファインダー内には赤色LEDによって、次の状態が表示されます。
- 両方の矢印が点灯:合焦
- 左右いずれかの矢印が点灯:前ピンまたは後ピン
- 赤いXが点灯・点滅:測距できない、またはピント差が大きい
AF・フォーカスエイドの作動範囲は、ISO100で約EV4~20です。
合焦後はレンズの駆動が停止する
シャッターボタンを半押しするとAFが開始され、ピントが合うとレンズの駆動が停止します。
半押しを解除したあともAFと表示は最大約16秒間作動します。被写体が動いた場合には再びピント調整を行いますが、現代のAF-Cや被写体認識AFのような高度な追従機能ではありません。
専用レンズにはフォーカスロックボタンがある
専用AFレンズには、横位置と縦位置のどちらでも押しやすいよう、2つのフォーカスロックボタンが設けられています。
画面中央で被写体へピントを合わせ、フォーカスロックを押したまま構図を変更すれば、被写体を中央以外へ配置できます。ボタンを離すとAFが再開します。
AF対応レンズは2本
Nikon F3AFで正式にAF撮影へ対応する交換レンズは、基本的に次の2本です。
- AI AF Nikkor 80mm F2.8S
- AI AF Nikkor ED 200mm F3.5S(IF)
どちらも駆動モーターと電子回路をレンズ鏡筒へ内蔵しています。後年のボディー内モーター式AFニッコールとは仕組みが異なります。(Nikon)
AI AF Nikkor 80mm F2.8S
80mm F2.8は、人物、舞台、スナップなどに使いやすい中望遠レンズです。
後群だけを動かすリアフォーカス方式と、近距離での収差変動を抑える補正機構を採用。無限遠から1mまでのAF駆動時間は約0.6秒とされています。(Nikon)
光学性能にも力が入れられており、ニコンは高い解像力、コントラスト、収差補正を持つレンズとして紹介しています。単にAFを実験するためのレンズではなく、描写性能も重視した設計です。(Nikon)
AI AF Nikkor ED 200mm F3.5S(IF)
200mm F3.5は、EDガラスとインターナルフォーカスを採用した望遠レンズです。
大型のレンズ全体ではなく、一部の光学系だけを動かすことでAF負荷を軽減しています。無限遠から2mまでの駆動時間は約1.7秒です。(Nikon)
スポーツ、舞台、報道など、マニュアルフォーカスでは追いにくい望遠撮影をAF化することが、F3AF開発の大きな目的でした。(Nikon)
TC-16でMFレンズをAF化できる
F3AF用には、AFテレコンバーター「TC-16」も用意されました。
TC-16は焦点距離を1.6倍にするテレコンバーターで、内部のレンズ群をモーターで移動させます。対応するAIニッコールと組み合わせることで、本来はMF専用のレンズでも一定範囲のAF撮影が可能です。(Nikon)
ただし、AFできる距離範囲は限定されます。レンズ側で大まかにピントを合わせ、TC-16が最後の微調整を行う使い方が基本です。
後年のF-501やF4用には改良型のTC-16Aが登場しましたが、F3AF用のTC-16とは互換性や制御方式が異なります。
一般的なAIニッコールではフォーカスエイドが使える
DX-1は、専用AFレンズ以外でもピント検出機能を利用できます。
原則として開放F3.5以上の明るさを持つ対応AIニッコールまたはニコンシリーズEレンズでは、レンズのピントリングを手で回しながら、ファインダー内の矢印を目安にするフォーカスエイドが利用できます。
フォーカスエイドの使い方
- 被写体を中央の測距枠へ入れる
- シャッターボタンを半押しする
- 点灯した矢印の方向へフォーカスリングを回す
- 両方の矢印が点灯した位置で止める
- 構図を整えて撮影する
一部の広角、PC、マイクロ、ズームレンズなどは、開放F値がF3.5以上でもフォーカスエイドへ対応しない場合があります。レンズごとの対応は取扱説明書で確認する必要があります。
DX-1のファインダー視野率は約92%
DX-1はアイレベル式ペンタプリズムファインダーです。
視野率は約92%で、通常のF3用ファインダーが持つ約100%の視野率とは異なります。撮影結果には、ファインダーで見えていた範囲より少し広い部分が写ります。
ファインダー倍率は50mmレンズ使用時で約0.8倍、80mmレンズ使用時で約1.3倍です。露出情報、絞り値、ピント方向、合焦状態、測距不能警告などを確認できます。
フォーカシングスクリーンはDX-1へ内蔵
専用の固定式マットスクリーンがDX-1の底部へ組み込まれています。
通常のF3のように、ボディー側のフォーカシングスクリーンを交換する方式ではありません。DX-1を装着するときは、ボディー側へ通常のスクリーンを残さないよう注意が必要です。両方を同時に取り付けると、スクリーンを損傷する可能性があります。
DX-1を外して通常のF3用ファインダーを使用する場合は、対応するF3用フォーカシングスクリーンをボディーへ装着します。この状態では通常のMFカメラとして使えますが、DX-1を使わないためAFとフォーカスエイドは利用できません。
絞り優先AEとマニュアル露出
F3AFの露出制御は、基本的にNikon F3を受け継いでいます。
主な露出モードは次の2種類です。
- 絞り優先AE
- マニュアル露出
測光にはボディー内のSPD受光素子を使用したTTL中央重点測光を採用しています。測光回路がファインダーではなくボディー側にあるため、ファインダーを交換しても露出計を利用できます。
絞り優先AE
シャッターダイヤルを「A」へ合わせ、レンズの絞りリングからF値を選びます。
カメラが明るさを測定し、8秒から1/2000秒までの範囲でシャッター速度を無段階に制御します。
マニュアル露出
シャッターダイヤルから速度を選び、レンズ側で絞りを設定します。
使用できる速度は8秒から1/2000秒、B、Xです。ファインダー内の液晶には、露出の過不足と設定絞り値が表示されます。
電池切れ時は1/60秒とTが使える
F3AFの通常シャッターは電子制御式なので、ボディー電池がなければ絞り優先AEや通常のマニュアル速度は使えません。
ただし、緊急作動レバーを使用すれば機械式の約1/60秒、シャッターダイヤルのT位置では長時間露光が可能です。
ボディーとDX-1で別々の電池を使用
F3AFでは、カメラ本体とAFファインダーに別々の電池を使用します。
ボディー側
ボディー側には次のいずれかを使用します。
- SR44型銀電池2個
- LR44型アルカリ電池2個
- 3Vリチウム電池1個
露出計、電子シャッター、液晶表示などへ使用されます。
DX-1側
DX-1には単4形電池2本を使用します。
こちらはAF検出、フォーカスエイド、専用レンズの駆動などへ電力を供給します。ファインダー電池が消耗すると、AFが遅くなったり、途中で停止したりする場合があります。
ボディーが正常に作動していても、DX-1側の電池が切れていればAFは利用できません。
F3シリーズのシステム性を継承
F3AFは、F3シリーズの上級機能も受け継いでいます。
- ミラーアップ
- 被写界深度確認
- 多重露出
- 交換式裏蓋
- 電子式10秒セルフタイマー
- アイピースシャッター
- MD-4モータードライブ対応
- TTLダイレクトフラッシュ調光
手動巻き上げは予備角30度、巻き上げ角140度で、分割巻き上げにも対応しています。
フラッシュ同調速度は1/80秒以下です。対応するニコン製スピードライトでは、フィルム面反射光を測定するTTLダイレクト調光を利用できます。
Nikon F3AFの基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売年月 | 1983年4月 |
| カメラ形式 | 35mm電子制御式AF一眼レフ |
| 画面サイズ | 24×36mm |
| レンズマウント | Nikon Fマウント・AI方式 |
| AFファインダー | DX-1 |
| AF方式 | TTL像偏位検出・位相差方式 |
| AF受光素子 | SPD |
| AF検出範囲 | ISO100で約EV4~20 |
| AF対応レンズ | 80mm F2.8S・200mm F3.5S IF-ED |
| フォーカス方式 | AF・フォーカスエイド・MF |
| ファインダー視野率 | 約92% |
| ファインダー倍率 | 約0.8倍・50mm使用時 |
| 露出方式 | 絞り優先AE・マニュアル |
| 測光方式 | TTL中央重点測光 |
| フィルム感度 | ISO12~6400 |
| 露出補正 | ±2EV・1/3EV刻み |
| シャッター | チタン幕・横走り電子制御式 |
| AE時 | 8秒~1/2000秒・無段階 |
| マニュアル時 | B、X、8秒~1/2000秒 |
| 機械式予備速度 | 約1/60秒・T |
| フラッシュ同調 | 1/80秒以下 |
| フィルム巻き上げ | 手動レバー・MD-4対応 |
| セルフタイマー | 電子式・約10秒 |
| ボディー電源 | SR44/LR44×2など |
| DX-1電源 | 単4形電池×2 |
| サイズ | 約148.5×115.5×90mm |
| 重量 | 約950g・DX-1、電池込み |
主な仕様はNikon F3AFの取扱説明書に基づきます。
Nikon F3との違い
Nikon F3AFは通常のF3を基礎としていますが、AFシステムの追加によって外観と操作性が変化しています。
| 項目 | Nikon F3 | Nikon F3AF |
|---|---|---|
| ピント合わせ | MF | AF・フォーカスエイド・MF |
| 標準ファインダー | DE-2など | DX-1 |
| 専用AF接点 | なし | あり |
| 標準視野率 | 約100% | 約92%・DX-1使用時 |
| AF用電池 | 不要 | DX-1に単4形2本 |
| 対応AFレンズ | なし | 専用2本 |
| ボディー重量 | より軽い | 約950g・DX-1込み |
通常のF3は小型で視野率約100%のファインダーを使えることが魅力です。
F3AFは大きく重くなりますが、専用レンズによるAFと、一般的なAIニッコールでのフォーカスエイドを利用できます。
Nikon F4との違い
1988年に登場したNikon F4では、AF検出機構と駆動モーターをボディー側へ組み込み、一般的なAFニッコールをボディーから駆動する方式へ発展しました。
F3AFでは専用レンズがモーターを内蔵しており、使用できるAFレンズが限定されます。F4では交換レンズの選択肢、AF機能、露出制御、フィルム送りなどが大幅に拡充されています。(Nikon)
F3AFは完成された現代型AF一眼レフというより、Fマウントを維持したままプロ用一眼レフへAFを組み込んだ、重要な過渡期のモデルです。
F3AF用レンズの互換性に注意
F3AF用の80mm F2.8と200mm F3.5は、後年の一般的なAFニッコールとは電子接点と駆動方式が異なります。
ニコン公式の互換情報では、AF撮影へ対応する主なボディーは次の3機種です。
- Nikon F3AF
- Nikon F-501
- Nikon F4
それ以外のAF一眼レフ、F-601M、デジタル一眼レフでは使用できないと案内されています。(ニコンイメージングジャパン)
外観がFマウントだからといって、現代のニコンカメラへ装着してAF撮影できるわけではありません。ボディーとの組み合わせは必ず確認しましょう。
中古のNikon F3AFを購入するときの注意点
F3AF専用ボディーか確認する
通常のF3へDX-1を載せただけの組み合わせでは、AFは作動しません。
ボディー側にファインダー・レンズ用の電気接点があること、商品が専用F3AFボディーであることを確認しましょう。
DX-1の電池室
単4形電池室を開き、次の状態を確認します。
- 液漏れ
- 白色や緑色の腐食
- 接点の錆
- 電池蓋の破損
- 電源の瞬断
DX-1内部には測距回路があるため、電池室の腐食が内部まで進んだ個体には注意が必要です。
専用AFレンズの駆動
80mmまたは200mmを装着し、近距離、中距離、遠距離でAFを試します。
- モーターが作動する
- 距離目盛りが移動する
- 合焦すると停止する
- フォーカスロックが使える
- 異常な空転音がしない
- A-M切り替えが作動する
電池が弱いだけでもAFは遅くなるため、新品電池を使用して確認します。
DX-1のLEDとスクリーン
左右の矢印、合焦表示、赤いXが点灯することを確認します。
ファインダー内のカビ、クモリ、プリズムの腐食、スクリーンの傷も重要です。DX-1内蔵スクリーンは一般的なF3用スクリーンとは構造が異なります。
電子シャッターと液晶
絞り優先AEで明るい場所と暗い場所へ向け、シャッターの作動時間が変化するか確認します。
マニュアルでは8秒から1/2000秒までを試し、機械式予備速度の1/60秒も確認しましょう。ファインダー内液晶に文字欠けや極端な薄さがないことも重要です。
ボディーとファインダーの接点
DX-1底部、ボディー上部、マウント付近の接点に汚れや腐食がないか確認します。
F3AFは、ファインダー、ボディー、レンズの通信が途切れるとAFが作動しません。接点を金属工具で強く削ることは避けましょう。
モルトとフィルム送り
ミラー受けと裏蓋周辺のモルト、巻き上げレバー、スプロケット、巻き取り軸、フィルムカウンターを確認します。
テスト用フィルムを装填し、巻き上げと巻き戻しまで試すのが理想です。
Nikon F3AFはどんな人に向いている?
Nikon F3AFは、次のような人に向いています。
- ニコン初のAF一眼レフを体験したい人
- F3シリーズの特殊モデルを収集している人
- 初期のTTL位相差AFに興味がある人
- AI AF Nikkor 80mm F2.8Sを使いたい人
- DX-1のフォーカスエイドを利用したい人
- 1980年代の電子・光学技術が好きな人
- 重量やAFレンズの少なさも個性として楽しめる人
一方、豊富なAFレンズ、軽量なボディー、高速な動体追従を求める人には向きません。
実用性だけを比較すればF-501やF4のほうが扱いやすいものの、F3AFにはプロ用F3へAFを組み込んだ過渡期ならではの機械的・電子的な面白さがあります。
まとめ
Nikon F3AFは、1983年に発売されたニコン初の市販AF一眼レフカメラです。
Nikon F3をベースに、TTL位相差検出方式のAFファインダーDX-1と、モーター内蔵のAI AF Nikkor 80mm F2.8Sまたは200mm F3.5S IF-EDを組み合わせてオートフォーカスを実現しました。
専用AFレンズは2本だけですが、対応するAIニッコールではフォーカスエイドを利用でき、通常のマニュアルフォーカス撮影にも対応します。
露出機能はF3譲りで、絞り優先AE、8秒から1/2000秒の電子シャッター、TTL中央重点測光、TTLフラッシュ調光、MD-4への対応などを備えています。
中古で購入するときは、通常のF3ではなく専用F3AFボディーであることを確認し、DX-1の電池室、測距表示、専用レンズのモーター、電気接点、電子シャッター、液晶を重点的に点検しましょう。
正常に動作する個体なら、後のF-501やF4へつながるニコンAF一眼レフの出発点を、実際のフィルム撮影で体験できる歴史的な一台です。









