Canon Lens FD 85mm F1.2 Lは、35mm判のCanon FDマウント用に設計された大口径中望遠単焦点レンズです。
正式な製品名は「New FD85mm f/1.2L」。焦点距離85mmと開放F1.2の組み合わせにより、人物を自然な遠近感で捉えながら、背景を大きくぼかした撮影を楽しめます。
1980年に発売された初期のLレンズであり、研削非球面レンズを採用した高度な光学設計も特徴です。ただし、オートフォーカスや手ブレ補正は搭載していません。FDマウントのフィルム一眼レフでは、撮影者がファインダーを見ながら手動でピントを合わせます。
Canon Lens FD 85mm F1.2 Lとは
Canon New FD85mm f/1.2Lは、1980年3月に発売されたFDマウント用の大口径中望遠レンズです。
発売時価格は11万3,000円。レンズ構成は6群8枚、絞り羽根は8枚、最小絞りはF16です。最短撮影距離は0.9m、フィルター径は72mm、重量は680gでした。(Canon Global)
正式名称はNew FD85mm f/1.2L
中古市場では、次のような名称で販売されています。
- Canon FD 85mm F1.2 L
- Canon Lens FD 85mm F1.2 L
- New FD 85mm F1.2L
- NFD 85mm F1.2 L
正式にはNew FDレンズなので、初期のブリーチロック式FD85mm F1.2とは装着時の操作方法が異なります。
キヤノンは1979年から、従来の固定リングを回すFDレンズに代わり、レンズ本体を回して装着するNew FD方式へ移行しました。New FDでは装着操作を簡略化しながら、従来のFDマウントボディーとの互換性が維持されています。(Canon Global)
キヤノン初期のLレンズ
レンズ名の「L」はLuxuryを意味します。
キヤノンでは、蛍石、UDガラス、研削非球面レンズなどの特殊光学材料を使用した高性能レンズをLレンズとして展開しました。赤いラインは、その高性能レンズであることを示す外観上の特徴です。(Canon(Japan))
研削非球面レンズを採用
球面レンズでは、レンズの中央付近を通る光と周辺部を通る光が完全には同じ位置へ集まらず、球面収差が残ることがあります。
非球面レンズは面の曲率を複雑に変化させることで、大口径レンズで発生しやすい収差を補正する部品です。キヤノンはLシリーズへ大口径の研削非球面レンズを採用し、開放付近から高い描写性能を得ることを目指しました。(Canon Global)
当時の研削非球面レンズは、高精度な測定、研磨、組み立てを必要とする高度な部品でした。単にF1.2まで明るくしただけでなく、開放で実用できる画質を目指して作られたことが、このレンズの重要な特徴です。
焦点距離85mmの中望遠レンズ
85mmは、35mm判カメラでは中望遠に分類される焦点距離です。
50mm標準レンズより写る範囲が狭く、被写体へ適度な距離を取りながら、背景を整理した構図を作りやすくなります。
人物撮影に使いやすい画角
85mmは、人物の上半身、顔、屋外ポートレートなどに向いています。
広角レンズで近づいた場合ほど遠近感が強調されず、顔の中心と輪郭の大きさを比較的自然に表現できます。背景へ余計な物が入りにくいため、人物を画面の主役として見せやすい焦点距離です。
一方、室内では撮影距離を確保できず、人物全身を収めにくい場合があります。狭い場所でのスナップより、屋外や広めの室内に適したレンズです。
開放F1.2の大口径
New FD85mm f/1.2Lの最大の特徴は、開放F値がF1.2であることです。
一般的な85mm F1.8より大きな開口部を持ち、多くの光を取り込めます。
背景を大きくぼかせる
絞りをF1.2へ設定すると被写界深度が浅くなり、ピントを合わせた部分の前後を大きくぼかせます。
人物の目へピントを合わせ、背景の建物、木々、照明などを柔らかくぼかす撮影に向いています。背景との距離を大きく取るほど、ぼけは大きくなります。
ただし、F1.2ではピントの合う範囲が極めて狭くなります。顔へ合わせたつもりでも、まつ毛、瞳、耳のどこへピントがあるかで写真の印象が変わります。
暗い場所でも速いシャッターを選びやすい
F1.2では多くの光を取り込めるため、室内、夕方、舞台、夜間の照明下などでも、絞りの暗いレンズより速いシャッター速度を使いやすくなります。
ただし、このレンズには手ブレ補正がありません。暗い場所ではF1.2でもシャッター速度が不足する場合があるため、カメラを安定させる、高感度フィルムを使う、三脚を利用するといった対策が必要です。
マニュアルフォーカスで撮影する
New FD85mm f/1.2Lは、オートフォーカスを搭載していないマニュアルフォーカスレンズです。
Canon F-1、New F-1、AE-1、AE-1 Program、A-1、FTb、TシリーズなどのFDマウント一眼レフへ装着し、レンズのフォーカスリングを手で回してピントを合わせます。New FDマウントは、従来のFDボディーとの互換性を維持しながら着脱操作を改良した方式です。(Canon Global)
F1.2ではピントスクリーンの状態が重要
F1.2で撮影する場合は、ファインダーの見やすさが撮影結果へ大きく影響します。
スプリットイメージ、マイクロプリズム、マット面などを利用し、ピント位置を慎重に確認しましょう。ファインダーやフォーカシングスクリーンが曇っている個体では、細かなピントの判断が難しくなります。
交換スクリーンへ対応するNew F-1やAE-1 Programなどでは、明るいレンズやポートレート撮影に適したスクリーンを選ぶ方法もあります。
絞り開放でピントを合わせる
FDマウント一眼レフでは、通常はレンズを開放状態に保ったまま構図とピントを確認します。
シャッターを切ると、レンズが設定した絞り値まで閉じ、撮影後に開放状態へ戻ります。AE撮影を利用するときは、絞りリングを「A」位置へ設定します。
中古レンズでは、絞りリングがA位置へ固定できるか、ボディーと連動して絞り羽根が動くかを確認しましょう。
最短撮影距離は0.9m
New FD85mm f/1.2Lの最短撮影距離は0.9m、最大撮影倍率は0.12倍です。(Canon Global)
人物の顔、小物、花などへある程度近づけますが、マクロレンズのような接写性能はありません。
近距離補正を意識した設計
先代のFD85mm f/1.2 S.S.C. ASPHERICALには、近距離で発生する収差の変動を抑えるフローティング機構が採用されていました。
キヤノンは同レンズを、85mm望遠レンズとして初めて近距離補正機構を搭載した製品として紹介しています。開放から絞り込んだ状態まで、幅広い撮影距離で画質を維持することが目的でした。(Canon Global)
New FD85mm f/1.2Lも先代と同じ6群8枚構成ですが、公式仕様が同じだからといって、すべてのレンズ配置や部品が完全に同一であるとは限りません。
8枚羽根の絞りを採用
絞り羽根は8枚で、設定範囲はF1.2からF16です。(Canon Global)
F1.2付近では絞りの開口部が大きいため、背景にある点光源を大きなぼけとして写せます。絞り込むにつれて、ぼけの形には絞り羽根の形状が現れやすくなります。
F1.2だけでなく絞り込んでも使える
大口径レンズというと、常にF1.2で使うイメージがありますが、F2.8やF4へ絞ることでピントの合う範囲が広がります。
人物の両目へピントを合わせたい場合や、服装、背景、周囲の状況も含めて記録したい場合は、ある程度絞ったほうが撮影しやすくなります。
F5.6やF8では風景、舞台、商品撮影などにも利用できます。F1.2は選択肢の一つであり、必ず開放だけで使うレンズではありません。
680gの重量級レンズ
本体サイズは最大径80.8mm、全長71mm、重量は680gです。フィルター径は72mmとなっています。(Canon Global)
85mmレンズとしては太く重く、金属製のFD一眼レフへ装着すると、ボディーとレンズを合わせた重量が1kgを超えることも珍しくありません。
レンズ側も支えて構える
撮影時は右手だけでカメラを持たず、左手でレンズの下側を支えます。
左手で重量を受けながらフォーカスリングを操作すると、手ブレを抑えやすくなります。持ち運ぶ際もカメラだけを持って振り回さず、レンズとボディーの両方を支えたほうが安全です。
三脚へ取り付ける場合は、雲台を確実に固定し、前方へ大きく傾かないようバランスを確認しましょう。
New FD85mm f/1.2Lの基本スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 正式名称 | New FD85mm f/1.2L |
| 発売年月 | 1980年3月 |
| 発売時価格 | 113,000円 |
| 対応形式 | 35mm判 |
| レンズマウント | Canon FD・New FD |
| 焦点距離 | 85mm |
| 開放絞り | F1.2 |
| 最小絞り | F16 |
| レンズ構成 | 6群8枚 |
| 絞り羽根 | 8枚 |
| 最短撮影距離 | 0.9m |
| 最大撮影倍率 | 0.12倍 |
| フィルター径 | 72mm |
| 最大径 | 80.8mm |
| 全長 | 71mm |
| 重量 | 680g |
| ピント合わせ | マニュアルフォーカス |
| オートフォーカス | 非対応 |
| 手ブレ補正 | 非搭載 |
主な仕様はキヤノンカメラミュージアムに基づきます。(Canon Global)
先代FD85mm F1.2 S.S.C. ASPHERICALとの違い
1976年には、先代にあたる「FD85mm f/1.2 S.S.C. ASPHERICAL」が発売されています。
先代はブリーチロック式の旧FD鏡筒を採用し、レンズ後部の固定リングを回して装着します。New FD85mm f/1.2Lでは、レンズ本体を回して装着するNew FD方式へ変更されました。(Canon Global)
| 項目 | FD85mm F1.2 S.S.C. ASPHERICAL | New FD85mm F1.2L |
|---|---|---|
| 発売年 | 1976年 | 1980年 |
| マウント操作 | ブリーチロック式 | New FD式 |
| レンズ構成 | 6群8枚 | 6群8枚 |
| 絞り羽根 | 9枚 | 8枚 |
| 最短撮影距離 | 1m | 0.9m |
| 最大撮影倍率 | 0.1倍 | 0.12倍 |
| フィルター径 | 72mm | 72mm |
| 重量 | 756g | 680g |
| 表記 | S.S.C. ASPHERICAL | L |
New FD版は、先代より約76g軽く、最短撮影距離も1mから0.9mへ短縮されています。(Canon Global)
ASPHERICALからL表記へ
先代では、非球面レンズを採用していることを示す「ASPHERICAL」がレンズ名へ記載されていました。
New FD世代では、特殊光学材料と高度な設計を採用する高性能レンズが「L」として整理されます。LはLuxuryを意味し、後のEF・RFレンズにも続くキヤノン高性能レンズの名称となりました。(Canon(Japan))
EF85mm F1.2Lとの違い
1987年にEOSシステムとEFマウントが登場したあと、1989年にはEF85mm f/1.2L USMが発売されました。
EF版はオートフォーカス、電子絞り、EFマウントを採用した別設計のレンズです。New FD版をEOSボディーへそのまま装着することはできません。(Canon Global)
| 項目 | New FD85mm F1.2L | EF85mm F1.2L USM |
|---|---|---|
| 発売年 | 1980年 | 1989年 |
| マウント | FD | EF |
| ピント | マニュアル | オートフォーカス |
| 絞り操作 | レンズ側リング | ボディーから電子制御 |
| レンズ構成 | 6群8枚 | 7群8枚 |
| 最短撮影距離 | 0.9m | 0.95m |
| 重量 | 680g | 1,025g |
EF版は後継的な位置づけですが、マウント、操作方法、光学設計は別物です。
ミラーレスカメラで使用する場合
New FD85mm f/1.2Lは、FDマウントアダプターを介して一部のミラーレスカメラへ装着できます。
これは、ミラーレスカメラが一眼レフより短いフランジバックを持つため可能になる使い方です。ただし、組み合わせるボディーとアダプターの仕様を確認する必要があります。
一般的には、次の機能は使用できません。
- オートフォーカス
- 電子接点によるレンズ情報通信
- 自動レンズ補正
- ボディーからの絞り操作
- 撮影データへのレンズ名・絞り値の自動記録
ピント拡大表示やピーキングに対応するミラーレスカメラでは、フィルム一眼レフよりF1.2のピントを確認しやすい場合があります。
一方、FDレンズを一眼レフ用EFマウントへ変換すると、無限遠を維持するため補正レンズが必要になることがあります。補正光学系の品質によって描写が変化するため、単純な機械式アダプターと混同しないようにしましょう。
中古のCanon FD 85mm F1.2 Lを購入するときの注意点
非球面レンズを含む光学系
前玉と後玉を光へ向け、次の状態を確認します。
- カビ
- 白いクモリ
- バルサム切れ
- 強い拭き傷
- コーティングの傷み
- 内部の大きなゴミ
- レンズ端部の変色
大口径レンズはガラス面が大きく、強い光を当てると微細なチリが目立ちます。少量のチリだけで撮影へ大きく影響するとは限りませんが、全体を覆うクモリはコントラスト低下やフレアの原因になります。
絞り羽根の油
絞り羽根に油が付着していないか確認します。
油が付いた羽根は動きが遅くなり、設定値まで閉じない場合があります。FD一眼レフでは撮影の瞬間に絞り込むため、動作が遅いと露出過多につながります。
絞りリングをF1.2からF16まで操作し、ボディーへ装着して撮影時の動きも確認しましょう。
フォーカスリング
フォーカスリングを最短0.9mから無限遠まで回します。
適度な重さを保ちながら滑らかに動くことが重要です。途中で引っかかる、極端に重い、部分的に軽くなる場合は、ヘリコイドグリスの劣化や内部部品の変形が考えられます。
大きく重い光学系を動かすため、一般的な50mmレンズよりフォーカスリングを重く感じる場合があります。
New FDマウントのロック
レンズを対応ボディーへ装着し、最後まで回って確実に固定されるか確認します。
ロックボタンが戻らない、装着後に大きながたつきがある、取り外しが極端に固い個体には注意が必要です。
リアキャップを装着した状態では、絞りやマウントレバーの一部が通常とは異なる動きをする場合があります。無理にレバーを押したり、工具で操作したりしてはいけません。
前玉とフィルター枠
前玉が大きいため、傷や接触跡がないかよく確認します。
72mmフィルターを取り付け、ねじ山が変形していないことも確認しましょう。落下したレンズでは、外観上の傷が少なくてもフィルター枠がゆがんでいる場合があります。
内蔵フードではない
New FD85mm f/1.2Lには、別売りの専用フードが用意されます。
中古品ではフード、前後キャップ、ケースが欠品していることがあります。逆光時のフレアを抑えるだけでなく、大きな前玉を衝撃から守る意味でもフードは有用です。
無限遠と実写ピント
レンズをボディーへ装着し、無限遠の被写体でファインダー上のピントが合うか確認します。
可能であればF1.2で近距離と中距離も撮影し、狙った位置へピントが来ているか確認しましょう。
フィルム一眼レフでは、レンズだけでなくミラー、フォーカシングスクリーン、フィルム面の位置ずれによってもピント誤差が生じます。
Canon FD 85mm F1.2 Lはどんな人に向いている?
Canon New FD85mm f/1.2Lは、次のような人に向いています。
- FDマウントのフィルム一眼レフを所有している人
- 人物撮影を中心に楽しみたい人
- F1.2による浅い被写界深度を使いたい人
- マニュアルフォーカスを丁寧に操作できる人
- 初期のCanon Lレンズを収集している人
- 研削非球面レンズに興味がある人
- ミラーレスカメラでFDレンズを使いたい人
- 重量より描写と大口径を重視する人
一方、軽量なレンズ、素早いオートフォーカス、手ブレ補正を求める人には向きません。
動き回る子どもやスポーツをF1.2で追い続けるより、人物へポーズを取ってもらい、ピントを慎重に合わせる撮影に適しています。
まとめ
Canon Lens FD 85mm F1.2 Lの正式名称は「New FD85mm f/1.2L」です。
1980年に発売され、6群8枚の光学系、研削非球面レンズ、開放F1.2、最短撮影距離0.9m、72mmフィルター径を採用。重量680gの大口径中望遠レンズとして、初期のCanon Lシリーズを代表する一本です。(Canon Global)
先代FD85mm f/1.2 S.S.C. ASPHERICALからNew FD方式へ移行し、重量を抑えながら最短撮影距離を短縮。Lという名称と赤いラインは、その後のEF・RFレンズへ受け継がれました。
中古で購入するときは、カビやクモリ、非球面レンズを含む光学系、絞り羽根の油、フォーカスリング、New FDマウント、フィルター枠を確認しましょう。
正常に整備された個体なら、85mmらしい自然な人物表現と、F1.2による大きなぼけ、マニュアルフォーカスでピントを追い込む撮影体験を味わえる一本です。









